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櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

【可塑的かそ・てき】思うように物の形をつくれること。 塑造できること。
主にラブイチャ系よりは切ないネガ多めです。
※このブログにある物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

風呂から上がってリビングへと戻ると、潤さんは俺の足音にも気が付かない様子でずっとディスプレイを眺めて続けていた。

自分じゃない何者かに心を奪われてんのが面白くなくて。

つか、今夜ぐらいは俺だけを見てよ。

そんな不条理な理想を掲げながら、そっと潤さんのうなじに唇を寄せる。

 

「潤さん」

 

潤さんが欲しい。

んでもって、もっと潤さんと気持ちを通い合わせたい。

目と目を合わせて、想いを重ねて。

この広い広い世界に二人だけの世界を作り出したい。

 

「珈琲っ、飲むだろ?今入れるから」

「あぁ、うん」

 

それなのに潤さんはあっさりと俺から距離をとる。

手渡されたカップからはすげぇいい香りがして、一口含めば温かい。

それはいとも簡単に、寂しかった心の隙間を埋めた。

だけどその表面を眺めていたら、どこまでも情けない自分の顔を段々と鮮明に映し出し、そんな自分を見たくなくて急いでまたカップに口を付けた。

 

なんでだろう。

一人でいる時の俺は、ちゃんと踏ん張り、しっかりと立てていると思うのに。

この人を前にすると一気にへなへなと体に力が入らなくなって。

それからキュッと目頭が痛くなって。

口元だってゆるゆるになっちゃって。

 

「翔?」

 

そう首を傾げられただけで俺は。

持っていたカップをテーブルの上に乗せて彼の胸の中へと飛び込んでいた。

それから少しして、ふんわりと潤さんの掌が俺の背中に触れて、そしてその腕の力が強くなっていって。

 

「潤さん、」

「うん?」

「潤さん、」

「なんだよ」

 

訳もなく潤さんの名前を連呼する俺に、潤さんはそう言ってどこか心配そうにほほ笑んだ。

 

違うんだ。

俺はさ、あの時のことを今ふと思い出してんだよ。

あの時のことってのはさ、あの夜のことだよ。

そう。

潤さんと初めてシた夜のこと。

 

『おまえはいつだって、どこか自分に自信なさそうで臆病なとこがあるけど全然そんなことないから。おまえの真っすぐ過ぎなところとか、真面目過ぎなところとか、なのにどこか真逆なところとか、そういうの全部ひっくるめて俺もおまえのことが好きだから』

 

俺はこの人のこの言葉に、今までどれほど救われてきただろう。

いつだって自信がなくて、いつだって自暴自棄だった俺を潤さんがただ一人、全うにしてくれた。

 

初めてあんたと一つになれたあの時、あの瞬間。

俺がどれほど幸せだったかあんたに分かるか?

その後もあんたは俺のことを気にかけてくれて、優しく接してくれて。

 

すげぇ大切にされてるって感じた。

だから俺は、あんたから愛されてるっていう自信に満ち溢れてもいた。

 

そして今さ、なんか一気にあの頃に戻ったような感覚なんだ。

その後にどんなに辛いこととか悲しいこととか、これでもかってぐらいの絶望感を味わうことになろうとも。

あの時の俺と今の俺は、不思議と同じ気持ち。

 

「なぁ、シよ?」

「ぶっ、おまえなぁ」

「なんだよ」

「ほんと、出会ってからずっとソレばっかだな」

「悪いかよ」

 

だって仕方ねぇじゃん。

あんたと最も気持ちを繋げる方法を、俺は他に知らねぇんだからさ。

 

「そうじゃないけど」

「じゃあ潤さんはシたくねぇのかよ」

「なんだよそれ」

 

恥ずかしそうにフイっと俺から顔をそむける潤さんの頬に噛みつく。

 

「痛っ!おまえなにすんだっ、」

 

潤さんがちゃんと俺の方を見ないから悪いんだ。

そうやっていっつもいっつも、違う方ばっか見やがって。

 

「翔~、泣くなよ」

「泣いてねぇわっ!」

「泣き虫だな」

「だから泣いてねぇってばっ!」

 

だぁぁっ!

あっさり売られた喧嘩を買ってしまう俺。

こんなことをしたかった訳じゃないのに、この純粋な気持ちをどうしてくれるんだ。

 

「冗談だよ」

「なんなんだよ、マジで」

「ごめん、ちょっと…年甲斐もなくさ」

「年甲斐もなくなんだよ」

 

思いっきり不貞腐れ気味にそう聞けば、潤さんは少しだけ頬を赤らめながら、

 

「照れた」

 

そう言った。

 

 

 

 ※ディスプレイを眺めていた大人潤さんが何を考えてたのかは、前回のお話の通り(笑)