ヴァルール について考える |  SHOKEI 'S TIMES

 ヴァルール について考える


だらだらと長い[覚え書き的な考察」になりますので 

絵に興味のない方は 今回パスして下さい。




ヴァルールに関しては 自分なりの考えもあったのですが 
ちょっと調べ始めたら いろいろな説があり
ますます混乱してしまいました。

簡単にまとめてみます。

ヴァルール(Valeur)は
画面の中で使われる色と色の「関係」(空間構成)を表す用語です。

色味の濃淡や発色などとは直接 関係はありません。
三次元を平面に表すのに極めて重要な要素です。

美術では「色価」、写真の分野では「光価」という
不可解な訳語が付けられています。

曖昧なのは、言葉だけでなく時代とともに 
その意味も使われ方も変わってきたようです。


15~16世紀頃から光や陰影を使い空間の中の奥行きを 
色彩の明度対比によって表現しようとしました。

明度というと調子画(トーン)と混同視されがちですが、
ヴァルールは、複数の色の相互関係を言います。



19世紀になると写真が普及し始め 
写真でもヴァルールという言葉を使います。

ここでも「光の度合い」として考えられています。
ですから「光価」と和訳されたのです。

その後、いままで絵画の役割であった現実の再現や記録が
写真に移っていき、絵画は自己表現としての領域を確立していきます。


画面の中での色彩の意味も変わってきて、明度のみならず、
色相や彩度なども含み、より広義の意味においてヴァルールが
意識されるようになっていきます。

進出色や後退色、また暖色や寒色の対比を使って奥行きを
表そうともします。


色彩を自由に操るコロリスト(coloriste)に対して
セザンヌのようにヴァルールに敏感な芸術家を
ヴァロリスト(valoriste)というそうです。

セザンヌは「自然は1m離れると色が違う。」とも言っていました。
ここで言う自然は むしろ絵の中での自然の色についてです。
見えた自然の色を写すことよりも 画面の中での奥行き操作に
関心があったのでしょう。


最近のヴァルールに関する技術書には もっと幅広く捉えており 
色彩相互の配置、調和関係などによる画面構成一般にとどまらず、
筆触や画肌(マチエール)から心理的なことまでも含めている人
もいます。しかし、気韻や精神性のようなものまで考慮に入れると、
ますます「ヴァルール、色価」を限定するのは難しくなってしまう
でしょう。
ヴァルールは英語だとvalueヴァリュー、つまり価値のことなので
まずは「色価」という和訳の範囲で考えたいと思う。


光の度合い(明度対比)→ 光ではなく色相、彩度、明度の対比 
→色だけでなく絵の具の厚さ、マチエール、筆跡なども含む対比。



ここで今日 絵を描く上でのヴァルール観を元来の視点に少し戻し 
奥行きのある再現の空間として描くだけでなく、
平面としての色彩空間(抽象的な平面)にも使えそうな方法を
改めて考え直す必要があります。(注/これらは 私の試論にすぎません。)



19世紀のゴッホらが考えていた論理の
『色相が白から黒への音階(gamme)の中に位置付けられる時、
トーンはヴァルールの名称として扱うことができる。』
という時点から捉え直したいと思います。
 

ここで大切なことは 色相を光の明度としてではなく 
白から黒への段階に置き換えて その調子をトーンと呼ぶ。
ヴァルールは、そのトーンの「相互の関係」だと考えたいと思います。 

                            ↓こんな感じかな?
$ SHOKEI 's  TIMES-カラー




たとえば、日本人の肌の色をモノクロ写真に撮ると 
その肌色部分のグレーの明度は約18%だと言われて
います。
$ SHOKEI 's  TIMES-白黒

このグレーの明度を変えずに 違う有彩色(色相)
に置き換えて 周り(隣)の色との関係を壊さずに
描いてみると 印象派以降の自由な色彩の描画の
方法が理解できると思います。
(この時、光が当たっている部分は 固有色に近い色
の方が無難ですが 、陰影部は背景色との関係を
考慮すれば 自由に色を変えて使えると思います。)

色相を多少変えても空間が ヘンにならなければ 
ヴァルールが正しいという事になるのでしょう。



絵を描く時に「目を細めて対象を見なさい。」とよく言われます。

これは絵の全体のバランスや動勢などを見るのに必要な行為ですが
これは同時に 色を明度に置き換えて見る為でもあると考えます。


目を細めて見ずらくすることによって 
人間の脳は 色彩からの判断を弱め、明暗だけでも形を見ようとして 
異なった脳細胞を働かせると書いてありました。

明るい昼間に見る時と 暗い夜に見る時では
脳の違う細胞を使うそうです。


モチーフを見たり 制作画面を見る時に いくつかの過程を経て 
色面として見たり、形や奥行きのヴァルールを見たりして
揺れながら 自分にとっての「本質」に少しでも近付きたいと考えています。



ああ しんど