暴力の後で甘い言葉を囁くヤツは信用するな『レンフィールド』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

暴力の後で甘い言葉を囁くヤツは信用するな『レンフィールド』

 ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』を元に換骨奪胎したコメディ映画『レンフィールド』を観た。ニコラス・ケイジ扮するドラキュラ伯爵のパワハラに辟易した従者レンフィールドが彼の支配を逃れて自由に生きようとする様をコミカルに、そしてグロテスクに(!)描いた作品。

 

 レンフィールド(ニコラス・ホルト)はDV被害者の互助会に通っている。参加者は家族や恋人の暴力から何とかして逃れようとするが、うまくいかない。相手を怪物に準える参加者たちにレンフィールドはうなづく。何しろ自分の御主人様こそ本物の怪物だから(笑)

 大昔、弁護士だったレンフィールドはトランシルヴァニアのドラキュラ伯爵(ケイジ)の城に招かれる。海外での仕事が増えるかもと甘い期待を寄せた彼だが、ドラキュラの能力に魅入られ、妻と子供を犠牲にしてしまう(この時の様子はドラキュラ映画の古典、トッド・ブラウニング監督の『魔人ドラキュラ』の完全コピーで笑ってしまう)。

 

 働きが悪いと小突かれながらも、御主人様のためにせっせと生贄をささげるレンフィールド。ある日、ドラキュラ退治にやってきた司祭とヴァンパイア・ハンターの前に苦戦するドラキュラは動きを封じる防護円陣に捕らわれてしまう。絶体絶命のドラキュラは従者に助けを乞う。

 

「私はお前の唯一の救世主、たった一人の友人だ。お前の唯一の味方だ」

 

 彼をさんざん暴力で縛り付けてきた御主人様の哀れな声につい、気を許してしまったレンフィールドは防護円陣を消してしまう。ドラキュラは司祭を惨殺するもヴァンパイア・ハンターに太陽の光を浴びせられてしまい、燃え尽きる寸前にハンターを巻き添えにするのだった。

 燃え滓になりながらも生き延びた伯爵は復活の日を待つことに。以後レンフィールドは忠実な従者として隠れ家を探し、伯爵のための餌(人間の死体)を提供し続ける。どやされ、殴られ、そのたびに「お前を理解しているのは私だけだぞ」と甘い言葉を囁かれて。レンフィールドはDV野郎に逆らえない被害者だ。

 

 そんなレンフィールドに本当の救世主が現れる。警察官のレベッカ(オークワフィナ)だ。警察とマフィアのロボ・ファミリーが結託した腐敗の町で彼女はたったひとり、正義を追い求めていた。ボスの息子、テディ・ロボ(ベン・シュワルツ)と手下たちに銃口を突き付けられ、服従を迫られた彼女は「言いなりになるのは御免だね」と堂々反発。決してくじけない、へこたれない。

 自分もドラキュラの言いなりになるのはイヤなのに、逆らえない。自分にはない強いものを持っているレベッカに惹かれたレンフィールドは彼女を助け出す。以後、レベッカと互助会の助けを借りてレンフィールドは自由への道を歩みだす。

 

 しかし、そんなことをドラキュラは許すはずもなく、互助会メンバーを皆殺しにし、テディを通じて母親であるボスのベラ(ショーレ・アグダシュルー)と結託。街を恐怖で支配しようとするのであった。

 

 

 ドラキュラとレンフィールド、支配と被支配の関係をDV被害者と加害者という現代風にアレンジした物語は実にうまいアイデアで、ドラキュラがレンフィールドを「お前も私の言いなりで多くの人を殺した。共犯者だ」「お前のことをこんなに思っているのに、どうしてお前は離れていくんだ?」「お前の味方は私だけだぞ」と言ってることが、暴力振るった後で「お前を殴った俺の手も傷ついているんだ!」と言って優しく抱きしめるDV野郎のそれだよ!

 互助会でドラキュラのことを「ナルシスト野郎」呼ばわりして(ケイジのことやん!)対処法の本をくれるところとか、もう最高だね。

 

 監督は『LEGO ムービー』『レゴバットマン ザ・ムービー』のクリス・マッケイ。ドラキュラとレンフィールドの関係に新たな視点を見つけ、腹がよじれるコメディをぶち込んだ上にハードなアクション、そして限界にまで達したグロテスク、スプラッター描写、マッケイの才気溢れる傑作です。

 ケイジ映画としてもハイレベルで、彼が大仰に登場して大げさなセリフ回しをするだけで爆笑必至。やっぱドラキュラ役者はベラ・ルゴシの時代からこうでなきゃ!レンフィールド役のニコラス・ホルトも『ウォーム・ボディーズ』以来の死んでる人間の役がよく似合う。

 ちゃぶ台ひっくり返したような無茶苦茶なオチも含めてニコラス・ケイジ度10の傑作!これが劇場公開しなかったの、惜しすぎる。