ひと夏をハダシで駆け抜けろ『サマーフィルムにのって』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

ひと夏をハダシで駆け抜けろ『サマーフィルムにのって』

 

 去年公開された『アルプススタンドのはしの方』は高校演劇を原作にしたまだ無名のキャストによる作品であったが、新時代の青春映画として話題を巻き起こした。今年もそれに続く青春映画の新風が吹き荒れた。それが『サマーフィルムにのって』だ。

 

 高校の映研に所属する女子校生、ハダシ(伊藤万理華)は学園祭に上映する予定の作品の製作に取り掛かっていたが、映研をまとめる存在の花鈴(甲田まひる)によるキラキラ恋愛映画に納得ができない。ハダシの趣味は女子高生らしからぬ時代劇で、勝新の大ファンである彼女は理想の時代劇を撮ろうとしていたが、理解してくれるのはSFファンのビート板(河合優実)、剣道部員のブルーハワイ(祷キララ)だけな上、理想が高いハダシは主演役者を見つけられないでいた。

 いきつけの映画館で時代劇三本立てを楽しんでいたハダシは、上映後に感動のあまり号泣する観客を目に止める。その青年はハダシが撮ろうとする時代劇の主役にピッタリだった!なぜかハダシのことを「巨匠」と呼ぶその青年、凛太郎(金子大地)を強引に誘い、校内のはみだし連中をかき集め、クランクイン。

「打倒ラブコメ」

 を掲げた時代劇映画撮影は花鈴たちの思わぬ邪魔が入ったり、素人監督故の失敗を重ねながら完成に近づいていく中でハダシは凛太郎にほのかな恋心を募らせる(もちろん時代劇で頭がいっぱいな彼女はそれが恋だとも気づかない)だが仲間たちと妙にコミュニケーションがズレている凛太郎の思わぬ正体が明かされる。彼はタイムマシンでやってきた未来人だったのだ・・・

 

 

恋×友情×時代劇×SF×青春映画

 

 という惹句はそのまま、すべての要素が一本に詰まっている奇跡のような映画だ。恋の甘酸っぱさを噛みしめ、友情に涙し、時代劇に儚み、SFのセンス・オブ・ワンダーに驚き、青春をもう一度繰り返したいと願う。学生たちが創作の楽しさ、辛さを体験するのだが、作品自体も学生映画のような瑞々しさに満ち溢れている。

 未来では数分の映像しかなくなってるというのもファスト映画に対する痛烈な皮肉に聞こえ、誰も他人の作った物語になんか興味がないというのだが本作は大林信彦や勝新、長谷川一夫にハインラインといった人たちの影響を受けている。他人のつくった物語にだって価値はあるんだ!

 この手の作品では非難されがちなラブコメ脳のリア充のみなさんにも光が当てられているのも良いですね。クライマックス、ラストシーンはこちらの想像を軽く超えていてひっくり返った。

 やはり夏は青春映画の季節だな。ひと夏を青春で駆け抜けろ!