混沌の果てに『電エースカオス』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

混沌の果てに『電エースカオス』

 河崎実監督の『電エース』35年の歴史を持つ巨大特撮ヒーローのシリーズである。ゴジラやウルトラマンは映画会社やプロダクションの作品だから50年以上続くのはわかるけど、同じ人間が35年間も作り続けているシリーズは他にないんじゃない?出てくる人間も35年間一緒だし!ギネスに申請してもいいぐらいだ。

 

 気持ちよくなると2000mの巨人に変身するヒーロー、電エースは35年間の歴史でウルトラマンのように兄弟がいる。総勢70人!ビデオからはじまり、テレビ放送、衛星放送、DVD、配信と姿を変え今回はついに初の劇場用映画に進出だ。

 今回初めて電エースを見るお客さんのために、初代である電エース・ファーストの映像からスタートだ。令和ライダーの新作にライダー1号・2号、V3の初回をくっつけてるようなもん!おなじみの高速エンドロールに送られてきたハガキを燃やす場面もバッチリだ(なんせビデオ作品なので、再見する機会がほとんどないのでありがたい)。

 

 本作は2019年の『電エースキック』と2022年の『電エースQ』の映像を再編集したうえ、新規撮影分を加えたごった煮映画だ。おかげで上映時間が110分を超えたが、明らかに尺稼ぎしているような場面もあって河崎ファンはほっこりさせられる。

 

 電五十郎(小林聡、電エースキック)は行きつけのバーのママ(ちかまろ)に惚れていた。そんな折、世界を破滅させようとハリウッド星人(ハリウッドザコシショウ)が襲来。辛くも電エースキックは勝利するが、失恋する。

 その弟、電五十二郎(電エースQ、タブレット純)は昭和歌謡をこよなく愛する男だが、昭和を憎むユーリク星人(ユリオカ超特Q)が現れる。電エースQは昭和歌謡を一曲フルサイズで歌い切らないと変身できないので変身したときには怪獣は去ったあと、という欠点を突かれるが無事勝利。

 平和になったはずの世の中では異変が起きていた。SNSでしあわせ一杯の投稿をする人々に次々ネガティブコメントが殺到、投稿者は負のエネルギーに飲まれ消えていく。これは人間の邪悪なエネルギーを集めているムクリタ星人(清水綋治)の企みだったのだ。キックとQは人間の嫉妬の力を武器にする最凶の宇宙人に勝つことができるのか?

 

 河崎実作品は昭和ウルトラシリーズの強い影響を受けており、オマージュが散りばめられているのはもちろん、当時の役者たちも登場する。観る方もネタ元を知っているから大爆笑(知らないと意味がわからないシーンの連続になるんだけど・・・)観客のオタク度の濃さを試される映画なのだ。突然古谷敏さん(ウルトラマンのスーツアクター、セブンのアマギ隊員)や勝呂誉(『怪奇大作戦』の三沢研究員)が出てきても普通は意味が分からない。まあ、このメンツが元何なのかを知っていたとしても、出演シーンの意味はわからないけれど・・・

 

 でも、知ってる人は出てきたら嬉しいじゃない!?薩摩剣八郎さんとか。ところが薩摩さんの登場シーンは外で稽古をつけていたら近所のおばさんに「もう少し静かにしてくれない?」とクレームをつけられちゃう(笑)完全にNGテイクやんけ!これ、薩摩剣八郎さんの遺作なんだよね。『電エースカオス』が遺作って、最高なのか最低なのか・・・

 

 さらに『電エースカオス』は各界のレジェンドたちも登場する。プロレスラー藤波辰爾!(ドラゴンつながりで森累珠も出る)きちんと「お前平田だろ!」のオマージュも出てくる。さらにグレート小鹿!小鹿は馬場・猪木・大木金太郎時代のレスラーで力道山の弟子。他の人たちはみんな死んじゃって、最後の生き残りですよ。そして元キックボクサー藤原敏男。タイのラジャダムナンで頂点に立ったこともある「キックの荒鷲」!沢村忠よりもすごい!

 そんなメンバーが何の脈絡もなく、出てくる。まさにカオス(混沌)!本当は何も考えずに出しているだけじゃないのかという気もするが、監督曰くカオスのタイトルは

 

「ウルトラマンを創った成田亨先生が、古代ギリシアのプラトンの考え方に則り、ウルトラマンは秩序=コスモスと名付けていたのに相対したものだ」

 

 という。しっかりと考え抜かれた上の豪華出演陣なのだ!その辺のしょうもない邦画製作者より、知的な匂いすら感じられる『電エースカオス』!

 河崎実監督は間違いなく異能の天才だ!と思わせられるが、劇中には子供のころにもらったラブレターを保存しているという意味不明な行動も見受けられるのだった。「みんな保存してるでしょ?」ってしてないよ!(監督の物持ちの良さは有名だけど)

 天才なのか、それとも大馬鹿者?秩序?混沌?35年の歴史を経ても尚、河崎監督は謎だらけなのだった。