表に出た時に朝日が凄く眩しく感じるのは、もしかして気持ちの問題だったりするのかな。
少し前と今とでは、景色さえも違って見える。
久しぶりのキャンパス。
翔さんが熱を出して、その後俺も熱が出て。
そして姉ちゃんも熱出て、それから実家の店を手伝わされて。
そんなことをしていたら一週間なんてあっという間で。
そんなことを考えながら、大学生活も人生の中のほんの一瞬なんだろうなぁなんて、柄にもなく葉を落とした裸の木々を見ながら思っていた。
「潤ちゃ~ん!レポート間に合った?」
人が物思いにふけっている最中だというのに、それを邪魔するように駆け寄ってくる爽やかイケメン。
「今出してきたとこ」
「まさか期限のこと忘れてるなんて思わなかったよ」
「いやマジで、うっかりしてたわ」
それに関しては教えてくれてサンキュ、そう言う俺に雅貴がくふふっと笑う。
「あ、そだ…潤ちゃんさ?」
「ん?なに?」
「えっとさ。ほら、あの、佐倉井くんのことなんだけど」
「佐倉井って…翔さんのこと?」
「そうそう!潤ちゃんが恋したって言ってたの彼でしょ?」
「うん、そうだけど?」
やっぱそうだよね、そうじゃないかと思ってたんだよねって。
あ、そっか…俺ってば翔さんの彼女のことで雅貴には色々と世話になってたんだった。
「そのね佐倉井さんとは…うまくいきそうなのかなぁって」
心配そうに俺の顔を覗き込む雅紀にVサインで応える俺に、満面の笑みで喜んでくれるのはやっぱ親友だからだろうな。
だけどそんな雅貴に俺は、相談するだけしておいて何の報告もしてなかったんだ。
「すっげーなー潤ちゃん」
「そんなこともねぇよ?実際すげえ苦戦してたし」
「えっ、そーなの?百戦錬磨の潤ちゃんが?」
「百戦錬磨なわけねぇじゃん」
「いや俺、潤ちゃんが当たって砕けたところとか見たことないから」
「確かに自分から当たって行ったことはあんまないかも…」
「そうでしょ?」
だけど…翔さんとのことでめちゃくちゃ自信があるかって言われたらそんなこともなくて。
だって翔さんが俺に『好きだ』って言ってくれたのなんてたったの一回だけだし。
しかもその時あの人相当酔っぱらってたし。
幸せな気持ちの中に不安という色のインクが一滴落ちただけで…マーブル状に広がるグレーはやがて全てを真っ黒にしてしまう危うささえ感じる。
あの人ああしててすげぇモテるしさ。
近付きがたいオーラ出して格好つけてるくせに、妙にどんくさかったりするし。
あのビジュアルで頭もいいし仕事も出来るのに、たまに見せる無邪気なところのギャップがさ。
モテないわけねぇよ。
丘田だってその内の一人だし。
あいつちゃっかりキスまで漕ぎつけてたしさ。
しかもそのキスがすげぇ上手いとかで、翔さんったらうっとりしちゃってたし。
クッソ。
そのことだけは、思い返しただけでも腹が立つ。
そんな翔さんが今まで恋人を作ってこなかった理由も、そのくせして俺を選んでくれた理由も、実のところは何も知らない俺。
「潤ちゃんこのあとどうする?講義受けてく?」
「いや、今日は寝不足でシカタナイから帰る」
「くふふ、シカタナイなぁ…、じゃまた明日ね」
「おう、またな」
そう言って互いに違う方を向いたと思っていたのに、
「潤ちゃん!」
雅貴が後ろから俺の肩を掴んだ。
「え?なに?」
「潤ちゃんと佐倉井くんのこと、かずにも報告してあげてよ」
なんだよそんなことかよ。
「あぁ、雅貴から伝えといてよ。どうせ今日もにのんとこ行くんだろ」
「くふふっ何で分かんの、じゃあ俺から言っとくね」
「うん」
また近いうちに三人で飲みに行こうねと、肩をポンとされて。
また連絡すると約束してから雅貴とは別れた。
木漏れ日の下を歩きながら、三人で飲み会なんかしたら翔さんとのこと根ほり葉ほり聞かれるんだろうなぁなんて…本当だったら面倒なことが楽しみでシカタナイ。
そんなこと考えているうちに段々と翔さんの声が聞きたくなってきて。
ポケットからスマホを取り出してタップした。
そして、何度目かのコール音のあとに、
「もしもし」
相変わらずぶっきらぼうな翔さんの声に、クスリと笑みが零れるのもシカタナイ。
「おはよ」
「はよ、」
これこれ、この照れた言い方が堪らない。
こないだの朝はこの言い方と泣き顔で、心臓止まるかと思ったし。
「レポート、間に合った?」
「うん。おかげさまで」
「そっか。なら良かった」
あの教授厳しいからなって呟く翔さんに今日の予定を聞けば、ひくほどびっしりと詰め込まれたスケジュールに舌を巻く。
俺が入れる隙間なんてこれっぽっちもない。
「おまえは?」
「俺は帰って寝るよ」
って言った途端、くはっ!って翔さんが吹き出した。
「そーいや、おまえ全然寝てねぇじゃん」
「そうだよ。だからさすがに寝る」
「うん、そうしろ」
「じゃ、翔さんまた、ね」
「ん、またな」
自分の声がやけに弱々しいことに、きっと翔さんも気づいてる。
だって、どうしても拭えない不安にいつの間にか押し潰されそうになってるんだよ俺。
すげぇ幸せなはずなのに。
「翔さん」
「ん?」
「俺のこと…」
「なに?」
だけどやっぱり、勇気が出ない。
好きだとは何万回も言えるのに、好きかって聞くのは何でか怖い。
「ううん、やっぱいい。またね」
「おお。またな」
そして、俺は電話を切った。

