ヘッセの代表作のひとつ。
原題は「ナルチスとゴルトムント」


「シッダールタ」でひとりの修行者の苦悩を描いたヘッセは、この作品では真理を求めるふたりの人間に異なった道を選択させます。

ナルチスには宗門に留まり、厳格な戒律と純粋培養的な修行人生を歩ませ、ゴルトムントには芸術家的な生き方で、魂の赴くままに波乱万丈な道を歩ませました。

ヘッセは「シッダールタ」でも釈迦に従ったゴービィンダには悟りの叡智を与えませんでしたが、この作品でもナルチスは苦悩と迷いの人生を歩むことになります。


宗教的束縛や盲目的信仰の中からは、真の魂の自由は得られないということなのでしょうか。

人は人生の紆余屈折を通して、人間本来の姿に徐々に目覚めてゆきます。


よくコップで海水をすくうことに喩えるのですが、既成の宗教は、生きた海水(人間の魂)ではなく、特定のコップ(型)の在り方に拘り過ぎるような気がします。

型にこだわることで、生の本質を見逃してしまう事を危惧したヘッセは、自らも晩年、伝統的な宗教ではなく、芸術とヨーガによる内的な体験を通して真実を見出そうとしていました。

ゴルトムントの選んだ世界は、ある意味でヘッセ自身の選択でもあったのでしょう。