チェックのマフラー 終(にのあい) | 櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

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【可塑的かそ・てき】思うように物の形をつくれること。 塑造できること。
主にラブイチャ系よりは切ないネガ多めです。
※このブログにある物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

「なにか…俺に言うことがあるんでしょ?」

 
言いたくなかったけど、もしかしたら自分からは言いずらいのかな…なんて。
俺を捨てようとしているこの人にどうして俺はこんなにも優しくなれるのか。
お人好しにも程があるよね。
だけどそんな言葉を発する俺に、相澤さんがきょとんとするから、心のどっかで変だと思った。
 
「にのに…言うこと?」
 
こくん、と頷く。
 
「えっと……ただいま?」
 
フルフルと首を横に振る。
 
「あ、おかえりって言ってなかったよね。ごめんごめん、にのおかえりなさい」
 
なによ。
なんなのよ。
俺がここまでしてやってんのに。
あんたは一体、どんな筋道をたててるっていうのよ。
 
「…違う…」
「え⁉」
「見たんだよ」
「見たって?」
「あんたが女と飛行機から降りてくるとこ」
「え‼空港に来てくれてたの⁉」
 
そして、それならなんですぐそう言ってくんないの‼って。
 
「言えるわけねーじゃん‼」
「にのが見た女の子は俺の務めてる学校の生徒だよ。たまたま同じ飛行機になっただけだし、大体あの子は好きなアイドルのコンサートがあるからって…」
 
は?アイドル?
 
「先生はどんな用事ですかって聞かれて…俺は恋人に会いに行くんだよって。そしたら顔面崩壊してたのはそのせいだったんですねってすごく大笑いされてさ」
 
どうやら俺相当凄い顔してたみたいって、そして、くふふって嬉しそうに笑う。
 
「なんだ…よ…、」
 
なんだよ。
なんだよ。
そしたら全部俺の勘違いだったっていうの?
 
「だっておまえマフラーもしてなかったじゃん‼」
「マフラー?え?いつ?」
「飛行場で」
「飛行場?あぁ!だってさー飛行機の中あっつくて‼でもほら、降りてからはちゃんとしてるよ」
 
首に巻いてるチェックのマフラーを、ほらってそれはそれは誇らしげに指さす。
 
「それよりにののが巻いてないじゃん」
「それはっ、」
「それにさぁ、こんな時間まで帰ってこないでどこ行ってたの。もしかして浮気とかじゃないよね?」
「そんなわけ…ないでしょ」
 
そう言えば、そっかそっかって。
 
「そーだよねぇ。俺に彼女が出来たって泣くくらいにのは俺のこと好きだもんね」
 
って意地悪く言い返される始末で。
 
俺がどんだけ苦労してあなたを手放す覚悟をしたと思ってんだよ。
そもそも勘違いさせるようなことしたおまえが悪いんじゃん‼
こんなにこの人を好き過ぎることにムカついたのは生まれて初めてで、多分今までにないぐらい強くその胸に顔を埋めた。
 
良かった。
心の底からホッとして。
そして俺は安堵し過ぎて溢れる涙を相澤さんの胸に染み込ませた。
そんな俺に顔見せてって両頬をその大きな手で包まれて。
それから軽くキスを交わしてから、
 
「意地悪言ってごめんね。でも嬉しかったよ」
 
相澤さんはそう言うと、自分の巻いていたマフラーを片方だけ俺の首にもグルグルと巻きつけた。
二人で同じマフラーに巻かれたら、もう離れようと思っても離れられないねって、相澤さんがニコニコと笑う。
 
「にの、ただいま」
「……おかえり、」
「にのもおかえり」
「……ただいまぁ、」
 
そんなやり取りに照れる俺に、かっわいーって言うからうるさいって顔を背けてやった。
それなのに、
 
「にの、にのー、にーの」
 
って何度も名前を呼ぶから。
仕方なくまたそっちを向き直したら、この人ってばすごく嬉しそうな顔で、
 
「俺今年の春から勤務先が東京になりました」
「え…、」
「だからさ、今度こそ一緒に住もうよ」
 
俺は嬉しくて嬉しくて嬉しくて。
相澤さんに思い切り抱き付いたら、その反動でわわわって体勢崩して、そのまま二人して床の上に転がって。
 
それから沢山沢山キスをした。
 
 
 
 
 
~完~
 
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