ゴロンっと寝返りをうったら、
「うっわ!!」
身体が宙に浮いた。
と思った次の瞬間、ソファから転げ落ちて腰を殴打。
「いってぇー…」
「なに今の音!?」
あまりにも大きな音を立てたせいか、まぁが部屋に飛んできた。
「まぁ…?」
そして思い出す。
あぁ…そうだった俺はまた、まぁに介抱してもらったんだって。
「大丈夫、身体は意外と頑丈だから俺、」
ぐっと拳を握ってみせると、まぁは安心したようにくふふっと笑ってキッチンの方へと戻っていった。
多分メシの用意をしてくれてるんだ。
いつもそうだから。
そんなことを考えながら、ふと自分の体に目をやると、すっかり綺麗にされていてちゃんとパンツまで履いてる。
それでも寒くなかったのは、まぁが眠ってしまった俺に毛布を被せてくれていたから。
何から何までしてくれて…こんな他人の俺なんかに。
起き上がって、我が家のせまいキッチンをひょこっと覗く。
「まぁ」
「んー?」
「ごめん」
「なんで謝るの」
なんでと聞かれたら、なんて言い返せばいいのか分からなくなる。
「お月様が綺麗だったから、そろそろかなぁって思ったんだ」
まぁはそう言って月のように優しくほほ笑んだ。
そっか。
照明がしぼってあるにも関わらず部屋がやけに明るく感じるのは、外から差し込んだ月の光のせいだったんだ。
「潤ちゃん、あれだけ出したんだからおなか空いてるでしょ。もりもり食べて精つけなきゃね」
「出したとか、露骨な言い方」
「だってその通りでしょ」
「まぁそーだけど…」
まるで母親みたいなまぁ。
そのくったくのない笑顔や、太陽みたいな匂いがするとこも。
そして俺を介抱する時だって、ごめんね、つらいよねって優しくなだめるみたいに。
だからって母親に下の処理を頼む息子なんかいないだろうけど。
だけど本当にそんな感じなんだ。
俺の発作に気がついてから今までずっとこうして世話を焼いてくれてる。
本気で怒られたことだってあるし、本気で泣かれたことだってある。
「もうすぐできるよ、すき焼き。潤ちゃん好きでしょ?」
「好き!」
「くふふ、良かった。食欲出てきたってことは元気も出てきたってことだね」
いっぱい食べなきゃだめだよ。
倒れちゃうからね。
潤ちゃんは細いんだからって。
そう言って目の前に置かれた白飯が艶やかで美味そうだこと。
そういやにのとラーメン食ってから、その後なんも食ってなかったっけ。
ってか、あれからどんだけ時間が過ぎたのだろう。
「いただきます」
そう言えばやっぱり母親みたいに、
「いっぱい食べてね」
って、まぁは優しくほほ笑んだ。