ショボいCGに全てを捧げた『ミッドウェイ』(2019)
大味かつ豪快な作風で知られるローランド・エメリッヒの最新作『ミッドウェイ』は冒頭に制作会社のロゴが次々流れるが、聞いたこともないカナダや中国の会社ばかり。何しろカナダからはじまったライオンズ・ゲートが配給だもんなあ。これって要するに最大手の会社は「今さらミッドウェイか?」って手を出さなかったのかも。
『ミッドウェイ』は76年にアメリカ建国200周年を記念してつくられた当時の超大作のリメイクだ。建国200周年を記念して当時のオールスターキャストが勢ぞろいしている。チャールトン・ヘストン、ヘンリー・フォンダ、グレン・フォード、ハル・ホルブリック、ロバート・ミッチャム、ジェームズ・コバーン・・・日本からも三船敏郎、パット・モリタを起用している、日米オールスター映画。
とはいえ、映画は淡々とし過ぎて盛り上がりに欠ける上に戦闘シーンの多くを他の作品からの流用で済ませた。しかも日本の映画から。建国200年記念映画を余所の国の映画からの流用で済ませるなよ!
エメリッヒのリメイクはそんな76年版にならってのオールスター総出演だ。太平洋艦隊司令長官チェスター・ニミッツ役にウディ・ハレルソン、情報主任参謀エドウィン・レイトンにパトリック・ウィルソン。航空機パイロット、ディック・ベストにエド・スクライン、クラレンス・マクラスキーにルーク・エヴァンス、ジミー・ドゥーリットルにアーロン・エッカート。第16任務部隊司令長官ウィリアム・ハルゼー中将にはデニス・クエイド、その後任でミッドウェー海戦を指揮するレイモンド・スプルーアンス少将にジェイク・ウェバー。
日本側も山本五十六に豊川悦司、南雲忠一は國村隼、山口多聞に浅野忠信という76年版に負けず劣らずの日米オールスターキャストが実現した。
映画は太平洋戦争開戦前、1937年の東京。駐在武官のレイトン少佐は山本五十六との会食の席でアメリカからの石油が途絶えれば日本は開戦する用意があるとレイトンに忠告する。それをアメリカ政府に伝えてくれというわけだが、レイトンが伝えたのか、伝えても相手にされなかったのか、日本は中国に進出し、ドイツは欧州を蹂躙する。アメリカは中立であったが日本軍による真珠湾攻撃を受けたことから参戦を決意する。真珠湾の失敗から情報分析の重要性を再確認した情報部は真珠湾の軍楽隊を掻き集め、暗号分析にまわす。結果、日本軍の暗号文「AF」がミッドウェイ島のことではないかと予想するが確信がなかった。
レイトンら情報部は「AF」がミッドウェイのことであると確信し、「AFとは南太平洋である」とするワシントンを説き伏せねばならない。そこである策を取る。ミッドウェイから「浄水機器が故障した」と平文で打電させる。それを傍受した日本軍が「次の攻撃目標では真水がなくなった」と通信を飛ばした。
「AFがミッドウェイだ」
76年版と違って真珠湾攻撃が前半の見せ場となる。前述したように大手の映画会社が関わってないせいか、CGのレベルが2020年の映画(本国の公開は2019年)とは思えない。正直ショボいです。『インデペンデンス・デイ』や『デイ・アフター・トゥモロー』などで最新CG技術でスペクタクルな映像を見せてくれたエメリッヒもこんなショッパイ映像を使わなければならないなんて・・・真珠湾で思わず大敗北を喫した米軍の気持ちがわかるといえなくもない!
後半の見どころはもちろん1時間以上をかけて描かれるミッドウェイ海戦だ。マクラスキーの艦爆が空母加賀に爆弾を命中させ大破、爆撃機ドーントレスが逆さ落としで赤城に爆弾を落とし、爆弾をつんだ艦爆が次々と誘爆し赤城は洋上に停止するという史実に基づく名場面は(お安いCGとはいえ)ド迫力で再現された。
加賀、蒼龍、赤城を失い最後の生き残りとなった空母飛龍も攻撃を受け大破炎上。山口多聞司令の判断により総員を退艦させた後、雷撃で飛龍を沈めることに。艦と運命を共にするという山口多聞に加来艦長がお供をと言い出すと「よかろう!一緒に月見でもしよう!」と語るこの映画における日本軍最大の名場面には目頭が熱くなる。という風に無残な大敗を喫した日本軍側にもきちんと見せ場があって日米双方のドラマを描こうとした思惑は理解できるのだが、いかんせん話が淡泊すぎてエメリッヒにありがちな盛りすぎる見せ場がまるでない。
忠実にしようとしたがあまりに淡々と話が進むだけでドラマティックな展開に欠ける、って前の『ミッドウェイ』と同じやんけ!そこだけは忠実なんだ・・・
適度に忠実で、適度にヒロイックで、CGは間違いなくショボいというエメリッヒにしてはありえない中途半端さが期待外れでガッカリ。『ミッドウェイ』ってアメリカにとっては太平洋戦争で破竹の勢いで勝ち続ける日本に対して転機となった重要な戦いなのに映画にするとショボくなるのはなぜ?
東映の英断となるか?
つい先日、自宅での乾燥大麻所持により逮捕された俳優・伊勢谷友介。彼は公開待機中の映画が数本あるのだが、今回の逮捕を受けて各映画会社が対応に追われていると思われる。この手の事件が起きると世間からの非難、バッシングを恐れて公開延期、本人の出演しているシーンをカットもしくは取り直しをするなどすることがほとんどだ。
そんな中、伊勢谷が出演する来年公開予定の東映作品『いのちの停車場』の記者会見が行われ、作品を予定通りに公開し伊勢谷の出演場面もカットしないと明言した。
東映、吉永映画は伊勢谷容疑者場面ノーカット公開
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202009110000310.html
> 会見の冒頭で東映の手塚治社長(60)が、大麻取締法違反容疑(所持)で8日に逮捕された伊勢谷友介容疑者(44)の件について触れ、同容疑者の出演シーンをカットすることなく、映画を完成させて公開することを明らかにした
> 手塚社長は、判断を下した理由について「映画は、劇場の公開でスタートする。鑑賞する意図を持ったお客さんに来ていただく、クローズのメディア。テレビ、CMとは質が違う」と、作品を見たい観客が、自らの判断で選んで鑑賞するメディアであると強調。その上で「個人と作品は違うという東映の見解の元、作品を守る配慮をした。ご理解いただければと思います」と語った。
これぞ「英断」ではないだろうか。「個人と作品は違う」とはまさにその通りで以前もピエール瀧が違法薬物使用で逮捕されたときも瀧が出演する『麻雀放浪記2020』を予定通りに出演場面もカットせずに公開した東映だけのことはある。その時も前社長が同じような決断を下しており、「個人と作品は違う」見解が東映の方針として貫かれているものと思われる。
ただこれも直接的な被害者のいない事件だからというのはあるだろう。交通事故や暴力事件の加害者だったらまた対応も違ったかもしれない。
とはいえすでに東映の「決断」はなされた。この判断が他の待機作品『十二単を着た悪魔』(キノフィルムズ)、『とんかつDJアゲ太郎』(わーナー・ブラザース)、『るろうに剣心最終章』(東宝)にどう影響を及ぼすのか?

