老いて魚に狂いたい『蜜のあわれ』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

老いて魚に狂いたい『蜜のあわれ』

※この記事は前ブログの過去記事(2016/4/7)の再録です

 

 

一人の老作家(大杉漣)が真っ赤な服を着た愛くるしい顔の少女、赤井赤子(二階堂ふみ)の絵をスケッチブックに描き始める。「あたいの絵なんて一文にもならなくてよ」とつぶやく赤子。ポーズを取るのに退屈したのか、赤いワンピースに着替えて外出してしまう。老作家のスケッチブックには、真っ赤な金魚が描かれていた。赤子の正体は金魚売りの辰夫(永瀬正敏)から老作家が買った元気な三歳っこだった。

「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの」の詩で有名な室生犀星が晩年、死の四年前発表した小説の映像化。老作家とある時は金魚、ある時は少女と変幻自在の身体を持つ赤子、老作家とかつて関係していたが、今は幽霊になった田村ゆり子(真木よう子)らの関わりあいを幻想的に描く。
 赤子は老作家を弄ぶように振る舞う。外に飛び出しては正体を見抜かれた猫に追い回され、裂けた尾びれをつくろってとせがむ。
「のめのめを掻き分けるとすじがあるから、うまく唾をぬってべとべとにして」
 なんとも扇情的な台詞をさらりと口にすると、元通りになった尾びれに上機嫌な赤子は尾びれをしならせるように舞うのであった。そんな赤子に老作家は振り回され続ける。
 滑稽とも言える様子だが、二階堂ふみの文字通りしっぽを掴ませないというか、とらえどころのない少女の演技は絶品でそりゃあ老人が狂うのも仕方がない!それにしても人の姿になる金魚に恋い焦がれるというのは…ねえ…
 物語には老作家の過去の女が幽霊になって現れるのだが、老作家にはそれが認識できない。過去を振り返るよりも三歳っこの金魚に狂いたい!ということですか。この老作家は室生犀星自身であるとも言われ、老いて金魚の少女に狂うというのは室生犀星、大変歪んだ性癖をお持ちだったようで…そういえば宮﨑駿監督も金魚の幼女に萌え狂う『崖の上のポニョ』とか作ってましたね。人が老いてから急に金魚がどうとか言い出すのはヤバイ!ポニョ見た時に宮崎監督は危険だなって思ったもん!あと松井玲奈の写真集のタイトルが「きんぎょ」っていうのも絶対なにかあるって!!(ありません)

 あと大杉漣は団鬼六の半自伝のような『不貞の季節』でも老作家を演じていて、性に屈折した老作家を演じると上手いね。