僕が僕のすべて253S | 櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

【可塑的かそ・てき】思うように物の形をつくれること。 塑造できること。
主にラブイチャ系よりは切ないネガ多めです。
※このブログにある物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

モヤモヤしたものを胸に抱きながらも、約束通り頼まれごとを引き受けた理由は他のなんでもない、それを理由に会いに行けるから。

それは、すぐにでも潤さんに会いたいという気持ちを最優先した結果で、じゃなきゃ潤さんが食べたいというものならともかく、その会社の女の子達に渡すなんてものをわざわざ時間を割いてまで買いにいくはずがない。

だけど潤さんは、そんな俺の気持ちなんて知る由もない。

 

「え?」

「えって?」

「いや、……実家?」

「……そうだけど?」

「なんでっ?」

 

いや、俺は仕事のせいで引越しできなかったけど、そこは潤さん一人ででも先にやるもんじゃねぇの?

だってその日からその部屋は潤さんが自由にできるんだよ。

そういう契約じゃん。

それなのに何故いまだに実家?

 

「だってあの部屋は俺だけの部屋じゃねぇじゃん」

「いや、とはいえ…潤さんが世帯主じゃん」

「世帯主って…、二人で住もうって二人で探して選んで決めた家だろ?それなのになんで俺だけが先に住まなきゃならないんだよ」

 

潤さんってば、あの家のことをそんな風に思ってくれてたんだ。

……って、無駄に感動してる場合じゃねぇ!

これからは誰の目も気にせず二人きりで過ごせるってそう思って、だからこそ俺はそれを糧になんとか気力で仕事して…ようやくまた東京に帰ってきたというのに。

 

実家じゃあ、どうせまた潤さんの親戚一同が次から次へと部屋に訪ねてきて、キスすらまともにできねぇじゃん。

 

「でも…、」

「あ、おまえ、なんかヤらしーこと考えてんだろ」

「はっ!!?…なわけっ!」

 

図星だ。

図星だけど、今はまだ図星だと悟られたくない。

だけど、あぁ!こんな時なんて言うのが一番スマートなんだ。

 

「実家じゃ不満か?」

「不満じゃねぇけどさぁ」

「けど?」

「俺の次のオフ待ってたら……いつまでたってもあの家には住めねぇよ」

 

とんでもないことを口走ってるってことは自分でも理解してる。

これじゃあまた約束をぶち壊すって宣言してるようなものだ。

だけどこれだけは俺にはどうやったってコントロールできないってのも事実で。

つまり自分が、まだまだペーペーの俳優だって思い知らされ打ちのめされてて。

これがもし智くんだったらって。

智くんぐらい実力があったらって。

きっと池念だってオフの日に仕事なんて入れないはずだって。

 

ああ!

くそ!

比べる時点で負けてるって、自分でも良く分かってんのに!

 

「分かったよ…じゃあ今から行くよ」

「いいよ、迎えに行くから待ってろ」

「……サンキュ、悪いな」

「なに言ってんだよ、礼を言うのはこっちだろ。仕事なのに買い物なんて頼んで悪かった。ありがとう翔」

 

マジでずりぃよこの人ってば。

いつだって我儘を言ってるのは俺ばっかじゃん。

土産を買ってきてくれって言葉も、実家に来てくれって言葉も、潤さんの言葉はちっとも我儘にはならない。

なんでだよ。

なんでいつも俺ばっか。

 

それから暫くすると、潤さんから到着の通知が来て。

家から出ると運転席に座る潤さんがこちらに振り向き小さく手を上げた。

最近じゃずっと電話ばっかだったから久しぶりに顔が見られて……、なんだろすげぇ胸が苦しい。

そんなことを思うのもやっぱり俺ばっかなのかな。

潤さんは?

やっぱりどこか俺とは見てる視点が違ってんの?

 

それとも。

少しは会えて嬉しいって、思ってくれてる?

 

 

 

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