モテナイ男がどこにもいない『すべては君に逢えたから』
※この記事は前ブログの過去記事(2012/11/30)の再録です
来年12月に開業100周年を迎える東京駅を舞台に10人の男女がグランドホテル形式でおりなすオムニバス映画。
この映画はなんとあの『ラブ・アクチュアリー』の日本版をイメージして作られたそうである。クリスマスのロンドンのヒースロー空港を舞台に19人の男女がおりなすラブストーリーは世界中で大ヒットし、一時期クリスマスの時期には好きな女の子に『ラブ・アクチュアリー』のDVDをプレゼントするという小っ恥ずかしいムーブメントまで起きていたという、良作ばかりを送り出すワーキング・タイトル・フィルムズの代表作のひとつではないですか。あとイギリスにおけるおしゃれ映画の筆頭でもあるのだがそれをおろかにも日本でパクろうとは・・・しかも『ラブ・アクチュアリー』ってユニバーサル映画じゃないですか。『すべては君に逢えたから』ってワーナー・ブラザーズ映画なんですけど。いいのか?
さて本作は10人の男女による6つのエピソード、近づいてくる女が全部自分の金目当てにしか見えないヤンエグ社長の玉木宏と女優を目指して上京したがまったく目が出ずに小さい児童劇団所属どまりの高梨臨が高級レストランで偶然出会って・・・という<story1>
被災地に出張している建設会社員の東出昌大と遠距離恋愛している新人デザイナー木村文乃のすれ違いを描く<story2>
片思いの先輩に告白する勇気が出せず、先輩がやってくるカラオケ大会の日にバイトの予定を入れてしまう女子大生・本田翼がバイト先のケーキ屋のオーナー兼パティシエの倍賞千恵子に相談する<story3>
養護施設でクリスマスの日に親が迎えに来るのを待ち続けている少女・甲斐恵美利と施設職員の市川実和子のエピソード<story4>
余命いくばくもない新幹線の運転士・時任三郎が残されたわずかな時間を息子と過ごそうとするのだが、病気のことなど知らない息子はずっと家にいてつきまとってくる父親を「仕事もしないでブラブラしてるリストラ親父」と勘違いして疎ましく思い始める・・・という<story5>
ケーキ屋のオーナー兼パティシエの倍賞千恵子が片思いの相手に告白する勇気のないバイトの本田翼に自身が経験した過去の大恋愛を話して聞かせる。由緒ある家柄の男性と恋に落ち、クリスマスの日に駆け落ちの約束をしたが待ち合わせ場所の東京駅に彼が現れなかったこと、傷ついた彼女の心を癒してくれたのがクリスマスケーキだったこと、ケーキ職人を目指した彼女はその後何度か恋に落ちたものの、誰とも結婚しなかったこと・・・そして閉店間際の店にある男があらわれて・・・という<story6>の6つで構成されている。
この6つのエピソードを並べただけで「どこが『ラブ・アクチュアリー』なんじゃい!!」と突っ込まずに居られない。
『ラブ・アクチュアリー』で俺が大好きなエピソードはクリス・マーシャル演じるモテナイ男が
「俺は悟った・・・冷たいイギリス女には俺の魅力はわからない。陽気なアメリカ女なら俺の魅力がわかるに違いない!俺はアメリカに行くぜ!」
とルームメイトの静止を降りきってアメリカにいったところ、バーに入った瞬間に3人組のギャルに逆ナンされ、部屋にまで誘われ、さらに「後で友達もう一人くるから」と5P状態のノリノリ天国になったところ。
このモテナイ奴にも夢と希望を与える優しさが『ラブ・アクチュアリー』が世界中でヒットすることになった要因であると言ってもいいのだが、『すべては君に逢えたから』にはモテナイ奴のエピソードなんてまったく出てこない。この一点だけでもスタッフが『ラブ・アクチュアリー』をまるで理解してないと言ってもいい。
個々のエピソードも始まった瞬間にオチが手に取るようにわかるようなものばかりなんだが、唯一<story1>だけは結構考えぬかれていて面白い。
玉木宏演じる男が何の理由があったか知らないが女を敵視していて、高級レストランで高梨臨と目があい、その後で同じバーに居合わせただけで
「偶然を装って俺に近づく作戦か!」「俺のブラックカードが目当てだな!」(ブラックカードをレストランごときの支払いに使うような嫌味野郎なんですこの男)
呼ばわりする最低なやつで高梨臨が仕返しに
「死んでしまった彼氏と待ち合わせをしたレストランだったんです・・・でも彼は来なくて・・・」
と女優の卵仕込みの嘘泣きをしたら途端に「僕が悪かった!」と反省した玉木宏、彼女の舞台稽古にデパチカの高級メニューを差し入れ(またそれも嫌味な)、悪いことをしたと思った高梨臨があれは嘘泣きで・・・と言ったら「君は最低だ!」といきなりぶち切れる。そんな怒るようなこと?あんたの性格の方が最低だと思うんだけど・・・
玉木はいつも秘書に「今の僕の気分にあったDVDをレンタルしてきてくれ!」とムチャぶりしていて、すると秘書が必ずその時の気分にぴったりハマった作品を持ってきてくれるんだが、秘書はレンタル屋の店員にオススメをチョイスしてもらっていて、その店員が実は高梨臨だった!という展開は上手いと思った。でも社長、わざわざレンタルするのね。買えよDVD。ブラックカードで!
とまあ<story1>だけは色々と笑えるツッコミが出来るんだけど、他は全部ひどくて、特に本田翼がメインの<story3>は片思いの先輩や本田翼に「思い切って告白しちゃいなよ!」と煽る友人などは画面に一切登場せず、本田翼がケータイごしに友達と電話しているだけなのだ。おそらく彼女を何かの理由で強引にキャスティングしたとか、スケジュールの都合でどうしても他の役者とからむ場面が取れず(倍賞千恵子とだけ一緒に映る)苦肉の策としてこんな一人芝居をさせられる羽目に。
ここには『ラブ・アクチュアリー』に出てきた学校一の人気者の美少女に恋をする男の子や言葉も通じない女性に必死に覚えた外国語で愛の告白をする作家といったモテナイ、もしくは寂しい男のエピソードがまったく描かれていない。恋愛に浮かれ狂ったカップルのうぬぼれ話か時代錯誤も甚だしい駆け落ち話・・・しかもこの駆け落ち話のオチがひどくて、倍賞千恵子のケーキ屋に小林稔侍がやってくるんだけど、これが絶対駆け落ち相手なんだと思うでしょ?でも彼は駆け落ち相手の弟で、「私が駆け落ちを止めたんです」って言うの。で、少し前に亡くなった弟が肌身離さず持っていたのが新幹線の切符です・・・ってこの展開なら本人が来なきゃ嘘だろ!
しかも倍賞千恵子が未婚だったからいいけど、仮に別れた時に身ごもってて子供でも産んでたら財産分与で大揉めですよ。っていうか小林稔侍もその確認のために来たんじゃないのか!?これをなんかよさげなオチにしようとするのって無理があるような・・・まあこのやり取りを見た本田翼が「やっぱ告白した方がいいわ」って思って友達に電話(一人芝居で)するんだけど。そう考えるといい話かも。
東京駅開業100周年は来年なのにこんな一年も前から記念映画を作るぐらいなら、一年の間に『ラブ・アクチュアリー』を何度も観直してから作るべきだったと思います。
