リメイク大失敗『サブウェイ123 激突』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

リメイク大失敗『サブウェイ123 激突』

 70年代パニック・サスペンスの傑作『サブウェイ・パニック』リメイク版。1974年のオリジナルはジョセフ・サージェント監督、ニューヨークの地下鉄をジャックした犯人グループのリーダー、ロバート・ショウと公安警察の交渉人、ウォルター・マッソーの一筋縄ではいかない駆け引き、やり取りが見どころで大金を得た犯人たちがどうやって地下鉄構内から脱出するのか?というアイデアも凝っていて、ラストにもあっと言わせる見せ場が用意されており、『ポセイドン・アドベンチャー』とか『タワーリング・インフェルノ』みたいな大味パニック映画が幅を利かせていた時代にパンチの利いた良作だった。

 

 今回のリメイク版はトニー・スコット監督ブライアン・ヘルゲランド脚本というクレジットはなんじゃないかと思えるぐらい、見どころがなく、締まりのない緊張感ゼロの内容でこれでOKが出たことが信じられない。

 オリジナルは犯人たちの正体がほぼ最後まで判別せず、目的が金なのかなんなのかわからないので不気味さを醸し出すことに成功しており、リーダー役のロバート・ショウが切れ者の演技を見せ、くしゃみばかりしている(これがラストの伏線になっている)グリーン役のマーティン・バルサムのコメディタッチのキャラが対比とし成立している。

 お互いを色の偽名で呼び合うのは素性をバレないようにするため(タランティーノが『レザボア・ドッグス』で引用するほどの模倣を生み出した)なんだが、今回の犯人グループはそういうことが一切なく、トラボルタ演じるライダーもいつもの切れ演技なので、知的に全く見えない。彼ともう一人、元運転手のレイモス役のルイス・ガスマン、この二人以外はただのやられ役なのでなんでこんなにキャラクターを薄くしてしまったのか。

 

 交渉人となるデンゼル・ワシントン演じるガーバーが公安警察の刑事から地下鉄社員にされてしまったのも意味が分からない。交渉人としての能力もない彼との交渉にライダーが固執する理由もイマイチ不明。ガーバーは賄賂を受け取った疑惑で左遷させられそうになっている。ライダーは不正を働いたせいで獄に入れられ現市長を恨んでおり、会社のために働いたのに首になろうとしているガーバーに共感する、という物語だが、実際ガーバーは子供の養育費のために賄賂を受け取っていたので悪人なのだ。賄賂を受け取っていい理由になってないし、観客の同情が得られない。こんな彼が最後にピストルもってライダーを追い詰めるってのは無理があるよ。

 

 オリジナルにない新たな要素は全部不必要。車内でネット配信している若者がいるが、それがストーリー上、劇的な展開につながることもない。ライダーたちが気づくこともないし。配信自体はガーバーや警察にすぐに知られて、レイモスの正体がバレたりするんだけど、だからってどうなるわけでもない。そもそもライダーがべらべら自分のことをしゃべりすぎ。

 クライマックスで明かされるのはライダーの目的は株価の操作で、1000万ドルの身代金は囮だったというわけなんだけど、じゃあ金を別の場所で受け取るようにして自分たちは逃げ出す、みたいな展開にすればいいのに、金の受け取り、脱出まではオリジナルに忠実なの。わけがわからん。

 オリジナルを超えるアイデアは思いつかず、どうでもいいところだけ新要素をぶち込んで全部失敗という残念映画。現金を運ぶパトカーが事故で大クラッシュ起こすところ、いかにもトニー・スコットなカチャカチャ編集で見せるんだけど、あんな派手なクラッシュはいらないよ・・・

 犯人が逃げ出せずに自ら絶命するっていうオチ、オリジナルは見所あるのに、今回のはただのバカだよ。オリジナルに遠く及ばないバカ・リメイク。オリジナルを現代風にアレンジして大失敗した『ポセイドン』と同じで、こんなもんよりオリジナルを見た方がいい。ワシントン、デカい牛乳を買って帰る前にこの映画に出ないという選択肢はなかったのか。『マイ・ボディガード』監督脚本コンビのお誘いを断ることはできなかったのか。

 

 自称映画批評家の前田有一が75点もつけて絶賛してたけど、こいつ絶対オリジナル版見たことないだろ。