「分かった。俺が先に住むっ!」
「は?」
「つか引っ越しって言ったって、俺別に実家から持ってくるもん服とか靴しかねぇし」
それにさ。
別になんもなくったって潤さんは…、
「俺がここにいれば、それでいいんだろ?」
「…そんな問題か?」
「なんの問題もないっ」
だからさ、潤さんはゆっくり越してきてよ。
俺なら一人でだって待てるし。
じゃなきゃいつまで経っても一緒に住めねぇし。
それに、このまま時間だけが経って、やっぱり一緒に住むのはやめようなんておかしな流れになっていくのも嫌だし。
「ちょっと待て、もう1つだけ聞きたいことがある」
「ん?どうしたの?」
「実は…、さ」
その後潤さんの口から出てきたのは、俺の所属している事務所から俺らの交際を禁止されてるっていうことだった。
なんでも俺が潤さんとはもう会わないと言った音声まで聞かされて念押しされたらしい。
マジでこの世界は自分の知らないところで四方八方から圧力かけてきやがって。
俺らが全然上手くいかないのって、もしかしたらそういう要因が大半を占めてんじゃねぇの?
つか、潤さんも潤さんだよ。
そんな風に事務所から牽制されていたくせに、よく俺と一緒に住もうなんて決めたな。
思わず俺がそう言うと、
「悪い、こればっかりは勢いだった…」
なんて潤さんはばつが悪そうに俯いた。
まぁ…今思えば潤さんのその勢いのおかげで、俺らは今でもこうして一緒にいられてるのかもしれねぇけど。
「つかさ、事務所のことはなんの心配もいらないよ」
「なんでだよ」
「うーん、知念が一番の理解者だし…、それに」
「ん?」
「同じ事務所のほとんどのタレントがそうやって上から圧力かけられてるみたいだけど、誰も言うこと聞いてる奴いねぇから」
苦笑しながら俺がそう言うと、
「……マジ……かよ…」
芸能界の世界はマジで分からねぇってそう呟きながら、だけど潤さんはホッとしたように大きなため息をついて。
もしかするとこの人ってば真面目すぎるとこあるから、俺が想像していたよりもずっとずっと悩んでたりして。
だとしたら…意地なんて張ってる場合じゃなかったな。
「もう他にねぇの?悩んでることあるんならこの際スッキリさせようぜ」
「他……ねぇ、」
潤さんは俺がそう言うとボンヤリと上を見つめて。
そして、
「おまえはどうなの」
って、ただ静かに。
そんな風に問いかけられて。
だけど俺には正直、潤さんがなんのことを言ってるのかよく分からなくて。
「ん?」
首を傾げて聞き返す俺に潤さんは、少しだけ耳をピンク色にさせて、そしてちょっとだけ照れたように。
それから、とてつもなく真剣な瞳で真っすぐに俺を見据えて。
「俺のこと、どう思ってるんだよ」
なんて言いだすもんだから、俺ってば思わず盛大にニヤけちまったじゃねぇかよ。
だけどそう聞いてくれたことが嬉しくて。
だってそれってさ、俺のことすげぇ好きってことだろ。
「潤さんっ!」
そう、勢いよく彼に飛びかかって、息がかかりそうなぐらいの距離で潤さんのことを見つめ返す。
「俺もっ!すげぇ好き!」
そう言えば、潤さんはこの上なく柔らかい表情で微笑んで。
そして俺の頭のてっぺんに顎を置いた。
「いたっ、いたたたっ、ちょっ顎の骨が頭に刺さって痛てぇっ」
そう暴れる俺のことを潤さんはますますぎゅっと抱えて離してくれなくて。
だけどなんだろう。
このやりとりで、俺の心臓が急にバクバクし始めて。
この先のことにどこか期待してんのかもしれない、なんてそう思った時。
「おまえ昔は髪の毛、唐揚げの匂いぷんぷんさせてたのに」
「へ?」
「今じゃすげぇいい匂いさせてんだな」
「なんだよそれ」
「生意気」
そう言って潤さんが笑うから。
ちょっとばかしデリカシーないなって思いながらも、潤さんが楽しそうなら別にいいやって。
「ふはっなんだよそれ」
「いっちょまえに色気づきやがってって意味だよ」
「またまたぁ、妬いてんだろ?」
「ふっ、そうかもな」
なんでか俺まで楽しくなって、しばらく二人で一緒に笑っていた。