$縮まらない『何か』を僕らは知っている
『-×-』(マイナス・カケル・マイナス)/伊月肇 (2010)

監督・脚本:伊月肇
出演:澤田俊輔、寿美菜子、長宗我部陽子、大島正華


何かを失ってしまった者たちの一対一の関わり―
交差する『喪失と希望』、2つの物語

$縮まらない『何か』を僕らは知っている

 大阪郊外の町。日に日に緊張感が高まる異国の戦争のニュースがラジオから流れている。古い小さなアパートに独りで住むタクシードライバーの吉村貴治(澤田俊輔)。夜勤明けは大抵、消費者金融からの電話や新興宗教の勧誘、隣室からの喘ぎ声を適当にやり過ごし、部屋で一日無為な時間を送っている。そんなある日、いつも通り市内をタクシーで流していると、妙な色気と無邪気さを持ち合わせた不思議な客・林京子(長宗我部陽子)を乗せる。この出会いは、貴治の眠っていた黒い欲望をかき立てるのだった……。一方、両親の離婚で父と暮らすため、新生活を迎えた女子中学生・藤本凛(寿美菜子)はずっと心に引っ掛かる“ある思い”を両親や親友にも打ち明ける事ができずにいた。そんな気持ちを抱えながらの母との再会で、凛の悲しみは静かに、そして激しく流れ出す……。彼らは今まさに始まろうとしている異国の戦争を思い描くことはおろか、目の前のささやかな日常さえどうにもできずにいた……。

$縮まらない『何か』を僕らは知っている


すれちがう他人、つながらない世界
他人の痛みなどただ通り過ぎるだけなのか?


$縮まらない『何か』を僕らは知っている


◆シネマトゥデイ
人気声優ユニット・スフィアの寿美菜子主演の実写映画!高校1年生時に撮影した『‐×‐』がレイトショー公開決定!

◆映画芸術: 『-×- マイナス・カケル・マイナス』クロスレビュー
伊月肇という、ひとつの映画の希望について。/持永昌也(ライター)
「2003年のこんにちは」が見たかった/平澤竹識(本誌編集部)



 私はもう何年も映画や小説が作品であることに倦んでいるので、この映画のプログラムに載せる文章の依頼が来たときも断った。断ったあと、それでも手元に届けられたDVDを義理というのでもなくなんとなく再生したら、私はいきなり引き込まれてしまい、慌てて「ぜひ文章を書かせてほしい」という連絡をした。私はこの映画を観ながら、自分がいま考えていること、やりたいと思っていること、やりつつあるがなかなか前に進まないこと、に対する、輪郭であり、方向の指し示しでもあると同時に、もっとずっと簡潔で重要な勇気をもらった。

保坂和志(小説家:『プレーンソング』『この人の閾』『カンバセイション・ピース』)


 この世界の外、このあまりに何かを失った "いま"のはるか前を想像させながら『-×-』はいま、ここを映し続ける。私達は一体どれだけ前からここに立っていたのか。そしてどこへ行けるのか。それは分からない。
しかしこの映画の最後、タクシーは止まる。明日にはまた回遊魚のように街を漂わなければならないタクシーは、いま止まる場所を見つける。
いま止まること。大阪の澄んだ空の下、酷く孤独な叙事詩をいま映す映画作家・伊月肇は、恐らく今後より"私的なもの"に立ち、これからの変容を目撃させてくれるはずである。

木村文洋(映画監督:『へばの』)
A Pluralistic Universe(アメブロ)

映画『- × - マイナス・カケル・マイナス』公式サイト

12/3(土)~16(金)渋谷ユーロスペースにて
連日21:00~ 2週間限定レイトショー!