MATCH195 J | 櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

【可塑的かそ・てき】思うように物の形をつくれること。 塑造できること。
主にラブイチャ系よりは切ないネガ多めです。
※このブログにある物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

激しく腰を打ち付けられながら、段々と意識が朦朧としてきた瞬間。

佐倉井さんが、くっ!と呻いて、俺の上へとのしかかった。

 

「はっ、はあっ、はあっ…、っ」

「あ…はあっ、はっ、ふはっ、」

 

二人してまるでフルマラソンでも走った後のように酸素を貪り吸う。

 

あぶなかった。

もう少しで飛ぶとこだった。

途中まではめちゃめちゃ緩やかだったのに、突然獣に襲われたのかと勘違いするぐらい激しくなる行為。

だけど、佐倉井さんにとってそれほど良かったってことなのかな。

もしそうだったらいいな…なんて乙女か俺は。

 

だって俺にはさ…女みたいに柔らかいもんはついてないし、しなやかさもなだらかな曲線美だって皆無。

佐倉井さんが喜びそうな箇所なんて一つも持ち合わせちゃいないんだから、そもそも自信なんてあってないようなもので。

だけど繋がってるときの佐倉井さんの表情は、いつだって笑っちゃうぐらいすげぇ必死で。

それだけで胸が痛くなる。

やっぱさ、与えられるものも大事かもしんないけど、自分が与えるものが相手にどう影響してんのかってのが大事なんだよな。

 

だとしたら…やっぱり好きな人と繋がることは蔑ろになんかできないってことで。

曖昧にしてもダメだし、妥協してもダメだし。

”セフレ”でいいなんて口走っていたあの頃の自分を、グーでぶん殴ってやりたい。

 

「はぁっ、はぁ、潤…、大丈夫?」

「はっ…はあっ、んっ?…俺っ?」

「おまえのっ…しりっ、」

「はっ!??」

 

びっくりして思わず声が上ずる俺に、

 

「ほら、俺めちゃくちゃにぶっ込んじまったから」

 

って言う顔が満更でもなさそうでムカつく。

 

「ちょー痛い…、」

「えっ、嘘!マジ!?」

「…うそ」

「うわ…まじ焦った…」

「ふふ」

 

ごめんね、ちょっと意地悪言ってみただけ。

でもさ今、佐倉井さんの焦る気持ちが分かり過ぎた。

俺も同じ男だからかな。

ほら、なんつーかさ。

失態犯すと次がないかもみたいな変な恐怖心。

そんな心配、俺にする必要なんかないのに。

だってそうだろ?

俺は女みたいにやわじゃない。

 

それなのに、佐倉井さんってば、俺の横で満足そうに笑いながら、

 

「あー、超かわいかっ…、、、」

「は?今なんて?」

「や…、超気持ちよかったなぁー…って、」

「今可愛かったって言おうとしてなかった?」

 

訝しげに目を細めてじとっと見れば、してないしてないって必死に右手をぶんぶん振っちゃって。

バレバレだっつーの。

 

今まで二十年以上も男としてブレずに生きてきた俺に対して、可愛いとか言ってんじゃねぇよ。

まぁ、途中で歯切れ悪くなったところをみれば、少しはまずいと思ってくれてるんだろうけど。

 

でも、相当ご満悦のとこ悪いけどさ。

俺だって別に受ける側を望んだわけじゃないってことは忘れないでいて欲しくて。

俺がそうしたのは…佐倉井さんよりは回数にしてたったの1回だけど経験もあるし、それに今まで佐倉井さんがヤってきたであろう見たこともない女たちへのプライドなんかも無駄にあって。

 

ほら、ヌキあうだけでもあんだけ気持ちよかったんだからその先はもっとかも…なんてさ。

そんなあんたの経験遍歴の中で俺が一番になりたいだなんて思ったのも合わさって。

そんなんがなければ別に、あんたが俺に突っ込まれる側だったかもしんないのに。

そんな俺を男側として支配しておきながら、挙句の果てに…可愛い…、とか。

 

いや…別に…さ。

それはそれで、なんか分かんねぇけど、めっちゃ嬉しいんだけどね。

なんなら、今までヤってきた奴らの中でやっぱ自分が一番であって欲しいってそう思うから。

 

そんな可愛げのない俺のことを佐倉井さんがぎゅっと抱きしめてきて。

びっくりする俺の耳元で、ごめんなと呟いた。

 

何?

それってどういう意味?

そんなことを頭ん中で考えてる間に、それが段々と悪い意味なんじゃないかと考え始めてしまう俺はやっぱどうしようもないよな。

 

でも佐倉井さんが俺を抱きしめる力はだんだんと強くなっていくし、ふとその顔を見上げれば…ふって笑うその目元がめちゃくちゃ愛おしくて。

次またこうして抱き合えるのはいつになるんだろうって…、そう思ってしまった。

今確かにこうして強く強く抱きしめられてんのに、どうしてこうも寂しくなるんだろう。

だから俺もその背中に腕を回して、彼の身体を強く抱きしめ返した。