新人ファッションデザイナー達による地方創世論 2:デザイナーと工場の地域密着型協同作業 | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

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約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
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 前回資金的に余裕の無い新人デザイナー達がわざわざ家賃などの生活費の高い東京にアトリエを構える必要があるのかどうか問題提起しました。今回はその意義等について考えてみます。


<参照:新人ファッションデザイナー達による地方創世論 1:アパレルの生産拠点は地方にある


 ファッション関係者一般の多くは東京の中心に住んでいるため仕事以外の時間でも色々な“人”と会いやすい。つまりプライベートでの横の繋がりや”情報”交換などが容易ということが何よりもまず挙げられるでしょう。店なども集中しているため何か必要な“モノ”があれば直接見に行ったり買ったりして確認することも容易ですし、色々な消耗品(紙とかインクとかコーヒーとか、、、)などの配達システムなども機能しているためこちらから買いに行かなくても届けてもらえたりと何かと便利です。“人”・“モノ”・“情報”が集まっているという点において都心は絶対的な有利性を備えています。これらが仕事に直接影響し、常に必要ならば都心に事務所を構えないとあらゆる面で不利になります。が“デザインをする”そして“洋服を作る”上で、現実的にこれらの三条件は絶対に必要な事でしょうか? ファッションデザイナー(ここでは洋服を作る仕事と言った方が適切かもしれませんが)の本業を考えるとこの三条件は“常”には必要なものではないでしょう。それでも無理をしてでも東京でなければいけないと思うのは、それはただ単に“東京に住みたい”“都心に住んでいないとお洒落じゃない”がための言い訳にしているだけなのではないかと思うのです(何度も言いますが経済的に余裕が無いのに東京にこだわるのであれば、、、という前提です)。


 僕自身も大阪といういわゆる地方出身のため、東京に上京する時はやはり緊張もしたし楽しみでもありました。まだ東京をよく知らない頃は大阪だって十分に大きいと思っていましたが、就職のための面接で東京に行った時に東京の規模が大阪を遥かに上回る規模で大きく驚いたことは今でも鮮明に覚えています。大阪の中心地が山手線の各駅にあるような異様な感覚を覚えたものです。このように、いわゆる大都会東京に住む、生活するということがステイタスであり“お洒落な人”であるための必須条件になっているという空気は間違いなく存在します。ファッションに生きる人々にとって“お洒落である”“お洒落に思われる”ことを意識する事は大事なことです。しかも東京に住んでいると言っても多くの人は地方出身ですし、そんな人々がこういった空気に影響を受けやすいのは十分に理解できます。しかしながら、大都会に住んでいればいい服が作れるのかと言えばそれは関係ありません。それなら、パリよりロンドンよりニューヨークよりも人口が集まる東京からより多くの世に影響力のあるデザイナーが輩出されるべきでしょう。でも残念ながら実際はそうでもありません。つまり人が集まっている場所の方が素晴らしい創作活動ができるかどうかは直接的には関係がないのです。であるならば、必ずしも持つ必要がないプライドのお陰で自分が本来できるかもしれない創作活動が経済的な理由で妨げになっているのであれば、考えを改める必要があると思います。僕はファッションデザイナーは東京に住む必要なんてあるのだろうか? ということをここで提起したいと思います。ただし、デザイナーと言っても色々な種類がありますので、ここではデザイナーズブランド、つまり自分の個性やオリジナリティを全面に出して勝負したいと思っているデザイナーは、ということにしておきます。


 経済的に小規模だが自分のやりたいことを出来るだけ実現したい新人ファッションデザイナーには東京にあえて住まない事をお勧めしたい。なぜなら何度も言いますが第一に東京は家賃が高いからです。それならいっそのこと地方で広々としたアトリエを構えたほうがスペースの制限が途端に緩くなり、精神的にも創作活動にも間違いなく良い影響があると思います。しかし地方と言っても、どこでもいいというわけではありません。僕は工場地帯、もしくは生地生産地帯のすぐ近くに住む事を提案したいのです。そして実際に手を動かして作っている職人さん達と協同作業をして自分のコレクションを作り上げるのはどうか?ということなのです。


 今の時代全くの新しいものを創り出す事洋服においては特に容易ではありませんし、全くの新しいものを世の中が求めている訳でもないということも重要な点です。そうなると、安くてお洒落なファストファッションと差別化を図るためには、どこかの製造過程に目に見える明らかな違いを表現することが不可欠になります。その中でも一番視覚的に影響力があるのが生地(テキスタイル)だと思いますし、その生地をさらに縫製過程によってどう加工するか、どう装飾するかという過程にこそより時間とお金をかけるべきだと思うのです。それよりもモノを作る過程におけるちょっとした工夫による新鮮な発見、こういったことは工場の機械が作動している所を直接見たり実際作っている人達の手先を追いかけたり彼らのつぶやきを聞けば意外と気付く事がたくさんあるもので、自分の経験から言ってもそういう意味で工場はアイデアの宝庫でもあります。一般的な洋服の制作過程について言えば、デザイナーとパタンナーが洋服を作り上げていくイメージがありますが、そこに生地の専門家(ここではテキスタイルデザイナーという意味ではありません、本当に糸から生地にしていく過程を専門的に知っている人達です)や縫製の専門家の意見が今以上にもっと頻繁に入り込めばどうなるでしょうか?彼らがデザイナーと意見をもっと自由に交わせる様になれば、間違いなく今まで以上に面白いものが出来上がるに違いありません。


 ここで、東京にアトリエがあったとしてもデザイナーがたまに工場に直接行って話し合ったり指示したりしているのだから何が違うのだ?と思った人もいるかもしれません。確かに、新しいモノを開発する時は技術者との対話が必要ですし、頻繁に連絡をとったりたまに直接工場に出向いたりして会話する機会を設ける熱心なデザイナーさんもたくさんいらっしゃいます。しかし、デザイナーが都心部に住んでいる限り、時々行われる職人との意見交換は所詮ビジネス取引上のことであり、やはり地域密着型と比較するとコミュニケーションの密度が下がらざるを得ません。しかも地方と東京にある目に見えない壁や、日本独特の“デザイナー”という存在(何か得体の知れない職業、特別な職業といったような良い意味でも悪い意味でもある偏見)が現実的に存在します。しかも職人さんというのは閉じた自分達の世界で住んでいる人が多く、ましてや地方の工場などはインターネットの活用方法すらあまりよく判っていない所も少なくなく、自分達から外に発信しようという動きを残念ながらしない(出来ない)傾向にあります。だからデザイナー自らが彼らの殻を打ち破って行く必要があるのです。そして、どんな人間だって自分が必要とされていると思って嫌に思う人はいません。お互いに尊重し合って、しかもビジネス上だけの関係でなく、互いに等しい立場に立って意見をぶつけ合う様な姿勢に努め続ける限り、どれだけ閉じた職人もいつか間違いなく心を開いてくれるでしょう、いや開かせないといけないのです。最終的には全ては人と人との繋がりだと思うのです。本当に良い関係を築くためには、たまには相手の気に入らない事も言わなければいけないだろうし、喧嘩もするかもしれません。しかし、お互いに人間だからこそその様なやり取りがお互いに理解し合って頑張ろうという気持ちを高めるのだと信じています。距離があってももちろんこれらは実現可能ですが、経済的な問題のある新人デザイナーならば経済的には力が無いのですから、熱意で支払うのが一番賢い方法ではないでしょうか?だったら東京にいるより工場・職人に密着して作業すればいいのでは?


 次回に具体的に地方で工場と協同作業をすることの利点等を考えようと思います。



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