検閲という名の悪魔教、その戦いの記録『オーメン:ザ・ファースト』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

検閲という名の悪魔教、その戦いの記録『オーメン:ザ・ファースト』

 70年代オカルト映画ブームの代名詞でもある『オーメン』が2020年代に蘇った!『オーメン:ザ・ファースト』は1976年の第一作『オーメン』は2006年に一度リメイクされたが、今回は第一作の前日譚という位置づけ。悪魔の子ダミアンが如何にして誕生したか?その謎に迫る。

 

 だから作品舞台は一作目より以前の1971年。ローマの教会にやってきたアメリカ人修道女のマーガレット(ネル・タイガー・フリー)はローマ中に蔓延する若者たちの反体制運動を目の当たりにする。教会の権威が失墜する中、教会内の孤児院で隔離されるように暮らしている少女カルリータ(ニコール・ソラス)の事を気に留めるようになる。

 街中で会った神父ブレナン(1作目でダミアンを殺せと忠告してきたあの神父!演じている役者は別)は教会に気をつけろ、カルリータから目を離すなと忠告(1作目のように)。以後カルリータの周囲では不可思議な出来事が起き続ける。アンジェリカ修道女が「あなたのためよ!」といって自らの体に火をつけ、首つり自殺を遂げる(1作目の再現)。

 

 マーガレットはブレナンの元を訪れる。彼の口から教会内のある派閥が修道女に悪魔の子を産ませようとしている計画が語られる。悪魔の恐怖が世間に蔓延すれば人々は悪魔に対抗する存在として神への信仰を取り戻すだろうと・・・壮大なマッチポンプ!

 その反キリスト派たちは修道女を山犬と交わせて悪魔の子を産ませようとするが、ほとんどが死産であったり、女児であったりと失敗を繰り返す(悪魔の子は男児でなくてはならない)。生まれた女児にはさらに山犬と獣姦させて悪魔の子を生み出させようとし、その「道具」とはカルリータなのでは?

 教会内の反キリスト派に命を狙われながらカルリータの出生記録を手に入れたマーガレットとブレナン神父は恐るべき事実にたどり着く。

 

 

 舞台設定が70年代ということもあって映画全体のテイストが70年代に貫かれている。例えば修道院が舞台だったりするのは『サスペリア』風だし、反キリスト派が悪魔の子をそうと知らず女性に孕ませて産ませようとするのは『ローズマリーの赤ちゃん』(これは60年代だけど)っぽく、昨今の激しいゴア描写をスピーディーに描くタイプのホラーではなく、神経にねじ込むような厭味ある描写はまさしく70年代のオカルト描写にプラス、教会内の不祥事にも似た恐ろしい陰謀が隠されているというのは『ヴァチカンのエクソシスト』みたいな現代風サスペンスも描かれているのだ。

 前日譚だけあって最後は1作目につながるような話にしているのだけど、別の世界線が提示されており、ここから救世主と悪魔の戦いとなる新3部作に展開しそうな予感。

 旧シリーズは悪魔の子をそうとは知らず与えられてしまった父親の葛藤と後悔だったけど、今回はそうとは知らず悪魔の子を産んでしまい、悪魔とはいえ我が子を手にかけられなかった母親の葛藤と後悔というモチーフに変えている。女性が物語の中心に置かれているのも現代風だな。

 

 あと気になるのは火あぶり首つりとか、人体真っ二つとか1作目を凌ぐエグイ描写がストレートに描かれてるのに、悪魔の子が誕生するシーンはモザイク入りって??人の死より生命の誕生の方が見せてはいけないものってこと??

 監督のアルカシャ・スティーブンソン(女性)は膣を映すシーンを残すかどうかでMPA(レイティングを管理するアメリカの映倫)と長い戦いを繰り広げた。スティーブンソンは「悪魔の陰茎を描くのは何も言われないのになぜ膣だけにクレームをつけるのか」と憤っていたが全くその通りとしか。

 検閲という名の悪魔教と戦ったスティーブンソンのメッセージを映画で確認してくれ!