成功までのカウントダウン『tick,tick...BOOM!:チック、チック、ブーン!』
ミュージカル『RENT/レント』の作曲者、ジョナサン・ラーソンの自伝的物語が『tick,tick...BOOM!:チック、チック、ブーン!』だ。タイトルは30歳を目前にしたラーソンの脳内に鳴り響く時限爆弾のカウントダウンから。
ジョナサン・ラーソン(アンドリュー・ガーフィールド)はニューヨーク・マンハッタンのグリニッジ・ストリートでルームメイトと暮らし、週末はムーンダンス・ダイナーのウェイター、平日はミュージカルの脚本、作曲をしている明日の成功を夢見る若者。貧しくも夢があり、仲間に囲まれている日々が報われると信じていた。しかしこの生活が10年続き、気が付けば30歳の誕生日は目前だ。チック、チック…頭の中でカウントダウンを告げる時計の針の音が鳴り響く。
本作はジョナサンが91年に発表した同名タイトルのミュージカルをガーフィールドがピアノを弾きながら当時の思いや感情を歌い、途中で再現ドラマが挿入されていくという流れだ。
「スティーブン・ソンドハイムが『ウエストサイド物語』でデビューしたのは27歳。僕はまだまだこれから!」
と言っても彼はソンドハイムが成功した歳を過ぎてしまった。仲間の中でとびっきりの才能があると思っていたマイケル(ロビン・デ・ジェズス)も夢を諦めて広告代理店に就職した。「僕には才能はなかったけど、お前にはあるんだから、頑張れよ」なんて言われても自分の才能が信じられない。
ジョナサンの恋人スーザン(アレクサンドラ・シップ)もケガでダンサーの夢を諦めようとしているが、ダンス講師として採用される。だが仕事のために引っ越さないといけない。スーザンはジョナサンを誘うが「もう少し待って」と保留。ニューヨークを離れられないのだ。
30歳の誕生日までに間に合わせようとした新作ミュージカルの作曲は一向に進まない。ミュージカルの試聴会には憧れのソンドハイム(ブラッドリー・ウィットフォード)もやってくる。ここで成功すれば僕だってソンドハイムのようになれる!
だがスランプに陥ったジョナサンは一曲もかけず、ダイナーの仕事で陰険な客に絡まれ、答えをいつまでも渋り続けたのでスーザンとはケンカ別れしてしまう。広告代理店で大成功し、高級マンションに暮らしオープンカーを乗り回すマイケルから紹介されたモニターの仕事さえこなせず、マイケルともケンカに。試聴会は明日。家の電気も止められた。曲はまったくできない。チック、チック…
奇跡的に曲が完成し、試聴会は成功。これでブロードウェイからも声がかかる、ついにやったぞ!
しかし、ブロードウェイから声はかからず、エージェントのローザ(ジュディス・ライト)に電話すると、宇宙人が出てくる未来の話なので「内容が一般向きではない」のだと言われる。
「じゃあ、僕はどうすればいいんだ?」
「次回作を書くことよ」
「その次回作がダメなら?」
「また次の作品を書くのよ。とにかく書き続けるのよ」
ジョナサンはついにミュージカルを諦め、マイケルに謝罪して就職先を世話してもらおうとするが「これで諦めるのか?次のチャンスに賭ければいいいだろう。君には時間があるんだから」と諭される。
「次だって?次なんかない!これに8年もかけたのに!僕はもうすぐ30歳だ。時間なんかもうないんだ!」
「僕よりはあるだろ。…だって僕はHIVなんだから」
数日後、ジョナサンの留守電に視聴会に顔を出していたソンドハイムから作品を絶賛するメッセージが残されていた…
ジョナサン役のアンドリュー・ガーフィールドはミュージカル経験ゼロとは思えない圧倒的な歌唱力で挫折を乗り越え夢を掴もうとする青年の生きざまを朗々と歌い上げる。
突然歌いだしたり、踊ったりするミュージカルの表現になじめないような人(僕のことです)も歌とドラマが完全にシンクロしているのであっという間に作品世界に没入できる。夢を追う人間が迫りくる人生の節目のカウントダウンに葛藤する。普遍の物語なので誰もが共感できる。
ガーフィールドは94回アカデミー賞の主演男優賞にノミネートしているが、受賞するかな?
