俺の知らないところで随分と仲良くなってんだなぁ…翔とその子は。
仲良くバイトして、その後も一緒にスーパーに買い物にでも行ったのだろうか。
それから、うちで一緒に作ろうよ、なぁんて言われていそいそと寄り道したんだろう。
それにしても持って帰ってきた肉豆腐…めちゃくちゃ美味かった。
ある意味、翔じゃなくてその子が作ったものなんじゃないか?と疑う俺は自分で思うよりも心が狭いのかもしれない。
少しでも潤さんの手助けがしたいから、翔はそう言っていたけれど、俺は別に料理をするのが嫌いなわけじゃないし、作ったものを気持ちのいいほど翔のやつが綺麗に平らげてくれるからやり甲斐を感じてもいる。
だからこんなことしなくてもいいんだぞ?なんて、料理を作って他人をもてなすことをとてつもなく嬉しそうにする翔に言えるはずもなく。
だけど本当の理由はそんなことなのかな。
翔とその子の仲が深まることを面白くないと、俺は心のどこかで思ってるのかもしれない。
もしそうだとしたら、そんなことを願うだけ無駄だってのも分かってる。
だってもしかしたら、俺よりその子と一緒にいる時間の方が長いんじゃない?
バイトでも一緒なのにさ、そのあとにのんちにまで行かなくていいんじゃないの。
そんなにその子と一緒にいたい?
それならもう、いっそのことおまえもにのに飼ってもらえば?
だってにのは、おまえのことを引き取って面倒みる覚悟までしてたぐらいなんだからさ。
なんだかんだで、頼み込めば了承してくれんじゃねぇの。
あどけない顔で眠る翔。
このソファは今じゃもう翔の寝床だから、俺が映画を観る時にはどうしても邪魔してしまうんだけど。
それでも文句の一つも言わず、それどころか甘えて俺の膝の上に頭を乗せてきて満更でもなさそうにする。
始めのうちは一緒に画面を眺めていたはずなのに、やけに静かだなぁと思って視線を落とせば気持ちがよさそうにすやすや眠ってて。
疲れてんだろうなぁ…、そう思いながらその柔らかい髪をかき上げおでこをむき出しにすると、途端にぐっと眉間に皺が寄った。
寝てる時まで、小難しいこと考えてんだろうなぁ。
こいつの頭ん中、一度でいいから覗いてみたい。
きっとぶっ飛んでるんだと思う。
ジュース吹っ飛ばしてきて、見ず知らずの俺に「泊めてくれ」なんて、かなり感覚にズレを感じるし、歳だってめちゃくちゃ離れてるし、話しだって合わないぐらいの歳の差なのに、潤さん潤さんってじゃれついてきてすっかり懐いてしまった。
そんな翔のこと…、可愛くないなんて思うわけがないよな。
いや、むしろ…、可愛いとさえ思っちゃってんだよ、俺。
つんと頬を指でつつくと、ポリポリと頬っぺたを掻きむしって、今度は鼻の頭を指でつつくと、ヒクヒクと二回小鼻が動いた。
そのままぐっすり眠る翔の顔を見下ろしていたら、段々と吸い寄せられるように俺は…翔の額にひとつだけキスをして。
それでも目を覚まさない翔にホッとする半面、どこか物足りなさも感じて。
って…、目を覚ましたこいつと、俺は一体何がしたいというんだ。
なぁ、とりあえずその子と進展があるまでは、俺との時間を優先しろよ。
とはいえ、そんな時間なんて一緒に夜飯を食うことと、映画を観たりすることぐらいしかないんだけどさ。
それにしばらくすれば、仕事でそれすらも難しくなりそうで。
だけどそれまでの時間はさ、おまえのこと…少しでいいから俺に独占させてよ。