人間狩りの未来を救え『ヒューマン・ハンター』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

人間狩りの未来を救え『ヒューマン・ハンター』

ニコラス・ケイジ主演、2017年、カナダで制作されたSF映画。

 

 気候変動と経済の破綻によって極端な食糧難に陥った近未来の世界。アメリカはこの危機を脱するために一つの機関によって国を統制するようにした。人民省である。国境に壁をつくり人口の流出を統制した人民省はさらに国民を二つに分けて査定した。役に立つものと立たないものに。役に立たないものは「体制維持の負担になる非生産者」という名目でニュー・エデンと呼ばれる「良い生活を送れる」地域に送られるのだった。


 ディストピアSFを想起させる本作は広大な草原を貫く道を一台の車が走っていくシーンからはじまる。まるで『ブレードランナー』のラストカット風の映像。『ブレードランナー』や『ソイレント・グリーン』『未来世紀ブラジル』がイメージさせる。

 人民省の役人ノア・クロス(ケイジ)は非生産的な国民にニュー・エデンへの移住を斡旋するため、それぞれの元に赴く。わざわざ一件一件、足を使って訪ねるのだ(ひどく非効率的)。モーテル暮らしの老人チェスター・ヒルズに会いに行くクロスだが、ヒルズ老人は移住を拒否。
「かつてアメリカは自由の国だった。私はホワイトハウスに招かれたこともあるんだぞ」
 そんな老人の部屋には「MAKE AMERICA GREAT」(偉大なるアメリカ)と書かれたポスターが張られ、トランプ大統領とのツーショット写真が見える。
 この映画で描かれる未来はトランプ政権のアメリカのなれの果てだ。ポスターの文字はトランプ政権のスローガン「Make America Great Again」から。
 強制送還しようとするクロスに「私は真実を知っている」と告げるヒルズはショットガンを撃つが反撃され死亡。そんなクロスを上官のアダム(ヒュー・ディロン)は(なぜか)褒めたたえる

 別の日、クロスはある家族の元へ査定に行く。レイチェル(サラ・リンド)とルーカス(ジェイコブ・デイヴィーズ)のウェラー親子だ。都市部から離れているであろうところにぽつんと立つ家屋で明らかに貧しい暮らしをしている親子は目一杯生活に問題がないことを装うが、クロスは12時間以内のニュー・エデン移住を通告する。
 しかしルーカスが明日学校で合唱の発表会があると言われ、情にほだされたクロスは一日だけ待ってやることに。自宅に戻ると部屋の中にはアダムが待っていた。鍵を勝手に開けられ、自身の判断で送還を延期したことを知られているクロスは不穏なものを感じる。ヒルズ老人が胸ポケットに隠していたメッセージ
「決して屈するな」
 が気になってしまうクロス。
 政府の請負業者ラベッチの元にたどり着いたクロスは「これが真実だ」と一枚のメモリーカードを受け取る。ラベッチは人民省の真実を告発するレジスタンスでメモリーカードの中身を見たクロスは驚愕するのだった。

 翌日、ルーカスの発表会にいったクロスは親子の家に戻り、すぐに出る用意をしろという。すると人民省のエージェントが家を取り囲もうとしていた。家屋に乗り込んできたアダムは二人を強制的に連行しようとするがルーカスの反撃にあって片目を潰される
 なんとか車で逃げ出した3人は道中、車を替えながら旅先で出会う人たちの助けを借り、国境を越え自由のあるカナダを目指そうとする。アダムは上役からクロスらの確保を命じられ、失敗すればお前をニュー・エデンに送るぞと通達される。

 



 壮大な世界観を持つ物語だが、カナダで制作されていることからもわかるとおり、かなりの低予算作品であるため描写の数々が安っぽいのが残念。やたらと自然に囲まれた場所が出てくるし、統制された社会のくせにわざわざ査定を伝えにいかないと連れ去ったりできないなんて手間暇かかり過ぎ。実際、査定員が反発したためにトラブルが起きてるし。人民省の上役が会話しているところなんてただのだだっ広い広場だし。

 

 それでもなんとか限られた予算の中でSFらしく見せようという努力は買いだ。
 誰でも予想はつくとおもうけど、ニュー・エデンは恵まれた約束の地ではなく、ガス室と焼却炉で構成された非生産的国民を抹殺する施設だった(だからヒルズを殺したクロスをアダムは「よくやった」と褒めたたえたのだ)。

 この展開は『ソイレント・グリーン』に比べればパンチが効いておらず、償却した遺灰を箱に詰めて集めているところはナチスっぽいというか、ムダなことしてるな・・・という感じ。


 情にほだされただけで親子をクロスが命がけで救う意味も弱いな・・・と思ったら実はルーカスはクロスの実の息子でレイチェルの正体はアマンダという本当のレイチェルの隣に住んでいた人(!)で、生活苦からレイチェル(クロスの嫁)は2歳のルーカスを売り飛ばして食費に替えようとしていたところ、助けようと思い立ち、レイチェルが事故で亡くなったのをいいことに死んだレイチェルになりすましていたのだった。
 クロスは実の息子を救うためにニュー・エデンに送ろうとしたが真実を知ったがために彼を助けようとしたってわけ。

 後半は雑なドミノ倒しみたいに事態が解決していって、まったく納得できないオチなのが残念。途中まではよかったのに。最後はクロスが残したメッセージで革命が起きるんだけどあの程度で倒される政権、あまり大したことがなさそう。
 

 とはいえ製作者の「トランプ政権を批判したい」というメッセージだけは伝わってきて、僕も同意するよ(トランプ政権真っただ中の時代に作られただけのことはある)
 家族(と人類の未来)のために犠牲になろうとするケイジの姿は涙なしには見られない。ケイジ度☆7つ。