言語の壁 (5:“日本人”でいることは誰のためにもならない 後編) | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

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約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
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前回からの続きです。

参照記事:言語の壁 (1)

参照記事:言語の壁 (2:責任転嫁)

参照記事:言語の壁 (3:僕の外国語勉強法)

参照記事:言語の壁 (4:“日本人”でいることは誰のためにもならない 前編)



 2年半程“日本人”を通してきて嫌な事があっても不満があってもそれを伝える事が無く、反発せず働いて来た結果うっぷんが相当溜まって来ていました。その結果、土日を休めるかどうかを上司に聞いた所、「知らない、わからない、しかもそう言って先に休みを要求してくる態度が尊重できない」と言われ、とうとう僕は上司に対してブチギレたのです。会社を辞める覚悟で初めて反発をし、「言いたい事があるから日曜日にきっちり話そうじゃないか!」と伝えたところ、 上司は意外に冷静に「わかった、日曜日に話そう」と言ったきりでさらなる反発が来るかと予想していた僕には少し拍子抜けでした。そこからは、日曜日の戦(いくさ)に向けて入念な準備をし始めました。家に帰った後は、今までのどう考えても理不尽な事を挙げてまず日本語で箇条書きし、それを英語に翻訳する。どういうことを伝えないといけないか、どういう風に言うべきかをなどを入念に英語で準備しました。そして言い訳をされたり突っ込まれたりしたら、どう言い返すかなどの対策もばっちり予想しました。伝える事はしっかり伝えないといけないし、こちらの覚悟を見せなければなりません。そしてそれは前日の深夜まで続いたのです。


 いよいよ日曜日、戦(いくさ)の日、朝の10時だったでしょうか。会社の扉を明けると、上司が待っていました。僕は完全に戦闘態勢で気分も高ぶっています。おそらく相手も百戦錬磨の強者、こちらの中途半端な英語では簡単に論破されるかもしれない、だけどもこちらもこう言われればこう言い返そう、こう突っ込まれればこう反発しようとこの時のために入念に準備して来たのです。戦ってやる!そう思い会社に一歩踏み入れると、彼は僕を見るや否やミーティングルームの方に何も言わず入って行きました。それに従うように僕も後を追ってミーティングルームに入りました。戦の開始です


 二人とも1メートル半位の幅はあるかというテーブルを挟んで向かい合って座った後、上司がスタートを切りました。しかし、その表情、その眼は僕が予想していた様な、これから戦が始まるのだという精神状態から現れるであろうそれとは全く違った、やさしく、そして冷静なものだったのです。そして彼は意外にも全く落ち着いた声でこう言いました。「シュンスケ、言いたい事があるのであれば、全部はっきり伝えてほしい、それはシュンスケのためでもあるし、僕たちのためでもあるから。」、、、あれ??あれれ??完全戦闘状態だった僕からすると拍子抜けも良い所でした。彼は戦うどころか、むしろ僕を受け入れるかのような態度だったからです。こうすると、僕も急にまた“日本人”に戻ってしまって、なにか自分だけ怒り心頭だったのが恥ずかしくなり、それでも、話すべき事はせっかく準備してきたのだから話さないといけないと思い、用意した手書きのカンペをテーブルの上に、しかし相手には直接読めない様に開いて、それを時折確認しながら今まで我慢をして来た事、言いたくても言えなかった事、会社として改善してほしい事などなど、ゆっくりと説明を始めたのです。その間はこれといって何を言われる事も無く、戦というにはあまりにも静寂すぎるほどでした。そして全ての説明を聞き終わった後に上司は僕にこう言いました、「シュンスケの言ったことは理解できるし、改善できる所は改善するけれども、会社というのはそれぞれのやりかたがあるし、会社の進め方を急に変える事は難しいから、そこは理解してほしい」といったようなことを言い、その後こう続けたのです。「今回のシュンスケの意見には本当に感謝している。確かに始めは少しびっくりしたけど、今までの日本人はみんな自分の意見を言う事無く、仕事に満足しているのか満足していないのかわからないまま結局みんな辞めて行ってしまった。だけど、今回シュンスケから話を聞いて、みんながどう考えているのかがわかったし、これは本当にありがたいことなんだ。本当にありがとう」。心のうちを全部打ち明けても理解してもらえないのなら会社を辞めてやる、と戦を覚悟しながら数日間準備していた結果が、全くの予想外に終わってしまい、互いに血を流す事が無いまま平和条約を締結する結果となったのです。次回に続きます。



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