そんなことを思い出しながら、ふぅ、と息を吐いた後にちょうどチャイムが鳴って、
「到着便のご案内を致します」
アナウンスが流れた。
ドキンって胸の中の何かが跳ねて、もうすぐ会えると思うと心も体もソワソワしちゃう。
今までは家でゲームしながらゴロゴロしている間に家のインターホンが鳴るって感じだったけど、この場所だとやっぱ何か違うよね。
出てきて俺を見つけた相澤さんが驚く顔を思い浮かべると顔がにやついてしょうがない。
段々と荷物の受取り場所へと集まってくる人の群れの中から必死に相澤さんの姿を探す。
だけど、なかなか見つけられなくて。
そのうちその群れの向こうにひょこっと頭一つ分抜きん出たこげ茶色の髪の毛が見えて、それが相澤さんだとすぐ分かって、俺は待ちきれずにその場から立ち上がった。
だけど頭だけじゃなくて相澤さんの全身が見えた時に、身体から一気に力が抜けた。
相澤さんの隣には女の子が一人。
相澤さんはその子と楽しそうに話をしている。
なに?
誰?
もしかして向こうで出来た彼女とか?
相澤さんはターンテーブルの上を流れてきたピンク色のキャリーバッグを抱えると、それをその子に渡して。
それから少しして流れてきた自分のバッグを持つと、二人して出口へと向ってくるから、俺は急いで柱の影に隠れた。
もしかしたら見てはいけないものを見てしまったのかもしれない。
いや…それかもしかすると。
この後彼女を引き連れて、まさか俺に土下座でもしにくるつもりだったりして。
いやあの人結構真面目だし、ありえない話でもない。
正直そんなカオスな場面はお断りだ。
どうしよ。
こんなんじゃ家にも帰れねぇじゃん。
そんな時に、タイミングよくスマホが震えて。
見れば相澤さんからのメッセージで。
”今空港に着いたよ”
って律儀に。
もしこんなところに来てなければ、俺は今頃家でこのメッセージにすごい喜んでたんだろうな。
参ったな。
俺はさ、あんたがここに到着して俺を見つけて喜ぶ姿が見たかったの。
あんなさ…俺じゃない誰かと一緒にいる姿を見たかったわけじゃないのよ。
それなのにさ。
どうしてくれんのよ。
俺は、馬鹿みたいに浮かれてつけていたマフラーを外して鞄の中にぐちゃぐちゃに詰めた。
「あ…、」
そういや相澤さんも…マフラーしてなかったな。
やっぱりそういうことなんだ。
いつだって玄関を開けたらあのマフラーが目に飛び込んできてた。
そして弾けんばかりの笑顔で、
「にのただいまっ‼」
そう言って俺のことを凄い力でギューギューに抱きしめながら、会いたかったって何度も言ってくれてたのに。
ほんと良かったよ。
あのまま馬鹿みたいに家で待ってなくてさ。
玄関開けたらマフラーもしてない、笑顔もない。
もしかしたら泣きそうな顔したあいつと、その横にさっきの女の子が立っててさ。
そこで別れ話でもされてみなよ。
俺は何が何だかわけもわからぬまま、分かった、なんて言葉を発していたのかもしれない。
だけど今、俺が家へ帰りたくないと思うのは。
きっとあの人から決定的な言葉を聞くことから逃げたいと思ってる、いわば悪あがき。
だとしたら今からどうすりゃいいのよ。
俺は仕事が終われば速攻で家に帰るタチだし、時間を潰す場所さえ知らないよ。
とりあえず乗りこんだ電車は、結局自分の家の方面で。
どこにも行く当てのない自分のことを客観視して苦笑した。

