悪は滅びないのか?『ザ・シューター/極大射程』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

悪は滅びないのか?『ザ・シューター/極大射程』

 

 暗殺映画第二弾は原作本が2000年の『このミステリーがすごい!』海外部門の一位を獲得した『極大射程』の実写化『ザ・シューター/極大射程』です。

 2007年に公開された本作は評価も高いのですが、改めて見直すとなんか、色々と雑なような…

 

 海兵隊の狙撃手、ボブ・リー・スワガー(マーク・ウォルバーグ)は相棒のスポッター(ターゲットを補足し狙撃手の補助をする観測手)ドニーは崖の上で偽装しいつでも狙撃でき態勢を整えていた。ここはアフリカの小国エリトリア。CIAの極秘任務に駆り出されたスワガーとドニーは米軍を攻撃しようとする敵兵の排除を命じられ、800メートル越えの距離から正確に敵兵を撃ち抜く。しかし報告にない多数の援軍が現れ、米軍は基地から撤退する。CIAや軍の幹部はスワガーらを「彼らなら必ず無事に帰ってくる」と言い放ち、通信を遮断する。孤立した二人は攻撃にさらされドニーは戦死。スワガーは辛くも生き延びるのであったが、この一件で軍や上層部に絶望した彼は人目を避けて山に籠る生活を送る。

 

 36か月後、元軍人のジョンソン大佐(ダニー・グローヴァ―)が隠遁生活を送るスワガーの元を訪れ、大統領の暗殺計画を阻止してほしいと頼む。大統領のことも嫌いなスワガーは断るが愛国心を刺激され引き受けることに。大統領の演説中を狙われると聞いたスワガーは演説予定地のワシントン、ボルチモア、フィラデルフィアをひとりで回り、フィラデルフィアなら実行の可能性が高いと予測。当日は現地でエチオピアの大司教と会談をする予定であった。

 スポッターとして配置されたスワガーは狙撃のタイミングを予測し、狙撃手が潜んでいるとジョンソンらが推測した教会に踏み込めと指示。しかしスワガーはフィラデルフィアの警察官、ティモンズに銃撃され負傷。暗殺は実行されてしまう。すべてはジョンソンによるスワガーを暗殺犯に仕立て上げる陰謀だったのだ。

 

 この「狙撃のタイミングを計って突入する」というのが若干不可解で、狙撃手のいる場所がわかってるなら撃たれる前に踏み込めばええやんと思うのだけど…どんな屁理屈をこじつけても怪しむだろ普通は。

 この後、スワガーは現地の警備をしていたFBIの新人ヘナチョコ捜査官メンフィス(のちに『アントマン』シリーズに登場するマイケル・ペーニャ)を襲って銃と車を奪い逃亡。射殺されたのは大統領ではなくエチオピアの大司教とわかり、背後に陰謀めいたものを感じるのであった。メンフィスもまたスワガーは犯人ではなく嵌められたのではと察し、独自に捜査を開始する。

 エリトリアの事件は石油利権を狙ったアメリカがパイプライン敷設のために住民のいる村を「整理」するために村の住民を抹殺し、スワガーもまた「整理」される予定だったが生き延びてしまったため、合法的に彼を始末する手段として暗殺事件をでっちあげたというのが真相(エチオピアの大司教もエリトリア事件を知る証人であった)で、黒幕は石油利権を手にしようとする複合体、それらと結びついた上院議員、ジョンソンだった。

 

 村の住人を埋めたという証拠を掴んだスワガーとメンフィスは上院議員、ジョンソンらと証拠の録音と人質に取られたドニーの恋人を交換するが、録音の記録があればまた人死にが起きるだけで何もかわらないとボイスレコーダーごと録音記録を焼き払う。上院議員はお前たちにできることはなにもないと高笑いし去っていく。

 スワガーとメンフィスはワシントン司法省で司法長官相手に暗殺事件の無実の証明とエリトリア事件の真相の証拠を見せるが、「外国で起きた事件を裁くことはできない」とジョンソンは無罪放免されてしまう。

 悪党は決して滅びることはないのか?

 まあ、最後には屋敷で高笑いしてエリトリアのような事件をまた起こそうとする上院議員とジョンソンらをスワガーが射殺して終わるんだけど、じゃあ最初からそうしとけと言いたい。

 ずいぶん手間暇のかかる陰謀で、そんなことしないで大司教を殺した後で適当な犯人をでっちあげた方が早いんじゃないの?そもそもスワガーの能力を見くびったことが問題だし(エリトリアを生き延びた時に気づけよ)、陰謀仕掛けた挙句失敗してるし。陰謀ってまったく割に合わないですね。

 あまりの陰謀の大きさ、しかも上院議員やジョンソンを殺しても次の悪党が出てくるだけという絶望的な戦いの幕が上がったことを予感させる結末だが、10年以上待っても映画の続編が出てこない(原作は三部作の第一弾)ので早く続きをやってくれ。