奥田英朗『泳いで帰れ』 | 流れに任せて雑然と

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ブログを書き始めてはみたものの、まだ「定まらない」感じがある。


文体が難しい。「である」調か、「ですます」調か。一人称は「僕」か「私」か。


そういうことに悩んでいる時点で、うまくない話だ。思うままに、書きやすい形で書けば良いのだろうけど。



そんな、定まらない僕にとって、奥田英朗さんという作家が書くスポーツエッセイはとても勉強になる。


奥田さん、とても軽妙なのだ。本当に軽く、良いテンポで、かつ楽しいエッセイ。



『泳いで帰れ』は、2004年のアテネ五輪観戦記である。アテネに滞在し、奥田さんが大好きな野球をはじめとする様々な競技を観たこと。また、アテネの旅日記という感じの話。


これが本当に良い。僕はこの方は、スポーツエッセイを書く人の中では当代きっての名手だと思う。



観戦者の目線で描かれているからだと思う。


タイトルでもある「泳いで帰れ」という言葉は、奥田さんが野球日本代表に贈ったもの。


このチームは「長嶋ジャパン」と呼ばれ、長嶋茂雄監督のもとに結成されたオールプロのドリームチーム。


ただし、長嶋監督は病気で倒れて、オリンピック本戦では中畑コーチが指揮をとっていた。


オリンピックで金メダルをとること。ドリームチームとして、プロらしいプレーを見せて勝つことを至上命題とされていたチームにあって、観戦者が期待していたものは何か?


奥田さんは、高校野球的な自己犠牲ではなく、プロの戦いを期待していた。バントや繋ぎの野球が悪いのではない。送る選手は送って良い。だが、このチームは3番や4番が送りバントやらセーフティバントをしに行った。


それが奥田さんには、プロではない。負けるのに怯えた集団に見えた。そして、敗れた。


だから、「泳いで帰れ」、だ。



あのオリンピックで、選手たちは銅メダルを獲得。その結果に満足したのか、厳しいプレッシャーから解放されたからか、悔しさよりも安堵感、という表情を見せていた。そこには僕も大いに違和感があった。


現地の、暑い暑いアテネで観せられた、プロ選手たちのプロらしくない野球に、プロ野球を愛する奥田さんの想いは哀しみと怒りと諦めと・・・これはまさに観戦者の心。


同じ観戦者として、しかも言葉を選ばず、痛快に描いてくれる。


これを読めば、オリンピックが観たくなる。野球場に足を運びたくなる。



奥田さんは、アテネの日本料理レストランで、ギリシャ人の料理人が作った日本料理をおいしく食べ、猛暑で乾き切った体に割高なキリンビールを流し込んだ。


そんな温度感をも伝わる文章。そんな文章、書きたい。



(写真)というわけで、休日に昼間っからキリンの缶ビールを飲んだ。



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