先ほどまで、麦子は同じ部署で働く社員は
もちろんのこと、グループ本社全ての社員から
挨拶を受けていた。

ひと通り挨拶が済むと、
麦子は、こじんまりした打ち合わせ用の一室で、
彩人と麦子が働く部署のリーダー(以後GL)から、
今後の説明を受けることとなった。

その最中、物凄い睡魔に襲われた麦子は、
眠気覚ましに(おいおい‥)
横の椅子の上に置いていたバックの中から
携帯を出した。
そして麦子は、ふたりから見えないように
自身の膝の上で携帯を見た。

「あっ」

麦子は慌てて自身の口元に手をやり、
申し訳なさそうに言った。

「あの‥お手洗いに行きたいのですが」

「そうですね。じゃあ、一旦休憩にしましょう」

GLはこう言いながら、自身の腕時計を見た。

「ありがとうございます」

麦子はこう言うと、彩人の方を見ながら
立ち上がり、部屋を出て行った。


そして、トイレに急いだ。

麦子は女子トイレに着くと個室に入り、
麻里からのメールを開いた。

「麻里‥」


~麦子、仕事中にごめんね。
 私は家に着いたわ。
 なんか懐かしい感じなの‥
 ふふ、へんでしょ。
 こっちが自分の家なのに。
 今夜、麦子と話がしたいの。
 何時頃なら大丈夫?
 返事はいつでもいいからね。
 お仕事頑張ってね。
            麻里~


麦子はすぐ麻里に返信した。
本当は、今すぐにでも麻里と話したかった。
でも、それはぐっと我慢した。

麦子は、もうひとつ我慢していた。
そのもうひとつとは、
戻ったら自分で確かめることにした。

でも、どうやって聞こう・・・

「うーん」

はっ

麦子は両手で口を押さえた。そして耳を澄ます。

ガタガタガタ

少し離れた所から、何か音が聞こえてくる。

あちゃー

麦子は無意識に、ぶつぶつと独り言を呟いていた。
誰かに聞かれていたかも知れない‥

ああ、恥ずかしい・・・
どうしよう、ここから出れない‥

あ、そういえばいつ来たんだろう?
休憩って、何分まで?

麦子はひとり、あたふたしていた。

もう覚悟を決めて、ここから出るしかない。

麦子はそぉーと扉を開け、少しだけ顔を出した。

あれ?!誰もいない。

麦子は慌てて、女子トイレから出た。


その頃‥

麦子の戻ってこない一室に、彩人が3人分の
コーヒーを持って戻ってきた。

「どうぞ」

「ああ、彩人君。ありがとう」

「いえ・・・ふっ」

「うん?」

「あっいえ、何でもありません」

「そうか」

「GLも大変ですよね。

 こんな扱いづらい部下ばかりで」

「いや、そうでもないよ」

GLは、不敵な笑みを浮かべながら彩人を見た。

彩人は、一見温和そうに見えて、
実は相当なやり手であるこの上司と
結構、馬が合うと思っていた。

「ちょっと見てきます」

「ああ、そうだな」

彩人は、部屋を出てトイレに向かった。


~~
「彩人」

彩人が部屋を出て、廊下の最初の曲がり角に
差し掛かると麦子と出くわした。

「麦子、大丈夫か?何かあったのか」

「えっあの、えっとーその‥
  
 彩人、あれからメールあった?」

「えっ、メール‥麻里から?」

「そう。麻里からメールあった?」

「そんな‥見てないよ」

彩人はポケットから携帯を取り出した。

「きてた?」

「いや・・・麦子、もう気にするな。

 それに今は仕事中だ」

「ごめん‥」

「いや、悪い。そんなつもりじゃ‥

 麦子。麦子のところに、もし、また麻里から

 連絡があったら教えてくれないか」

「あっ彩人」

「戻ろう」

「彩人・・・」

麦子は、それ以上何も言えず、
彩人の後を着いていくしかなかった。




~~
☆麦子、結果的に彩人に嘘ついちゃいました‥
 では、読んでくださって感謝です。。