初めて海外旅行に行ったのは、大学4年の夏だった。
これ、僕らの世代でもわりと遅めじゃないだろうか。。。
今は物ごころつく前から行く子供もいるみたいだけど、それは親が海外旅行を普通にしてきた人だからだろう。僕の同世代も、子供連れてハワイとか行ってます。
さて、僕の初海外は、台湾と香港だった。
本当にいろいろと勝手が分からなくて・・・一緒に行った友人のお陰でどうにか大きなアクシデントには合わずに、楽しんで終わった。
香港は、まだイギリス領土だった。しかも行ったときに、ダイアナ元皇太子妃が事故で亡くなるという大ニュースが流れた記憶がある。
アジアにありながらヨーロッパの空気満載だった街。都会なんだけど、猥雑さというか、胡散臭さい空気も感じられる街。これが外国なんだなあって、そういう実感を深く味わえる街。
香港が好きで何度も行く人がいるけれど、その気持ち、ちょっと分かる気がする。
『ツアー1989』は、旅が一つのテーマ。
バブルの絶頂期だった1989年、旅行会社の企画で行われた「迷子ツアー」。
普通の団体ツアーで香港に行くのだが、その中にいた、影の薄い、目立たない人物が消えてしまう。ツアー客にとってほとんど印象に残らない人物がいなくなるので、それほど騒ぎにはならないものの、「何か足りなくない?」という不思議な感覚を残して、旅を終えるというもの。
もちろんこれは仕掛けであり、いなくなる役の人物は決まっていて、本当に失踪するわけではない。
ところがあるツアーで、一人の大学生の青年が、本当に消えてしまったのだ。
その青年から15年越しのラブレターが、ある女性に届けられるというところから物語は始まり、語り手を変えながら消えた青年の謎を追うストーリー。
読みやすい文章でスイスイと物語は進むのだが・・・何とも言えない重さというか、フワフワしているというか、どこか現実感がないような空気がつつむ。
「謎」として追っていく展開だけど、どうもしっくり来ない・・・最後に一応の答えが出るが、謎を解き明かしたという感じにならない。
これは、謎解きのお話ではなかった。
情報は勝手に操作され、勝手に物語は作られ、勝手に一人歩きする。
そういうお話だ。
伝説でも何でもない。謎でも何でもない。当事者とは別のところで話は展開し、それがあたかも真実であるかのようにカタチができて、人に伝わって行く。
ここにある現実。それこそが全てであるはずなのに、もう一つの現実的なモノは見事に作られ、そっちの方が力を持ってしまうということ。
自分は自分。でも自分じゃない自分が成立してしまうこと。
1989年にはないネットが、ストーリーのカギにもなっている。ここが象徴的でもあって。
情報の氾濫の行きつく果て。情報の波にもまれる旅の果て。そんなことを伝えようとしたのかなあと思った。
けっこう哲学的なテーマが内包されたお話かと。
香港の街並みの描写は細かい。あの街の喧騒を思い浮かべながら、いろいろと思索を巡らせた。
読みやすい文章だけど、それほど読みやすい小説ではない。重さを感じる物語。旅がテーマなのに、旅に行きたいという気持ちにはならず・・・迷子になりそうで。不思議な味わいですね。
中島京子さん、初チャレンジ。ちょっと他の作品も気になってきた。。。
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