今回でプロローグが終わりです
今まで長かったぁ・・・・

今回の画像はバーサーカーです
いつか蘇る王―プロローグ―
4
剣の騎士。
その名に相応しい猛攻だった。
見ただけで分かるような、凄まじい魔力が一撃一撃に乗せらていて、ライダーはただの数合打ち合った後、あっさりと後方へ吹き飛ばされていた。
「――」
その場にいた人間は、誰一人声を出すなど出来なかった。
目の前の、英雄同士の熾烈な戦いに、ただひたすらに目を奪われていた。
「――慎二、不利です。撤退すべきでしょう」
「な、なんだと!?クソッ、そんな無様――」
教室の入口で騒ぐ慎二だったが、
「…逃がすと思うか、ライダー」
冷徹なセイバーの声に、ひっ、と身を竦ませた。
分かっているのだろう、その可憐な少女の意識一つで、自分が真っ二つになることくらい。
今のライダーは慎二の傍にいることはいても、先の打ち合いから考えて長く耐えられるとも思えない。
セイバーは、剣を真っ直ぐに構え、正面から敵を見据えて言った。
「――終わりだ、魔術師。あなたは間違えた。よりによって、私を呼ぶマスターを襲ったのだから」
びくりと肩を揺らし、慎二は後退する。
「あ、あ、ラ、ライダー…!なにしてる、ぼ、僕を護れぇ!」
威圧され、死の予感に恐怖し、生を請い願う。
それは――
「慎二、今すぐ、令呪を破棄しなさい…そうすれば、死ぬ必要は無いわ」
粉砕された腕を押さえ、ゆらりと、セイバーのマスターが立ち上がる。
遠坂凛。
「あなたは魔術師なんかじゃない。ここは、死ぬ覚悟も無い人間が、居て良い場所じゃない」
「――な、に…」
「あなたは魔術師なんかに向いてない。さっさと、終わりにしなさい。これは、厚意から言ってあげてるの。あんたみたいな奴でも、一応は、桜の兄貴なんだからね…」
その瞬間、ぴくり、と慎二の震えが止まった。
闇色の教室に相応しい、どす黒い想いが彼の芯を染め上げてゆく。
目は茫洋と化し、唇は青く凍え、その顔は醜く歪む。
その変化に、凛だけが眉を顰める。
「――ライダー」
「…」
「やれよ、あいつらを殺せ…!!僕の敵を殺せェ!!」
「――」
狂気に取り付かれたような叫びに、ライダーは無言。
しかし、圧倒的な雰囲気の変化が、応という答えを告げていた。
「――セイバー…やばい、この雰囲気は…」
凛の呟きを聞くまでも無い、剣の騎士は咄嗟に後方に飛び、いつでも己のマスターを護れる位置に構える。
そして、
ライダーは、その釘剣で己の喉笛を切り裂き、誰かがその行為に言葉を上げる暇さえ与えず、その血でもって幻想を生み出す。
騎乗の英霊。
その名に偽りは無い。彼女は、ソレに乗ることでこそ己の力を示せるのだから。
凄まじいマナの鼓動、そして幻想の胎動。
セイバーの未来予知にも近い勘は、既に避ける以外道は無いと告げている。
即ち、必殺の確信。宝具解放!
ベルレ フォーン
「騎英の―――手綱!!!!!!!」
閃光が、教室全てを飲み込み、そこに在る全ての物質を塵に返す。
正に、掛け値無し、最強の一撃だった。
壮絶な破壊音が轟くころ、閃光は教室を突き破り、遥か天空へ舞い上がっていた。
「は…ははは……!そうだ、よくやったぞ、ライダー!!」
翼在る白馬――ペガサスにまたがり、慎二は哄笑を上げた。
ライダーによって抱えられた無様な格好ではあるが、そんなことは気にならない。
――ああ、桜のグズのくせに、まあまあの英霊を見つけたもんだ。この威力なら、あの騎士と言えど一溜りもあるまい。
なのに、
「いえ、仕留め損ねました」
「――は?」
まるでそれの証明のように、白煙に覆われた校舎一階のあたりから、眩い神秘の輝きが見える。
――攻撃か、防御か。少なくとも尋常でない魔力があの場所で渦巻いている。
「私の魔力も今の一撃でほぼ尽きた。やはり、一旦撤退することを提案します」
「なっ、ふざけんな!」
「ならばせめて、魔力補給を行うべきです。無為にあなたを死なせるわけには行かない」
――それが、桜の意思です。
そこまで言おうとして、ライダーは思い留まった。
おそらくは――それを言われれば、彼は桜に、酷いことをするだろう。自分が召還されてからは、彼の暴行は減っているという。わざわざ煽ることなど無い。
そんな、サーヴァントの内心など気付こうとさえせず、
「クソッ、ならさっさと血を吸え!あのいけ好かない女が負傷してる今がチャンスなんだよ、今夜中に片をつけてやる…!」
「――分かりました」
言って、ライダーは天を駆けた。
――このマスターでは、勝てはしない。
そんな確信を微塵も表に出さないままに。
「――間一髪でした。無事ですか、マスター」
凄まじい衝撃をやり過ごしたのを確認してから、セイバーは尋ねた。
崩壊の瞬間、咄嗟に剣の風王結界を解放し、地面に叩き付けて大穴を作ったのだ。なんとかマスターである遠坂凛と、その傍に居た少年の身体を助けることは出来た。一歩遅れていれば、教室もろとも木っ端微塵だったろう。その証拠のように、校庭まで延びた破壊の跡は大地を抉る竜の爪の如しだ。
「痛っ…ぁ…なんとか、無事よ……って、セイバー、あんたの方がやばいじゃない!」
腕を押さえてよろよろと立ち上がった凛は、セイバーを見るや否や叫んだ。
少女の肩から腰あたりにかけて、背中側がざっくりと裂け、焼け爛れていたのだから無理も無いことだ。鎧は無残に砕け、肌は見るかげも無い。
しかし剣の騎士は苦痛など無いとばかりに微笑んだ。
「心配には及びません。避け遅れた私のミスですし、何より、サーヴァントはこの程度の傷で死にはしない」
言う傍から、傷跡、果ては鎧までゆっくりと修復されてゆく。
「っ、……そう、ありがとう、セイバー」
凛は唇を咬んで、礼を言った。
――死ななくても、痛みが無いわけが無い。
それに、避け遅れたのは間違いなく、動けなかった人間二人を庇ったせいだ――
「――!!そうだ…衛宮君!!」
「――、…」
気付き、ばっ、と隣へ身体を向ける凛。
そこに変わらず仰向きに倒れている少年を見て、改めて、自分の責任を知った。
「――く……」
半分開いた目の瞳孔は拡大され、口元の血はまだ乾いていない。胸に開けられた風穴とそこから漏れる鮮血は生々しく輝き、全身の体温は今だ全く失われてなどいない。
たった今死んだのだと、嫌というほど分からされた。
ただ一人、遠坂凛が生きていて欲しいと願った少年。
――迷いは、あった。でもそれは、一瞬だけ。
胸元にかけてあった、ペンダントを取り出す。
ここに込められた魔力ならば、まだ修復は出来るはずだ。この傷は呪いも何も無い、ただの傷なのだから。ただ、致命傷だっただけの。
「――マスター、何を?」
「ごめんセイバー、ライダーが戻ってこないか警戒しといて。こう砂埃が多いと、遠くが見えないから。…その間に、私は…」
ぐっと握る拳に力を込める。
凄まじい魔力が放出され、輝きが暴れ狂い、媒介する肉体が悲鳴を上げる。頭がクラクラし、傷が妙に脳に響く。しかし全てを無視して、施術を開始する。
「――その少年を、助けるのですか」
「…、そうよ」
魔術師として、非難されて当然のことを、自分はやろうとしている。
「彼は、ただ巻き込まれただけだもの…まだ、生きてたっていいと思う」
「……」
――違う、嘘だ。これは、ただの心の贅肉だ。
彼が或いは衛宮士郎でなかったならば、きっと自分は見捨てたのだろうから。
そう、所詮はそんな人間だ。
歯を食いしばり、臓器の代替を行いながら、呟くように告げる。
「私を軽蔑していいわ、セイバー。こんな間違ったコトに大量の魔力を消費するマスターを。それでも、私は勝つ。それで、帳消しにして」
「いいえ、マスター」
きっぱりと。
「誰かを救う行為を、軽蔑など出来ない。貴女が私を信頼する限り、私はそれを決して裏切りはしないでしょう」
間違ってなんか居ない、と。
剣の騎士は羨望にすら近い眼差しでそう告げた。
「……、ありがと、セイバー」
「礼など必要ありません。私は貴女の剣なのだから」
「…それでも。ありがとう」
やがて傷の修復を負え、凛は微笑んだ。不思議と、苦手なはずの修復が随分と簡単に出来たのは、火事場のなんとやらというやつか。
少年の心臓が改めて鼓動を打っている。死後、一分以内には処置を完了できたはずだ。脳に損傷は無いだろう。
ああ、損傷というなら、自分の方が酷い。特に腕だ。なのにどうして、視界が揺らいで頭が鈍いのだろう。
まるで、酷い眠気に襲われているようだ。
異変に気付いたのだろう、セイバーが案じる声をかけてくる。
「――マスター、どうしました?」
「っ、セイバー……。ううん、なんでも、無い。なんでも――ない、はずなんだけど…」
言って、しかし凛はくらりとよろめいた。指先一本に至るまで脱力し、何を支えることも出来なくなって、そのまま倒れこむ。セイバーはそれを慌てて抱きとめた。
そして思い当たった。
「!…失念していました。サーヴァント召還は、非常に魔力を消耗する。普通は、呼び出した瞬間、気を失うことさえあります。貴女は相当に優れた魔術師のようですが、いくらなんでも召還、戦闘、施術を連続で、そんな傷のまま行うのは無茶だ」
…あ、それもそうか。
これは、うっかりしてたな――
「ごめん、セイバー…ちょっと、家まで、連れて行ってくれない…?もう、動けそうにも無くて」
「はい。しかし、場所が分かりませんし、そちらの少年は――」
「大丈夫…綺礼に連絡しとけば、なんとかしてくれるから……私の、家は……ちゃんと、指示、するわ…とりあえず、背負って、歩いて」
「…――分かりました。では行きます、マスター」
最後に、寝惚けた頭で、妙なことを言ってしまった。
「私、マスターじゃない…遠坂、凛だってば…」
「――」
一瞬だけ間をおいて、セイバーは、再び微笑んだ。
「では、『凛』と。何故かこの響きは、貴女にはとても似合っている気がします」
「……そ、う?……ふふっ……」
そうして、凛の自意識は完全に霞んだ。
――赤い、原初の風景を見た気がした――
「っ……う。くっ……」
よろよろと立ち上がるが、どうも目の焦点が会わない。
どうしてこう、あたりはボコボコしているのか――
「――っ、え?」
やがて、ようやく意識を回復した士郎が最初に見たのは、粉々に砕けた壁だった。
何事かと思う。
クレーターのように抉れた地面、その先に、一本の爪が大地を引き裂いたような線があり、校庭まで続いているようだ――校庭?
それで初めて、自分が『元・教室』に居ることに気付いた。
「……なんだよ、これは……」
わけが分からない。
いや、違うか。理性が理解を拒んでいるだけだ。
少し頭を振ったら思い出す。
黒の女、貫かれた胸、そして何故か見えた遠坂のような少女――
「はは、ははは…」
有り得ない、とは思う。
しかし、この高性能地雷が炸裂したような傷跡は、ユメじゃない。そして、あの痛み、ひいてはこの血塗れの制服も現実だ。
衛宮士郎は、半人前ながらも魔術師には違いない。
ならば、この狂った風景を受け入れないわけには行かない。
――何か、とてつもないことが起きていたのだ。
「くそ…俺は、無力か…」
あの黒い女が何者だったか、どうして慎二の声をした男がソレに命令していたのかは分からない。だが、あれは人を傷つけるもので、自分はそれに敗れた。それだけは確信していた。
誰か、襲われていた。
それを助けることが、衛宮士郎には出来なかったのだ。
「ぐっ…!」
今一度、ズキンと胸が痛む。
それで改めて胸を見下ろして、
自分が、生きているわけ無いことを知った。
この出血、何よりあのときの死の直感。だけど、ならここに立っている自分は何なのだろう。いや、それより、襲われていた誰かは助かったのだろうか?
ぐっと手を握り締め、
「…?」
そこに宝石が握られていた。
赤いペンダント。
強い魔力の残滓を感じる、自分のものじゃない何か。
『助けるのですか?』
『彼は、ただ巻き込まれただけ』
誰かの会話を、思い出した気がした。
なら、きっとコレは、その誰かの残したものか。自分を助けた、誰かの――
「情けない…また……また、助けられたのかよ…」
もっと強く握る。
己の不甲斐なさを握り潰すように。
――罪悪の赦しを、請うように――
「――ぐ!」
ずきん!と、胸がさらに強く痛む。
いや、これは痛いなんてものじゃない。死ぬ。また死ぬ。
なんだ、これは。
ああ、そりゃそうか。胸に、さっきまで風穴が開いていたんだから。これは、心臓なんてモノが入って来た痛みか。
やばい、このままじゃ、やばい。
どうにかしないと。
そうだ、家だ。家に帰ればいい。
いつものように土蔵に篭って、いつものように鍛錬しよう。そうすれば、こんな痛みは気にもならなくなる――
ずるずると、脚を引き摺るように、衛宮士郎は帰路に着いた。
時刻は零時。
月の哂う刻だった。
プロローグ 完
今回は動画も貼っとこうと思います
アーチャーとバーサーカーの戦闘シーンです
よかったら見てください^^