ワッフルメーカーは命がけ『サンクスギビング』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

ワッフルメーカーは命がけ『サンクスギビング』

 2007年に公開された『グラインドハウス』はかつてB級映画を二本立てで上映していた映画館の上映形式を現代に蘇らせた企画で、そういった低予算映画はプロデューサーによって好き勝手に編集され、予告編には劇中に存在しないカーチェイスシーンや女の裸が出てくるシーンをつぎ足しされていたことがあり、『グラインドハウス』では存在しない映画の予告編がいくつか流れていた。そのうち二つ『マチェーテ』(2010)『ホーボー・ウィズ・ショットガン』(2011)は長編映画化された。『サンクスギビング』は三つ目の映画化である。

 

 

 サンクスギビング、感謝祭はアメリカで11月の第4木曜日に行われる祝日。16世紀の終わりごろ、イギリス国教会の教えに反発した清教徒の一団がメイフラワー号で海を渡りマサチューセッツ州プリマスに移住。彼らはピルグリム・ファーザーズと呼ばれた。彼らは農耕を始めたが、土壌に遭わない種子だったため、うまくいかず、餓死者を出した。彼らはアメリカ先住民の力を借り、危機を脱した。1621年、ピルグリム・ファーザーズは先住民を招いて収穫を祝う宴を開いた。これが感謝祭のはじまり。そして南北戦争の終結後、エイブラハム・リンカーン大統領は国内の融和を図るために11月最後の木曜日を感謝祭の日と定めた。

 現代では感謝祭の翌日金曜日からブラックフライデーが始まり、消費者の購買意欲を掻き立てる、一年で最も売り上げが伸びる時期となっている。・・・という背景を理解していなくても楽しめる映画が本作だ。

 

 

 舞台はもちろんマサチューセッツ州プリマス。感謝祭の夜、深夜0時からブラックフライデーのセールを始めようとするスーパー・ライトマートに開店を待つ客が列をなしている。群衆を整理しているのはたった二人の店員と警備担当のエリック・ニューロン保安官(パトリック・デンプシー)だけ。そんなんで大丈夫?客らは「早く開けろ」と騒ぎ立てている。ちなみに彼らのお目当ては限定30個のワッフル・メーカー(笑)

 そんな中、スーパーのオーナーの娘ジェシカ(ネル・ヴェルラーク)、その恋人ボビー(ジェイレン・トーマス・ブルックス)と仲間たちは特権を利用して先に中に入れてもらう。よせばいいのに彼らは外の観客を煽るような行為を取り、憤慨した客は柵を壊し、ガラス戸を破壊して店内になだれ込む。群衆は店内で略奪をはじめ(ワッフルメーカーを・・・そこまでして欲しいのか?そんなもん)、死者まで出してしまう暴動に発展する。ジェシカを助けようとしたボビーは群衆に足を踏みつけられ腕を折ってしまい、メジャーリーガーへの夢を絶たれてしまう。

 

 一年後。忌まわしい感謝祭の日が近づきながら、店長はブラックフライデーセールをやると宣言し、世間の批判を浴びていた。暴動で妻アマンダ(ジーナ・ガーション)を失った店長のミッチ(タイ・オルソン)も「セールをやめろ」運動を展開している。店内の監視カメラの映像が途中で切れていたことで暴動のきっかけを生んだ犯人が誰なのかはわからずじまいに。途中までの映像はYouTubeやTikTokで拡散され、「ファイト・マート」のタイトルでバズっていた。

 街のダイナーで働くウェイトレスが何者かに襲われ、店の看板に下半身を突き刺されるという事件が勃発。翌日、SNSにはジョン・カーヴァーと名乗る男がジェシカらに食卓の画像をアップし、テーブルには名札がタグ付けされていた。それを発端に次々殺人が起き、写真には犠牲者の肉体の一部が飾られていく。

 カーヴァーは動機を「復讐」としており、感謝祭の暴動事件に関連していると感じたジェシカは恐怖に怯える。なぜなら店内の監視カメラを切ったのは彼女の継母キャスリーン(カレン・クリシェ)がスーパーを守るためにやったことだから。

 罪悪感に塗れたジェシカは父親のパソコンから消去された映像を復元し、「犯人はこの中にいるかも」とニューロン保安官に相談。

 そのころ、一年間も行方知れずだった恋人ボビーが姿を見せる。突然姿を現したボビーにみんなが疑いの視線を向ける。ジェシカはボビーがいなくなった後、彼と不仲だったライアン(マイロ・マンハイム)にちょっといい関係になっていた。ボビーこそがジョン・カーヴァーなのか?

 カーヴァーを捕らえるため、感謝祭パレードに覆面警官を忍ばせ、ジェシカを囮にする作戦を展開。パレードの列に発煙筒が投げ込まれるが、それはミッチによるもので、それに乗じて現れたカーヴァーは七面鳥の着ぐるみの首を切り落とし(偽予告編にあったシーンの再現)大パニックに。逃げ出そうとしたジェシカたちは逆に捕らえられてしまい、全員がカーヴァーの晩餐会に招待される。その様子がライブ配信される中、メインディッシュであるキャスリーンの人体七面鳥丸焼きが登場です!

 

 

 偽予告編を手掛けたイーライ・ロス監督による16年越しの企画で、かつて『ホステル』『グリーン・インフェルノ』でホラーファンの度肝を抜いたロスだが、ここ数年は不作の時代が続いており、久しぶりのホームランを放った感がある。

 元は低予算B級映画の予告編であったはずが、ロス監督の丁寧な職人仕事が目立つ。冒頭のライトマートの暴動シーンなんてB級映画だったらもっとあっさり描かれてるところ、時間をかけてガラス戸を割って突入する客が破片で首を切って出血多量で死ぬところまでしっかり描いてるもの。名前も知らないこいつが(笑)。

 この時群衆に踏みつぶされるジーナ・ガーションなんて、潰された後で髪の毛がカートのタイヤに絡まって毛髪ごと引っこ抜かれるトドメまで刺している!延々と惨劇を映した後でようやくタイトルですから。

 

 偽予告編にあった殺しのテクニックはほぼすべて再現されており、みんな爆笑したトランポリンの下からナイフが突き出てチアリーダーのアソコを串刺しするところもガッツリ再現!偽予告の最後に出てきた人体七面鳥も、制作の過程までをしっかりと辿っていて、これで君も人体七面鳥が作れるぞ!

 16年の間に変わったことがあるとしたら、スマホの発達でしょう。16年前はiPhoneが出たばかりだからなあ。ジョン・カーヴァーがスマホを利用してターゲットにメッセージを送り、バズりばかり考えている若者たちに怒りの斧を振り降ろしつつ、またスマホによって足元を抄われるところも皮肉ですな。肉料理だけに。

 

 最後に明かされるジョン・カーヴァーの正体もよく見ていたら気が付くようになっていて、卑怯な感じはしない。ただ、クライマックスのミスリードというか、トリックは不可能に近い気がするんだけど、まあご愛敬ってことで!