どてらい家族『マラヴィータ』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

どてらい家族『マラヴィータ』

※この記事は前ブログの過去記事(2013/12/12)の再録です

 

 

フランス・ノルマンディーの片田舎の一軒家にアメリカ人のブレイク一家が引っ越してくる。一見普通のアメリカ人家族のようだが、一家の父親、フレッド(ロバート・デ・ニーロ)の正体はニューヨークブルックリンでイタリア系マフィアを率いていた大物マフィアのジョバンニ・マンゾーニで、対立する組織のボス、ドン・ルッケーゼを告発したことから殺し屋を送り込まれるようになる。
ある日組織の殺し屋が一家を抹殺、フレッドの指を切り取ってニューヨークの刑務所に収監中のルッケーゼに送りつけるが指紋を確かめると

「こいつは違う」
フレッドは告発の見返りにFBIの証人保護プログラムを受けるようになっており、殺し屋の襲撃を逃れるため偽名を名乗り、FBIが用意した隠れ家を転々とする生活を送っていた。


マーティン・スコセッシ製作、監督リュック・ベッソン、主演ロバート・デ・ニーロという豪華なトリオの組み合わせプラス、スコセッシとデ・ニーロが今までつくってきたマフィア映画のセルフパロディ的要素のある作品。
デ・ニーロ演じるフレッドは癇癪持ちで気に入らないことがあるとつい口よりも先に手が出てしまう。引越し先の水道から汚い水が出ると配管工を呼んで修理を頼むが、法外な額をふっかけられたフレッドは野球バットで配管工を病院送りに。瞬時に『アンタッチャブル』でヘマをした部下を殴り殺すデ・ニーロの姿が蘇った!マフィア役のデ・ニーロぐらい生き生きしてるもんはないね。
フレッド以外の家族はごく普通の一般人なんだけど、嫁のミシェル・ファイファーは引越し先のスーパーで「アメリカ人は味音痴だからな」と小馬鹿にされるとガスボンベで店を爆破!娘はブロンド髪も美しい美少女だが、親譲りの血の気の多さで、ちょっかいかけてきたナンパ野郎をテニスのラケットでボッコボコに!息子は悪知恵の働く頭脳派で学校中の交友関係を把握し、自分の配下に収めた上で難癖つけてきた連中に復讐・・・というデ・ニーロの家族にふさわしい凶暴っぷり。
そんな家族だからせっかくの引越し先もすぐに移動しなくてはならなくなり、監視役のFBI捜査官トミー・リー・ジョーンズに「90日ごとに引越しは困る」と釘を刺されるも隣の住民に仕事は何をしているかと聞かれ、「作家」と嘘をついたデ・ニーロ(しかもマフィアである自分の自伝を本名で書こうとする)は町で行われる映画上映会に「アメリカ人の作家」としてゲストに呼ばれることに。そこで『走り来る人々』(58)の上映が行われるはずが、手違いで届いたフィルムが『グッドフェローズ』!違いすぎるやろ!!そう、『グッドフェローズ』といえば実在したマフィア、ヘンリーの自伝で彼は最後に世話になったボスを告発して以後報復から逃れるためにFBIの証人保護プログラムを受ける。だから『マラヴィータ』は『グッドフェローズ』のその後を描いたようなもんだ。
話を戻すと、『グッドフェローズ』を観終わった後デ・ニーロは「この映画に出てくる登場人物にはモデルがいる」って自分のことを匂わすメタギャグ(ジミー役でデ・ニーロが出演している。監督はもちろんスコセッシ)を披露、自身の経験から語るマフィア話を饒舌に語って会場バカ受け。
「いやあ、さすがアメリカの人が語るマフィア話はリアリティがありますね!」
と絶賛される。いや、この人本職ですから!!上機嫌のデ・ニーロ、一方「何かやらかさないか」と着いて行ったトミー・リー・ジョーンズは顔面真っ青。
「また引越ししなきゃならなくなっただろ!」

スコセッシ、デ・ニーロとはいえ監督がベッソンなのでゆるいコメディになってんじゃないのと嫌な予想をしていたが、方々にどぎついバイオレンス描写が散りばめられており、ベッソンにしては珍しいイカレっぷりが楽しめる。
上映会からフレッドが帰宅するとブレイク一家の居場所を突き止めた殺し屋たちが待ち構えており、連中との大銃撃戦が展開。このピンチにそれまでバラバラだった一家が団結して殺し屋を返り討ちにするんだが、このクライマックスがいまいち盛り上がりに欠け、凄腕かつ血も涙もない殺し屋たちがほとんど素人のブレイク一家のアホみたいな手口で全滅させられてしまい、ここをもう少し上手く描いたら傑作だったのになあ・・・前半の一家の暴れぶりが何の伏線にもなってないし。

ちなみに邦題の『マラヴィータ』ってのはイタリア語で「裏社会」の意味だが、デ・ニーロが劇中で飼っている犬の名前で、フランスに逃げる前から飼っている犬は偽名で逃げ回っている一家の中で唯一「昔の名前」を使っている。そして家族の生活をずっと見守ってきた。その犬の名前がタイトルっていうのは原題の『THE FAMILY』より気が利いているかも。