まっててごらん 血とチーズが駆けてくる『マッド・ハイジ』
ヨハンナ・シュピリの児童小説『アルプスの少女ハイジ』をゴア描写満載のスプラッター・ホラー、コメディ化したのが本作だ。日本では宮崎駿の最新作『君たちはどう生きるか』と同日上映された。宮崎が主要スタッフのひとりだった『ハイジ』のホラーを同日に公開とは、シャレが利いているじゃないか。
開幕、パラマウント映画のロゴマークになぞらえたアルプスの山をマイリズ・チーズが円形に囲み、「スイスプロイテーション・フィルムズ」のロゴが大写しに。
かつてのハリウッド映画には不道徳なものや、どぎつい暴力描写などをテーマにした「低俗な」作品群があり、そういったジャンルをエクスプロイテーション映画と呼んだ。だから「スイスの低俗な映画です」ってわけ。ロゴが出た瞬間にこの映画が目指しているものが何か、すぐにわかる。
チーズ会社の社長であるマイリ(キャスパー・ヴァン・ディーン)は自社のチーズを広めるため、大統領選に立候補し、民衆の熱狂的な支持を得て当選する。大統領の座に着くや否や、マイリは独裁者としての本性を露にし、自社製品‟マイリズ・チーズ”以外のチーズの流通を禁止する。マイリが作らせた愛国心を鼓舞するプロパガンダ映像「栄養と愛国心」の中で「I’m doing my part」(私は自分の役目を果たします!)とセリフがあり、マイリ役のキャスパーが主演した『スターシップ・トゥルーパーズ』のビデオのパロディになってるところがポイント。
乳製品を口にできない乳糖不耐症者はスイス国民としての権利をはく奪され、強制収容所送りになる!自由な取引を重んじる一部のものたちは密かに自家製のチーズを闇で流通させていた。
そんな闇流通業者の大物がペーター(ケル・マツェナ)だ。彼は羊の毛皮を着こんでゴールドのチェーンをジャラジャラさせて街を歩けば女たちが皆振り返る、ポン引きみたいなやつで、アルプスの山で暮らすヤギ飼いの女性ハイジ(アリス・ルーシー)と交際している。ハイジの親代わりの老人、アルムのおんじ(デヴィット・スコフィールド)はチンピラと付き合うのを止めろと諭すが、年頃のハイジは聞く耳持たない。「彼のことを悪く言わないで!愛し合ってるのよ」
マイリ政権から指名手配されたペーターは特務警察のクノール司令官(マックス・ルドリンガー)の手によって、町中で処刑される。恋人の死を目の当たりにしたハイジはクノールらの手から逃れるが、山小屋に追い詰められる。それを止めようと銃器を持ち出すのはアルムのおんじだ。彼はマイリ政権に反発するレジスタンスの元メンバーだった!そして死んだとされたハイジの両親も元レジスタンスだったのだ。
奮戦空しく、おんじは射殺され、ハイジは政治犯として強制収容所送りになる。収容所を強権で支配するロットワイヤー所長(アニメのロッテンマイヤーおばさんに中る人物)に目をつけられたハイジは同室のクララ・ゼーゼマン(アルマル・G・佐藤)ともども、屈強な女囚たちによってアルプス・レスリング(チーズで出来た土俵の上で行うモンゴル相撲)で痛めつけられ、トイレの便器に顔を押し込まれ、まずいチーズを食わされるなどのいじめに遭いながらも、ペーターの復讐を誓い、脱獄の機会を狙うのだった。なぜか突然『女囚さそり』みたいな展開になっちゃうの笑える。
チーズ中毒になってイカレちゃうクララを目の当たりにしながらも、独房に放り込まれたハイジは隙を見てロットワイヤー所長をぶち殺して脱獄に成功。アルプスの山に逃れたハイジは後光が差してるおばさんに殺人技術を叩きこまれる。その様子は『スター・ウォーズ』でジェダイの騎士がフォースの扱いを教えるような・・・
こうして地雷系少女のようなファッションを纏い、復讐の鬼と化したハイジはスイス伝統の武器ハルバードを手にマイリの首を「まっててごらん」とばかりに刈りにいく!その頃アルムのおんじは墓の中から爆発とともに蘇るのだった。『ビッグマグナム黒岩先生』かよ!
このように『マッド・ハイジ』は日本人なら(スイス人でも)誰もが知っている児童文学アニメの古典をよくあるなんちゃってパロディの枠には収まらない勢いでMAD化した快作だ。同じようなテーマの『プー あくまのくまさん』が出オチだけで終わっていたのに比べて、スプラッター、ナチ女囚モノ、カンフー、剣戟映画、あらゆるジャンル映画のイイところがぶち込まれ、見ている人間を楽しませようとするサービス精神の極みを見た。それはエクスプロイテーション映画のごった煮感そのものじゃないか。
この映画は予算の半分をクラウドファンディングで調達した。スイスの映画業界はこのような映画に助成金が中々下りず、監督をはじめスタッフは
「このような映画だってありなんだ、というのを示したかった」
「古い体質を打ち破ることで、クリエイティブなことができる若手を勇気づけたかった」
との思いで『マッド・ハイジ』は完成した。意外とマジメな映画だったのだ。
若手へのエールという意味では『君たちはどう生きるか』と相通じるものがあるね!『マッド・ハイジ』は宮崎駿の正当な後継作品なのではないだろうか・・・最新作と同日公開の意味がある映画だ!
