ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア 制作25周年記念/日本語吹替音声収録版 [Blu-ray]
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バリバリの強面で恐れるもののないマーチン・ブレスト(ティル・シュヴァイガー)とひょろひょろで気弱そうなもやし男の
ルディ・ウルリツァー | (ヤン・ヨーゼフ・リーファース) |
。正反対の生きざまを送ってきた二人の男は同じ病室に入院する。マーチンは骨肉腫、ルディは脳腫瘍。医者から余命僅かの宣告されてしまったのだ。二人は酒(病院なのに)を煽りながら語り合う。海を一度も見たことがないと漏らすルディにマーチンは
公開25周年を記念してリバイバル上映中のドイツ映画『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』は90年代のポスト・ジャーマン・シネマを代表する一本。60年代のドイツ映画はフランスのヌーヴェル・バーグに影響されたようなニュー・ジャーマン・シネマが起き、ヘルツォーク、ヴェンダース、ファスビンダーといった監督が現れた。彼らの映画は時に芸術志向であったため、難解すぎるという評価を下され、世界的には話題になっても国内でヒットしないという状況が続き、80年代には勢いが収束したが、代わりにハリウッド的な娯楽作を作り出すウォルフガング・ペーターゼンの『ネバー・エンディング・ストーリー』『U・ ボート』が興行的な成功を収める。また80年代はビデオの時代であったため、映画館の観客動員数は落ちていった。
そんな中、ニュー・ジャーマン・シネマの固定概念から逃れ、ペーターゼンの様な娯楽大作でも出ない新時代の映画ポスト・ジャーマン・シネマが90年代ドイツを席巻する。『バンディッツ』『悦楽晩餐会 または誰と寝るかという重要な問題』(以上97)『カスケーダー』『ラン・ローラ・ラン』(以上98)が国内及び世界中でヒットする。中でも』『ノッキン~』は70年代前後のアメリカン・ニューシネマの影響を受けつつ、独自の娯楽性を持たせている稀有な作品。
「余命僅かの人間が犯罪を起こしながら暴走する」という話なのに追手のギャングが間抜けすぎたり、銃弾を撃っても絶対に当たらないし、強盗されてる側の方が主人公二人を気遣ったりとか、シリアス面よりもコメディの方が強調されている。
特筆するのはクライマックスに登場するギャングのボス、カーチスで彼は自分の金を使い込まれたのに二人を処刑するでもなく、無罪で放り出して(フランキーが二人を殺そうと脅すのだが、余命僅かな二人はまったくビビらないので拍子抜け)
「天国では皆が話す。海のこと、夕陽のこと…あのバカでかい火の玉を眺めているだけで素晴らしい。海と溶け合うんだ。ロウソクの光のようにひとつだけが残る。心の中にな」
と『ブレードランナー』の「雨の中の涙のように」ばりの名台詞をつぶやくハウアー。監督のトーマス・ヤーンは『ブレードランナー』のレプリカント役で世界的に有名なハウアーをどうしても出したくてマネージャーに依頼するが大金を要求されてガックリ。しかしハウアー本人が「脚本が気に入ったので出る。ギャラのことは気にするな」と快諾されたという。レプリカントは人間よりも限られた命しかないが、人間を痛めつけることで命の重さ、大切さを教える。「命よりも大切なもののため」に走り出す二人をカーチスだけじゃない、映画の登場人物全員が応援するのだ。
海に向かって走り出し、海で終わるのはヌーヴェル・バーグらしさが炸裂してたね。ドイツは北部までいかないと海がなく(黒海とバルト海)「海を見たことがない」という設定は上手い。日本でリメイクしたとき、この設定をそのまま使っていて相当に無理があったな。
マーチン役のティル・シュヴァイガーはこのヒットでハリウッドに招かれ、アクション映画の悪役俳優として名を馳せる。本国ではテレビ映画で一匹狼の刑事を演じた『ニック/NICK』シリーズのヒットでドイツの国民的俳優としてのポジションを確立。ルディ役のリーファースも後にドイツ赤軍の創設者を描いた『バーダー・マインホフ 理想の果てに』に出演するなど本国で活躍中。