じこ報告書 -58ページ目

渓谷

連なる山並みの最も高い場所。
そこに噂の渓谷は存在していた。

麓から続いていたなだらかな斜面は、突如現れる絶壁により、その経路を寸断される。





深い。







深い。









深い。











…想像を超越する深さは、眺めているだけで軽い眩暈と鈍い苦痛を与える。

しばらくすると、枯渇していたはずの山肌から流水が滲み出て来るのが分かる。



その色は赤く…



朱く…



紅い。





苦痛に顔が歪む。

オレは近くに置いてある薬を手に取り、念入りに患部に塗り込んでいった。

手洗いの頻繁な職場+今季から機会が増大した自宅での炊事。
冬の手背の肌荒れは尋常ではない。

数多に広がる亀裂は、オレの心体を弱らせるのに十分のようだ。