追悼・前田五郎さん『ヤングおー!おー! 日本のジョウシキでーす』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

追悼・前田五郎さん『ヤングおー!おー! 日本のジョウシキでーす』

 

 前田五郎さんが亡くなった。

 

 

 ここ数年はトークライブや快楽亭ブラック師匠の寄席などで顔を合わせることがあり、往年のスター芸人とは思えないほど気遣いする人で、威張ってたり偉そうにしている感じがまるでなくて僕みたいな素人相手にも優しくしてくれたのを覚えている。とはいえ曲がったことが許せねえという直情径行なところはそのままで、最近でもスーパーで買い物をしてたら客がカゴやカートをきちんと片づけないのに切れて説教した後カゴをぶん投げたりしていたそうなので、亡くなるまでこんな感じだったと思われます。

 そんな五郎さんがかつて出演していた人気番組、『ヤングおー!おー!』の劇場版というものがあり、五郎さんは出演したのは覚えているが、ちゃんと見たことは一度もないというのでアマプラのJUNK film in Toeiにあるのを見てもらったところ、当時の貴重な出来事を思い出して色々語ってくれたこと、感激しました。今回はその劇場版『ヤングおー!おー! 日本のジョウシキでーす』(1973)の話です。

 

 

 1969年から82年に渡って放送された毎日放送の人気番組『ヤングおー!おー!』。放送当時幼稚園~小学校低学年だった僕には残念ながら番組の記憶はほとんどないが、70年代まで「関西のお笑いといえば松竹芸能」だった状態を吉本興業に改めさせるきっかけとなった番組とされている。
 司会を務めた仁鶴、三枝(現・文枝)、レギュラーとなった月亭可朝はこの番組足掛かりに全国区となり、明石家さんまといった面々もテレビの人気者となっていった。そのテレビ番組の映画版とはどういうことか?
 監督は山崎大助。60年代の東映大量生産時代の時代劇の監督として活躍、60年代末からはテレビ番組に主軸を移し、仮面ライダーシリーズや『忍者キャプター』の監督として名前が残っている。特に『仮面ライダーストロンガー」ではブラックサタンが崩壊する26話、電波人間タックルが戦死する30話の監督を務めている。

 

「はいハッピー?」

 と司会が聞くとスタジオの客が「ハッピー!」と返し、「どこから来ました?」と聞くと必ず「明石!」と返す(これが定番のやりとり)でもよく見ると映像と声が全然合ってないのでアテレコだとわかる。
 映画はテレビ番組の映像(途中でゲスト出演の歌手の歌謡ショーが挿入される)と劇映画と組み合わせで構成。主人公という扱いの岡八郎はもぐりの運送屋だが、稼ぎはなく借金まみれ。

 

「せまい日本にいるからあかんのや。世界へ羽ばたこう!」

 

 と一攫千金の夢を見てアパートを飛び出す。ガス集金人の坂田利夫もそれに付き合うことに。ハッチャンの運転するボロトラックがクズ鉄屋・福井商会の安普請をぶち壊して突入。福井商会の持ち主夫妻、笑福亭仁鶴と岡本隆子夫妻(この二人は実際の夫婦)に世界へいくアイデアを持ちかけるが、無免許で運送屋をしていたことを咎められる。

 

「アホ!お前みたいなやつはアフリカでも北極でも行きさらせ!」(この映画、仁鶴さんの突っ込みがいちいち冴えている)

 

 とはいうものの、外国にいくのなら一人より、二人、二人より三人・・・とにかく仲間を集めるのやとアドバイスをする。ハッチャンはそれに従い、自動車工場の整備士西川きよし、競馬場の予想屋横山やすし、作業員の前田五郎5浪の予備校生、桂三枝をグループに引き入れるのだが、どうですかこの面々。当時の吉本人気芸人オールスターです。『群竜伝』で主人公チームが対決したプロ野球オールスターズみたいなもんです。
 さて仁鶴の家に集合(仁鶴が当時出演していたボンカレーのCMネタ「じっと我慢の子であった」のギャグがそのまま使われているが、CMが風化した今となっては意味不明の場面になっている)しての作戦会議で外国にいくのは金がいるので誰か知り合いに金を借りるというアイデアが出、その流れで全員が「俺の女に金を借りる」という案が出たので、みんながその女の写真を見せるということになり、一斉に出すと全員がスナック・子豚のママ、花子(田島晴美。その後『女番長 玉突き遊び』などに出演した)というオチ!宣伝代わりに配ったブロマイドを常連客のみんながもっていただけだった!
 スナックに場を移して作戦会議。マスターのチャーリー浜にビールを一本だけ注文して(人数分のビール瓶を開けようとしたチャーリーに「一本でいい言うてるやろ、このヘタ!」と仁鶴のこれまた多彩な罵詈雑言)ハッチャンらにはワイングラスで飲ませるというドケチぶりを見せる仁鶴。その時、店に現れたのが常連客の香川登志緒!ここはお偉い作家先生の知恵を借りようや、ということでアドバイスを求める面々。

 

「てっとりばやく稼ぐためには女を利用することや。女いうてもオケラの女はあかんで。銭を持ってる女や」

 

 ここからは仲間たちの涙ぐましい「銭を持ってる女の獲得作戦」が展開。三枝はお嬢様学校の女学生を誘拐しようとする(犯罪だよそれ)が、女学生は全員柔道の猛者でヘチマみたいな体形の三枝はポイポイ投げられる。三枝はその前にホストボーイとして貧相な体をパン一でさらすという悲しすぎるギャグも披露しており、出演者の中でも仁鶴同様、多く扱われているのですが・・・
 ホストボーイにはコメディNo.1の二人も出ていて、突然「男の戦い」というショーが始まるとボクシンググローブを嵌めた男が壮絶な殴り合いをはじめ、それに巻き込まれてしまう。ボクサー役が吉本新喜劇の名コンビ、間寛平と木村進!二人のドツキ合いはほぼアドリブだったのでコメディNo.1の二人はマジで殴られたという。

 

 万策尽きた面々はMBSのSABホールでいちゃついている仁鶴と花子ちゃんを発見。仁鶴から「クイズで稼げ!」といわれた彼らは賞金50万円を賭けた「日本ちん没クイズ」に挑戦。これ、間違えたら座っているゴンドラが下がっていって真下にある水槽に「ちん没」するようになっていて、当時の人気番組『アップダウンクイズ』まんま。せっかくクイズに出たものの、ハッチャンらは次々ちん没。自宅で晩飯のカレーを待ちながら(この時にもボンカレーネタを放り込んでいた)アホ丸出しの連中に毒づく。

 

「ホンマにじゃじゃ漏れのアホやなこいつらは・・・ボケ!カス!ひょうたん!ラッパ!イチヂクカンチョウ!・・・もうないわ!」

 

 ようこれだけ色々罵倒の言葉がポンポン出てくるもんやな。
 最後の生き残りとなった坂田利夫はんですが、出題「男性が女性を見てどこを伸ばすか?」に「ち〇こ」(A:鼻の下)と答えようとして司会者(船場太郎)に発言をカットされてドボン。あかんわこりゃ。

 

 彼らの体たらくを見てた仁鶴がいよいよ温めていた計画を開始。それは山奥の土地、建物を買ってそこに一大レジャーセンターという名のトルコ風呂を開設することだった!ハッチャンらをこき使ってセンターを立てた仁鶴、唯一のトルコ嬢、花子ちゃんに阿波踊りのレクチャーを始める(また気軽にポンポンと素っ裸になるねんなこの子)が、ハッチャンが「わたくし、トルコのね、阿波踊りのコーチの免書、いや免許証もってまんねん」大事なところでセリフを噛む。 仁鶴も思わず半笑いで「コーチの免書ってなんやねん」と手が出る。NGっぽいシーンなんだけどなぜかそのままフィルムには残っている。笑いのプロが意図しない笑いを提供している貴重なシーンともいえる。

 

 しかし一流のプロの笑いなので本気を出すところは出す。風呂釜の薪をくべている横山やすしに仁鶴が

 

「釜、燃えてるか?」
「いやいや釜燃えてまへんねん。火、燃やしてまんのや」
「理屈ぬかすな!カス!」
「カスちゃいますんや、石炭燃やしてますんや」
「(仁鶴、半笑い)」
「毎度!」
「あっちゃいけ、ボケ!」

 

 こうして山奥にトルコセンター「ヤングパラダイス」をつくった仁鶴たちは山道に規制を張って通せんぼし、誘導して旅行中の女性たちを半ば強引に風呂場に連れ込み(無料)、どこぞの会社の慰安旅行客のおっさんたちを田島晴美の水着で強引に引っ張りこむ。ただしオッサンたちは入場料千円、ビール代千円、のぞき穴からの鑑賞代一万円、トルコサービス料一万五千円!これが大当たりしてぼろ儲けとなるものの、競艇場のいい加減な予想でやすしに大損喰らわされたヤクザのチャンバラトリオが偶然ヤングパラダイスにやってきてしまい、売り上げは全部巻き上げられてしまうのだった。ちなみにこの時チャンバラトリオの一行はリンカーン・コンチネンタルのオープンカーを手押しでやってくる普通に走ればいいのになんで手押しなの?と疑問に思ったのだが、映画に出演していた前田五郎さんに当時の話を聞くと、チャンバラトリオのメンバーがリンカーンのエンジンをかけることができず、東映のスタッフが「エンジンもようかけんのか!」と激怒、急いでるんやから早よせえと凄むので仕方なく手押しになったということ。疑問が氷解した。

 

 五郎さんの話では、撮影終了後の打ち上げで吉本興業の芸人らは山崎大助監督に甚く感激されたという。理由は「誰一人遅刻をしなかったから」だと。監督曰く「東映のスター役者はいつも遅刻して、時間通りにやってこない」のだと。遅刻の挙句「今日はもう出られない」と撮影予定が一日ふっとんだりするのは日常茶飯事らしく、まさかそんな理由で感謝されるとは・・・ちなみに本作には唯一遅刻した芸人がいたそうだが、そのせいでスタッフからえげつない扱いを受けて逃げ出したそうです。

 

 結局大金集めに失敗したハッチャンらはその辺の船を拝借して海外に向けて出航。船の乗組員を海に放りこむのだが、この乗組員役がラスト・サムライ、福本清三!海に飛び込むときの動きが素人ではないので一目瞭然。いろんな人が出ているんですねえ。そして出演者のほとんどは亡くなられました・・・

 

 当時目が回るほどクソ忙しかったはずの売れっ子芸人が仕事の合間を縫って一生懸命ドアホなことをしていたわけで、今時の芸人が面白くもないのに役者ぶって観客を必死に泣かせようとしているのは本当に嘆かわしい。芸人ならアホなことをやって笑いを取れ。それが日本のジョーシキでーす!

 

 五郎さんが亡くなる前に見てもらえて本当によかった。