"俺が日本に戻ったら二人で住む家探して、その鍵付けような"
そう、にっこりと弧を描く薄い桃色の唇と、細くなる瞳がすげぇ綺麗で。
幸せなんだけど。
それはもう絶対なんだけど。
でもなんでかな。
どうしたってやっぱり、怖くもなるんだ。
心臓が鷲掴みにされるみたいに痛い。
できることならここに引き止めておきたい…なんて。
でないと彼はまたすぐに異国へと戻ってしまうから。
その間に何も起きないなんて確証もないし。
それに自分以上に彼は…。
いくら年上だからとはいえ、極度な寂しがり屋でもある。
「どうしたんです?」
「んー?」
「誕生日の後はずっとニヤニヤしっぱなしだったのに、最近じゃ浮かない顔ばっかり」
「別に…、」
ここまできて愛だの恋だのに現を抜かしてる、なんて知れたらきっと説教どころじゃないのは目に見えている。
いや俺だってさ、それとこれとは別だって分けて考えてはいるけどさぁ。
頭では分かっていても心がついていかないっつーか…、なんだかんだで苦しいんだよ。
「一緒に住むんでしょう?だけど事務所的には色恋沙汰はご法度なんですからね?そこのところはちゃあんと理解はできてますよね?」
「それは…分かってる」
実際のところ潤さんと一緒に住むことが池念にバレたのは、浮かれすぎた俺がうっかり口を滑らせたことが原因ではあるが…。
そのことについて池念が目を瞑ってくれたことに関してはホッとしたけれど、逆にそのことで益々頭が上がらなくなってしまった。
まぁ俺だって、相手が池念だったから気が緩んだ訳であって、また同じような過ちを繰り返すことは絶対にないって言い切れるけど。
まぁ、心配にはなるよな。
その気持ちは分からなくもない。
「あなた達の関係性を強めるも壊すも……恐らくは佐倉井さん、あなた次第なんでしょうから」
「俺…次第?」
「そうです。だからほらっ、あなたがもっとしっかりしないと!」
そう言って池念は無理矢理俺の両肩を掴み背筋を伸ばそうとする。
だけどそのおかげか、なんだか視界が広がったというか……、すっきりと目が覚めたというか。
「そう、そんな風に背筋を伸ばしてしっかりと前を向いてください」
潤さんが帰国するまで残りあと2週間弱。
彼は彼でぎゅっと詰まったスケジュールの中で動いていて、勿論のことこちらとの時差だってある。
実際のところコミュニケーションなんてものはそこそこしかとれてなくて、だけど……。
俺は俺にできることを淡々とこなして、あんたとの最高に輝いた日々を迎え入れる日を想像しながら……。
うん、どんだけでも待つよ。
そう思えるのもきっと、あの日潤さんが俺との時間を作ってくれたから。
あれがなかったら今頃へこたれてたのかもしれない…なんて、そう考えると我ながらなんて情けない男なんだと苦笑する。
だけどバカだなんて笑うなよな。
俺だってあんたに見合う男になるために、これでも結構必死なんだぜ?
「さっ、リハの後すぐに本番です。もちろんセリフは頭に入ってますよね?」
「あったりまえ」
「ふふ、そうでなくちゃ。ではそろそろ向かいましょうか!」
「うん、行こう!」
そうだ。
俺は、俺の信じた道を。
ただただ真っ直ぐに進むのみ。
いざすすめぇ~~~っ