インドのスーパーヒーロー映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

インドのスーパーヒーロー映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』

※この記事は前ブログの過去記事(2018年12月21日)の再録です



 どこから見ても スーパーマンじゃない、スペースオペラの主役になれない、危機一髪も救えない、ご期待通りに現われない…だけどパッドマンはインド5億人の女性を救う!インドの田舎町に生まれ、妻が「高価だから」という理由で生理用ナプキンを使わずに汚い布を巻いているのを見て、安価で漏れないナプキンをつくろうとしたアルチャーナム・ムルガナンダムの苦悩を描いた実話の映画化だ。映画ではラクシュミという名前に変えられている。

 ラクシュミは美しい妻をガヤトリを娶り、貧しいが幸せな日々を送っていたが、ある日妻が家の中につくられた小屋に隔離され、汚い布をサリーで隠して干しているのを目にする。どうやら、女性には月一回生理というものがあることを知ったラクシュミ、そして生理用ナプキンというものもあるらしいが妻は使っていない。そんな汚い布を使っていたら病気になってしまう!慌ててラクシュミはナプキンを買いに行くが、値段は55ルピー(現在の日本円で換算すると役1,500円)。高すぎるから通りすがりの友人に借金までして買うのだが、ガヤトリは高価すぎるといってナプキンを突き返す。せっかく買ったのに…

 ラクシュミはそれなら、安くて清潔なものをつくればいい、とナプキンつくりをはじめる。工場で働いていて頑丈で丁寧な仕事ぶりに定評のあるラクシュミは、妻が玉ねぎを切るときに涙を流すのを見ておもちゃを改造した自動たまねぎ切り器をつくったり、自転車の後ろに妻が乗る椅子をつけたりして、器用なのだ。あっという間に綿と布をつかったナプキンをつくるのだが、あくまで素人仕事のため、漏れてしまい妻はまた布を使いだす。
 完璧なナプキンを目指してラクシュミは仕事を放り出して(!)ナプキンづくりに邁進。まさに「拍手をするほど働かない」!
 村中にたちまち噂は広がり「頭がおかしくなった」「悪魔に憑りつかれた」と村八分にされたラクシュミ。妻は実家に連れ戻され、実の親兄弟からも縁を切られてしまう。それでも諦めないラクシュミは都会に旅立ってナプキンづくりを再開する。


 ラクシュミ=ムルガナンダムの苦労の原因のひとつは、農村部に根強く存在する因習や迷信だ。この映画でまず驚くのは生理になった女性が家の中につくられた檻のような小屋に閉じ込められ、生理が終わるまで出ることを許されない。家事手伝いなども一切してはいけない、というもの。「生理中の女性は穢れているから」などという理由で、ナプキンの使用率が低い(インド全体で12%)のも高価すぎるのもあるが、「着用すると目がつぶれる」(?)といった迷信がつきまとっているのだ。
 ナプキンづくりのためのアドバイスを女性に聞こうとするラクシュミが気味悪がられ、「恥ずかしいからもう家に来ないで」と妹に拒絶されるシーンに代表されるように、生理について語ること自体がタブー視されている。なにしろ妻はどんなにラクシュミが不潔な布を使っていたら病気になって死んでしまうんだぞ、と言われても「恥をかくぐらいなら死んだほうがマシよ」とまでいうのだから。
 自作のナプキンの感想を聞いて改良したいのに、誰も教えてくれないから、ラクシュミは近所の女の子に初潮が来た、と聞くと家の壁をよじ登って「おじさんのつくったナプキン、使ってくれないかな?」と窓越しに渡そうとして大騒ぎになる(そりゃそうだ)。多少、デリカシーのない行動に問題はあるものの、ラクシュミは真剣なのだ。ラクシュミを演じたアクシャイ・クマールは笑顔が優しい色男だが、実際のパッドマン、ムルガナンダムは気難しそうな強面なので、この人がナプキン渡して来たらちょっと怖い。

 苦労の果てにラクシュミは安価で清潔、そして安全なナプキンを完成させる。それを大量に生産する機械も発明した。それをあちこちに安く提供し、その扱い方を女性に教える。生産されたナプキンを売るのも女性だ。途中でラクシュミのことを助けてくれるパリーという女子大生に会って「男性には生理の話などしてくれないが女性同士では生理の話ができる」こともわかった(早く気付こうよ)。
 彼の発明が最も素晴らしいのはナプキンを普及させたことよりも女性の雇用を生み出し、インド社会で女性の地位向上に努めたことだ。劇中、酔っ払って暴力を振るう夫から逃げたくても仕事もお金もない人を見たラクシュミはその人を工場で雇う。機械は女性でも簡単に動かせる。
 クライマックスにラクシュミは国連に呼ばれて演説する。片言の英語で。
 インドで生理中の女性が檻に入れられたら毎月5日間、一年で60日間を無駄にする。ナプキンがあればその60日間が使える。男が30分間血を流したら即、死ぬ!偉大な男、強い男、国を強くしない。女性、母親、姉妹が強ければ国は強くなる。

 演説でラクシュミは女性の18%がナプキンを使うといい、2017年で普及率は24%になったという。パッドマンは敵をやっつけないが、女性のために戦うスーパーヒーローなのだ。