「ニーナ!!」
息せききった真衣が、大きく手を振って駆けてくる。
まだ鼓動が速い胸を押さえて、仁菜は軽く笑んだ。
電話しようと思った。と、携帯を耳に当てるしぐさをして、真衣は大袈裟に息を吐いて仁菜と並んだ。
本日何度も通ることになった桜並木。
「どこ行ったかと思ったよ。気がついたらいないし」
「ごめん、私もびっくりしてさ」
と、今あった出来事を話した。すると真衣ががしっと仁菜の両肩をつかんで真剣な顔をした。
「それ、誰?名前聞いた?」
「い、いや、聞くどころじゃなくて…」
「もったいない!それ、いいチャンスだったのにー!」
悔しそうに真衣は空を仰ぐ。その様子がおかしくてなんだか笑ってしまった。
「何よ、おかしい?」
「だって、知らない人に屋上に連れて行かれたときの私の気持ち、わかる?ちょっと怖かったのよ。なのに、それがチャンスだなんて、真衣ちゃん本当にそのバンドに入りたいのね」
確かに生徒が集まっていたあの空間を見ていると、彼らには人を惹きつける何かがあるのだろう。そこに真衣も参加したいと思う気持ちはわかる。でも。
「先に、私の心配してくれてもいいんじゃない?」
ちょっとすねたように言うと、真衣も笑って
「そりゃそうよね。ごめん、今更だけど大丈夫?」
そのやりとりがまるで昔からの友達のように絶妙なタイミングだったので、2人して大笑いしてしまった。
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