店に入った瞬間から、他所の客の視線が釘付けになったことが分かった。
カウンターに腰かけた途端、そのうちの二人組の客がさっとルイに歩み寄り声をかける。
「ねぇなんていう名前?」
「……ルイ…、」
「へぇルイくんって言うんだ~。ルイくんってフリー?ね、フリー?」
戸惑う様子に、可愛い、可愛いと連呼して言葉巧みにルイを誘う。
そんなルイは助けを求めるような顔で俺を見てきたけど、、、しーらね。
大体、行きつけの店とか回りくどいんだよ。
どうせゲイバーを体験してみたかっただけだろうが。
所詮別世界のエンターテイメントとでも思ってんだろ、おまえらノンケは。
だからあんな、、、、。
ふと、視線を横に向けると、
「…………、」
容赦なくベタベタと触られて今にも泣いてしまいそう。
しょうがない。
可哀想だからそろそろ助けてやるか。
ベリっと粘着質な奴らの腕の中からルイを剥ぎ取って、その小さな頭を自分の肩に寄せる。
「盛り上がってるとこごめんね~、こいつノンケだからさ」
睨みを利かせた瞳でにっこりと微笑んで見せれば、
「あっ、、、ちょっと絡みすぎました…すいません、」
なんて、こちらにまでその焦り具合が伝わってくるよう。
俺がコイツの知り合いだなんて思わなかったんだろう。
そりゃそうだ。
こいつのこと、めちゃくちゃ放置してたし。
つか、それよりもなによりもだ。
「ルイ、おまえ絶対この店一人で来るなよ」
「え、」
「誰にでもフラフラついて行っちゃいそうじゃん。食い散らかされるのがオチだから」
そう言って頭をポンポンと優しく叩いたつもりだったのに、
「誰にでもついていかねぇし!」
キッと牙を向くように俺の手はルイによって払いのけられた。
あの日ルイのハジメテを奪ったのは俺。
罰ゲームで連れてこられたこいつをズブズブに抱き潰した。
それ以来こいつがいわゆる「売り専」通いをしていたって話は他所から聞いて知っていた。
まぁ、病みつきにしてしまった俺にも責任はあるんだと思っていた。
「誰とでもセックスしてたくせに」
そんな嫌味にも似た言葉にルイは表情を強張らせ、
「あんた…性格悪いよ」
そう言った。
はっ、そんなん上等じゃん。
なんで俺がおまえに媚びる必要があるんだよ。
「でも、カラダはいいんだろ?」
むしろ俺の方がおまえよりも立場は上。
ほら、顔真っ赤にしちゃって、なんも言い返せない。
そんな時だった。
長身で目鼻立ちの整った男が、
「あれ?ルイくんじゃない?」
そう言ってルイの肩を抱き寄せる。
ルイはその男の顔を確認すると、どこか表情をふっと緩ませたのが見て取れた。
「最近来てくれなかったから淋しかったよ。何度も指名してくれてたのに。ルイくんのこと最後まで開発してあげるからまたお店きてね」
ちょ、コイツ。
まさかの本指名してたのかよ。
てっきりフリー予約だけだと思ってた。
おまえがもう一度会いたかったタチは、俺だけじゃなかったのかよ。
「ルイ、もう満足しただろ。そろそろセックスしに行くぞ」
「えっ、」
勢いよく椅子から立ち上がりルイの腕を引き上げ強引に店から引っ張り出した。
あぁ、夜風が気持ちいい。
なんて清々しい気持ちになれないのはなんでだろう。
「おまえっ、店の中でなんでああいうこと言うんだよ!」
ズンズンと早歩きで進む俺の後を必死に追いながら、ルイは息を切らしながら憤慨している。
「今晩の相手探してるやつばっかだよ、あの店は」
「ちょ、待ってって、」
「おまえ以外誰も気にしてねぇんだよ」
「もう少しゆっくりっ、歩けってばっ、」
「はぁ……、めんどくせぇなノンケは」
「えっ、うわっ」
力任せに手首を掴む。
マジで細っせえ。
ちゃんと飯食ってんのかよ。
どうせ酒ばっか飲んだくれてんだろうなって…何の心配してんだ俺は。
「今日はホテルでいいよな?」
そう言って、通りにあった適当なホテルにルイを連れ込んだ。