呪いから逃げろ!『ハロウィン THE END』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

呪いから逃げろ!『ハロウィン THE END』

 伝説が壮絶に終わる―。1978年の第一作から45年の時を経て、ついに『ハロウィン』シリーズが完結する。監督ジョン・カーペンターとプロデューサー、デブラ・ヒルによって創造された不気味なマスクを被った殺人鬼マイケル・マイヤーズの物語は「最も稼いだインディペンデント映画」として今も記録されている。あまりにもヒットしすぎたことで同一の監督による続編、別の監督、スタッフによる続編、外伝、スピンオフ、リメイクとシリーズは果てしなく拡大し、怪人ブギーマンの恐怖は拡散された。

 そして2018年、『ハロウィンⅢ』(1988)以来、ジョン・カーペンターが制作に関わった‟正当な続編『ハロウィン』が公開される。この作品は旧作のファン、現在のファン双方から絶賛され、これまでのシリーズがたどってきたようにシリーズ化。2021年の『ハロウィン KILLS』を経てこの『ハロウィン THE END』で新三部作および『ハロウィン』シリーズは本当に完結する。本当に完結するのか?

 

 2019年のイリノイ州ハドンフィールド(2018年『ハロウィン』の一年後)でハロウィンの夜、ごく普通の青年、コーリー・カニンガム(ローハン・キャンベル)は知り合いのアレン夫妻宅でジェレミーという少年の子守りを任される。ジェレミーは子供のくせにテレビで『遊星からの物体X』(カーペンター作品!)を見ているという、ませたガキで(ここはカーペンターの一作目『ハロウィン』で子供がTVの『遊星よりの物体X』を見ている、というシーンのオマージュ)、手を焼いたコーリー相手にかくれんぼのイタズラを仕掛け、部屋に閉じ込めてしまう。逆上したコーリーは閉じた扉を蹴破る。衝撃でジェレミーは吹っ飛び、吹き抜けの階段から転落死。

 四年後(2018年の『ハロウィン』から、リアルタイムにこの新三部作は進行する)、裁判では事故死と判決されコーリーは無罪となったが「子供殺しのサイコパス野郎」と蔑む町の人々を避けるように暮らしていた。不良少年らに嚙みつかれていた彼に手を差し伸べたのは同じようにハドンフィールドの住民から白眼視されていたローリー(ジェイミー・リー・カーティス)とその孫娘アリソン(アンディ・マティチャック)だった。四年前に再び病院を脱走したマイケル・マイヤーズとの争いで娘夫婦を失ったローリーは残りの人生を回顧録を書くことで過ごしていた。

 ハロウィンの夜、アリソンはパーティーにコーリーを誘う。数年ぶりにはっちゃけるコーリーだが、会場にいたジェレミーの母親から罵声を浴びせられる。その場を飛び出したコーリーは不良少年らに痛めつけられ、橋の下に放り出された。下水道路に逃げ込んだコーリーはそこに隠れ住んでいたマイケルに命を狙われるが、マイケルの瞳の奥に潜む底知れぬ闇に魅入られたコーリーは命からがら逃れる。

 以降、コーリーの性格は一変し、マイケルが乗り移ったかのような凶行を重ねる。マイケルの狂気がコーリーに継承されたのだと悟ったローリーは自身の過去を葬り去るべく、マイケル、コーリーと対峙する。

 

『ハロウィン』シリーズのマイケル・マイヤーズは人間技とは思えない殺人を繰り返し、伝説の怪物‟ブギーマン”として扱われる。死んだと思われたマイケルが実は死んでおらず、何度もハドンフィールドの町を恐怖に陥れる。シリーズではマイケルは人間ではなく怪物なのでは?というイメージで扱われてきた。前二作『ハロウィン』『ハロウィン KILLS』でもそうだったが、『ハロウィン THE END』では「マイケルは怪物ではなく人間だった」という扱いになった。ハドンフィールドの人間はマイケルの凶行を恐れるがあまり、怪物のように思ってしまったことが彼に余計な力を与えていたのでは?という解釈になっている。

 

 主人公ローリーはまさにマイケルを怪物にしていた人間で、トラウマに捕らわれるがあまり、「奴は必ず帰ってくる」と思い込み、町を離れず60過ぎてもバッキバキに肉体を鍛え上げ、娘に「マイケルは必ず帰ってくる!」と言い続け距離を置かれる(そりゃそうだ)。自宅を要塞化し迎え撃つがマイケルを倒すことは叶わず、それが却って被害を拡大する。孫のアリソンも祖母を心配するがあまり、町に留まり看護師をしているが、セクハラ上司のおかげで出世が閉ざされるという最低の職場。コーリーも町を出てしまえばよかったのに慣れ親しんだ地元から離れられない。ハロウィンがくれば「マイケルが来るぞ!」とふざけあう住民たちもマイケルの犠牲者というか、信奉者のようだ。

 

 ハドンフィールドの人間はみんなマイケルという呪いに捕らわれている。新三部作にレギュラー出演しているホーキンス保安官(ウィル・パットン)はマイケルとの争いで同僚を誤射して死なせたという過去があるが、隠居して日本に行くつもりで「一緒に桜を観に行かないか」とローリーを誘う。彼はマイケルの呪いから逃れようとしている。ローリーはその誘いを振り切ってマイケルとの決着をつけに行く。呪いから逃れるには、戦いを終わらせるしかない

 ローリー役のジェイミー・リー・カーティスは『ハロウィン』でヒロインを演じて以降『ザ・フォッグ』『プロムナイト』といった同じような役ばかりやって「スクリーミング・クイーン」の名を欲しいままにした。『ハロウィンH20』『ハロウィン レザレクション』とシリーズにも出続け、本当にマイケルの呪いから逃れられない人だった。

 新三部作の監督デヴィッド・ゴードン・グリーンは本当にシリーズを終わらせたマイケルは怪物ではなく、人間だったという解釈は賛否の別れるところだが、無限に拡大していたシリーズを再構築して、一考の余地なく完結させた(45年かけたことをたった4年で!)ことは称賛に価するだろう。

 けれど、監督は「『ハロウィン』という物語は別の誰かによって続くかもしれない」と含みを持たせている。続くかもしれないね。マイケルの呪いから逃れられない人によって。

 

 

原点

 

新三部作の一本目

 

前作