ヤクザに人権はないんかい?『ヤクザと憲法』
※この記事は前ブログの過去記事(2016/3/3)の再録です
大阪・堺市のどこにでもある住宅街の一角にある建物。鉄の扉が鈍い音を立てて開き、どこにでもいそうな若者が取材陣を迎える。ここは二代目東組二代目清勇会、ヤクザの事務所だ。真夏のせいか、テレビには甲子園の高校野球大会が写っている。選手がホームランを打つとにわかに沸き立つ組員たち。そのうちの一人が机の引き出しから一万円札の束を取り出し数枚ずつに分けて封筒に入れ始める。「何ですか?それ」と聴く取材クルーに答える組員。「高校野球やから!高校野球」のっけの映像が、これ。
『ヤクザと憲法』は東海テレビのドキュメンタリー番組として制作され、「はじめてヤクザの事務所にカメラが入った」と話題になり、再編集して劇場用映画として公開された。
まずこの「カメラが事務所に入る」という時点ですごい。この取材を許可したのは大阪の指定暴力団、二代目東組二代目清勇会の川口会長。今年61歳だという会長はそんな歳には見えない若々しさでふらりと一人で外に出て行ってこじんまりとした飲み屋に入って一杯ひっかける。女将は川口会長がヤクザの組長だと知っている。怖くないんですかという取材クルーの質問に「ヤクザが怖かったらここら(新世界)で商売できるかいな。この人らは守ってくれるけど、警察なんかなーんもしてくれへんがな!」と笑う。
ヤクザ同士の抗争に一般人が巻き込まれ、暴対法設立のきっかけになったというキャッツアイ事件の重要参考人として懲役15年を食らった川口会長が取材を受けたことでこの作品はスタートしたわけだが、とにかくひとかどの人物であることはわかる。なにしろとにかくカッコいいのだ。任侠映画の主人公みたい。
組には一番若い住み込みがいるのだが、彼がもうどう見てもヤクザには向いていないタイプで、地元を本二冊だけ持って東組の本家(西成)に現れてヤクザになりたいといい、下部組織の川口会長の組が預かることになるのだが、多分本家で持て余したんだろうなっていう…なにしろ持ってきた本が宮崎学の『突破者』だし。お前はヤクザを勘違いしている!でもそんなやつでも「他に行くところないんやろう」と受け入れてしまうのだった。
そんな会長の元にはヤクザたちからの陳情書が集まってくる。暴対法のせいでまともに生活ができない、という陳情だ。暴対法ではヤクザをやめても5年を経過しない者は「規制対象者」として扱われ銀行口座が開けなかったりする。口座が開けないと子供の給食費引き落としができないので直接学校に持っていくことになる。するとヤクザの子供だとバレてしまう…
劇中、清勇会の組員が自動車保険の交渉をこじらせ、恐喝だと警察に逮捕され事務所が手入れを受けてしまう場面が出てくる。これ幸いとカメラを回すと「おい!何撮ってるんや!」「カメラ回すな!」と警察官が取材クルーを脅しにかかる!彼等はヤクザよりも強面!本当に怖いのはヤクザか、それとも警察か!?撮影を妨害されたクルーがそれならばと事務所内の監視カメラで手入れの様子を撮ったりするのは面白い。
「ヤクザ辞めたらええのにと言われるけど、辞めて何したらええんや。仕事もない、口座も開かれへん。せやったら選挙権も取ったらええやないか」
と会長は言う。会長は選挙にだって行くのだ。なぜならそれがヤクザの権利だから。会長が取材を受けた理由はそこにあるのだろう。
この映画見てヤクザに憧れる人はいないだろうな。おかげで数年後にはヤクザはなくなってしまうと言われている。この映像も時間が立てば「昔懐かしい日本の記録」になってしまうかも知れないのだ。
各地の映画館で公開されてるとあって、映画館には当然のように本職の人たちが結構訪れているそうだ。知り合いが見たところでは「アイス売りに来えへんのか!」とおそらく数十年も映画館に来ていないであろう本職の人が叫んでいたそうな。そりゃ昔はアイス最中とかの売り子が劇場に居たけどさ。
