『ショートヘアの恋人』の続編です。

 

 

リクエストにお応えして、AO登場(いちゃいちゃ度、0%)。

 

右上矢印

在りし日のロングヘアの写真を眺め、溜息をもらす恋人にキレる彼女。
「(ショートヘアも)似合ってるって言ったよね?💢」
「うるせぇなぁ。写真ぐらい好きに見させろよ」
「髪なんて、すぐに伸びるんだから…。これくらいすぐなんだから…」
「お前…、自分の写真にヤキモチか?」
「ち、違うもん!」

 

 

 

ショートヘアの恋人⑧

 

 

「随分とさっぱりしたな」
突然のショートヘアに、オスカルは驚いた。
「でしょう?」
向かいに座っているユリウスが満足げに答える。
「よくお前が許したな」
オスカルは、斜め前の席で、澄ました顔でコーヒーを啜っているクラウスを見た。

 

「許すも何も、こいつが勝手に切っちまったんだよ」
恋人がショートヘアになってから一週間が過ぎた。もうすっかり見慣れたし、まあ可愛いのは変わらないし、今さら四の五の言っても髪は元には戻らないし、可愛いのは変わらないし(二回目)……。
「そんなに暑いなら、いくらでも俺がドライヤーかけてやるって言ったのによ」
「あのね、ドライヤーだけじゃないの。髪が長いと暑いし、蒸れるし、酷いときは首に汗疹あせもができたりするんだよ」
「だったら、結べばいいじゃねえか。お前が不器用ぶきっちょで出来ないって言うなら、俺がちゃちゃっとポニーテールでも、シニヨンでも」
演奏家より、美容師になったらどうだ?
「ぶきっちょじゃない!」

 

「お前なぁ、ちょっと干渉し過ぎじゃないか? もう少し彼女の自主性を尊重してやったらどうだ」
呆れ果てた表情で、オスカルは、ここぞとばかりに説教する。
「そうだよクラウス。前にも言ったけど、ボクは貴族のお嬢様じゃないの。髪だって自分でちゃんと乾かせます。ねえ、オスカルだってそうだよね?」
「えっ? あ、当たり前だ。ドライヤーの一つや二つ、ちゃちゃっと、ばばばっと乾かして終わりだッ」
明らかに挙動不審のオスカルの隣には、不自然に顔を伏せ、小刻みに肩を震わすアンドレが。ユリウスは気づかなかったが、クラウスはぴんときた。

 

以下、クラウス・ゾンマーシュミットの妄想。

 

『ああぁ、もう全然乾かない! なんでこんなに髪の量が多いのだっ! 腕が痛い! 暑い!』
ドライヤーが放物線を描いて飛んだ。
『わあっ!』
それをアンドレがナイスキャッチ。
『分かった分かった、俺がやるから。ほら、エアコンの前に座れって!』
頭から湯気を立て、もう自然乾燥でいい! とぷんぷん怒っているオスカルを、髪が痛むから駄目だ! と宥めるアンドレ。

 

あくまでも、妄想である。

 

 

 

 

 

ショートヘアの恋人⑨

 

 

「あーあ、わたしも短くしっちゃおうかなぁ」
オスカルは鏡の前に立ち、なっがい黄金の髪を、鬱陶しそうに、人差し指に何度もぐるぐる巻きつけている。
「よし! 美容院に予約を入れよう」
「だ、駄目だ! オスカル」
間髪入れず、恋人が待ったをかけた。
アンドレよ、お前もか……。
世に蔓延はびこる女性に対する男の『長い髪崇拝』なるものは、想像以上に根深いようだ。

 

どうせベッドの上で肌を合わせながら、己の頬に垂れ落ちるしなやかな髪を感じたい……とか、
艶やかな絹糸に五本の指を絡みつかせて刹那の海を泳ぎたい……とでも言いたいのだろう。
「何故だ? わたしだって似合うと思わないか? ショートヘア」
似合うけども似合うけども、似合うだろうけども。

 

「いやその……、ほら、お前の髪って、ただでさえ放っておくと、あっちこっち跳ねまくって大変だろ? ショートにしたら、もっと好き勝手にピンピン跳ねて、苦労するぞぉ。うん。まるで、お前の性格を絵に描いたような暴れん坊ぶりだよなあ。ははははっ」
はっ。……と気づいたときには遅かった。
ぐぐぐ……、と襟首が締まっていく。
「もう一度、言ってみろ」
「く……苦しいよ……、オスカル」
だって事実ではないか。と瀕死の状態で、彼は思った。

 

 

 

 

 

ショートヘアの恋人⑩~秘密裡~

 

 

恋人には内緒で待ち合わせをした。場所は、四人で集う馴染みのカフェより二軒奥まったところにあるコーヒーショップ。
約束通り、彼女は一人で待っていた。テラス席ではなく、店内の奥の席で。すぐ後ろの壁に貼ってある新商品のポスターには、ソフトクリームがこんもりと盛られているバウムクーヘンが写っていた。美味しそうである。

 

「済まない。待たせたか?」
「ううん、さっき来たところ」
テーブルには、カフェオレが置いてあった。店員を呼んで、コーヒーを注文する。
「なあに? 話って」
屈託のない笑顔だった。一度、呼吸をする。
「その髪、凄く似合っているよ」
「ふふっ、ありがとう」
白い右手が、くるんとカールした髪に触れた。

 

「形も綺麗だし、何といっても涼しそうだ」
「うん、涼しいのは間違いないよ。保証する」
「乾かすのも楽なんだろう?」
「そりゃあもう、ぜっんぜん違う! 天と地の差くらい」
「そ、そんなにか……、そうかぁ……」
店員がコーヒーを運んできた。一緒に置かれた小皿に、袋入りの豆菓子がのっている。この店定番のサービスだった。恋人の好物だから持って帰ろう。
コーヒーを一口飲んだ。
彼女は、カフェオレを両手で持って、こちらを窺うような表情をする。

 

「どうしたの? 何か、言いにくいこと?」
「いや……、実は、折り入って相談があるんだが」
「うん、なあに?」
暫く考えを巡らした後、オスカルは、ユリウスの方へ身を乗り出した。
「お前の行っている美容院、紹介してくれないか?」

 

誰かぁ、
早くぅ、
アンドレに伝書鳩をーっっ🕊

 

 

 

 

 

ショートヘアの恋人⑪~知らない二人~

 

 

「いざというときの決断力は、絶対に、女の方があるよな」
馴染みのカフェのテラス席で、クラウスは呟いた。
「ああ、俺もそう思う」
向かいに座っているアンドレが頷く。テーブルに置いてあるエスプレッソは、二つとも、ほとんど残っていなかった。
「浅はかだと解かってはいるんだけどさ、俺は男だし、年上だし、心の何処かで自分の方が優位だって思っているんだよなぁ」
「大抵の男はそうじゃないか? 俺だって、彼女を護ってやれるのは自分しかいないって、いつも思っているよ」
「俺の考えって古いのかな。どう思う? 今どき髪を切ったくらいで、ぐちゃぐちゃ文句を言うやつって」
「いや……、今だって、それくらい言うやつはいるだろう」
自分もだ、とは何となく言い難かった。

 

「生まれる時代、間違えたかもしれないなぁ……」
互いに、深い溜息をもらす。
「な……何言ってるの!?」
聴き憶えありありの高い声。クラウスは振り返った。
「え、ユリウス? お前、何してんだ? こんなところで」
「時代が違っていたら、絶対にボクたちは、幸せになれなかったんだよ!」
店員と他の客が一斉にこちらを見た。

 

「しーっ。馬鹿、言葉の綾だよ。真に受けるなって」
「だって……、君がいなかったら、今頃ボクは……、ボクは……」
もはや、聞く耳持たん頭巾。碧の瞳は赤眼姫。ショートヘアがわなわな震える。
「あぁあ……、俺が悪かったよ。分かったから帰ろう……あれ?」
と立ち上がった時、初めて、もう一人の彼女に気がついた。少し距離があったが、デカ……背が高いので直ぐ分かる。アンドレも驚いて立ち上がった。

 

「オスカル? 何処へ行ったのかと思ったら、ユリウスと一緒だったのか」
ぎっくーん。
「どうして黙って出かけたんだよ?」
良からぬことを実行しようとしていたからです。
「えーと、それは……、つまり……」
オスカルは目を合わせない。一方で、クラウスは恋人の手を取った。
「悪いけど、俺たち帰るよ。いいよな?」
「ま、待って。ボク、オスカルと約束があって……」
ユリウスは涙を拭いながら、手を振り解こうとする。

 

「いや! ユリウス、もういいんだ!」
オスカルは瞬時に叫んだ。
「え? でも……」
「その……、映画は、また今度にしよう。ほら、夏休みはまだまだ長いしな」
「は? 映画?」と口走る前に、彼女は強引な騎士ナイトに攫われていきました。
オスカルは安堵の息をつく。
「……オスカル」
背後から、今、一番聴きたくない声がした。
「あー……っと、喉が渇いたなぁ。わたしもコーヒーを一杯……」
「映画なんて、嘘だろう」

 

ぎっくーん(二度目)。

 

 

 

 

 

 

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