自己紹介:服の経歴 4(人生を変えた二人目のデザイナーの服に出会った東京時代) | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
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<前回の記事(服の経歴 3(購入と試着の大学生時代))の続きです


 2003年4月に東京に来てからというもの、まずはマルタンマルジェラ(MARTIN MARGIELA)というブランドの存在に少なからずショックを受けました。大阪にいる時から名前はもちろん知っていましたが、自分の周りには着てる人もいませんでしたし、興味を持つ事がありませんでしたが、東京に来て、同僚も友人も皆がマルジェラの話をしていたのです。僕はそこまでファンではないのであまり詳しい解説は出来ませんが、自分の受けた印象で説明するとその頃僕の好きだったいわゆるキレイな雰囲気ではなく、あえてそういった高級ブランドの持つ高級感やキレイさを皮肉った様なデザインで、今までの高い洋服が持つべき価値観をひっくり返す様な存在だったと思います(今は少し変わりましたが)。世の中がこういったいわゆる高級ブランドの価値観に対する新しい流れに彼の登場で注目していた時といえるでしょう。ただ、僕は個人的にジャケットが好きだったので、デザインとしては非常に個性的だったけれども着てみた時にそれほどのショックが無かったのが原因かどうかは知りませんが、結局日本では何も買った事はありませんでした。


 そんなある日、原宿のインターナショナルギャラリービームスのセールを見に行った時の事です。もともと大阪にいる時から知っていた、肩のラインが弓なりに沿った(コンケーブショルダーと呼んでいます)ジャケットを作る事で有名なブランドのジャケットを久々に会うことになりました。大阪にいた時も一度そのジャケットを試着した事があったのですがマックイーンと同じくらいの価格なのだけれども、自分の中で知名度が低かったのが原因で購入には至りませんでした。しかしコンケーブショルダージャケット好きの僕としては今一度試着したところ、衝撃が走りました。今まで色々なブランドのジャケットを試して来ましたし、マックイーンのジャケットが一番カッコいいし、マックイーンよりカッコいいジャケットを見た事がないことが自信だったのですが(その頃の浅い経験での話ですけど)、この瞬間一気にその自信が崩れ去りました。やばい、このジャケット、、マックイーンよりカッコいい!!そう思いました。狭い肩幅に程よく弓形にそり上がる肩のライン、脇下がすっきり見える袖、細いのだけど絞っているわけではないとても個性的なラインを描く前から見た脇のシルエット、胸回りがシャープにそしてすっきりみえる低く配された一つボタンの前開き、、、“個性的”の一言でした。外面はただのジャケットなんだけれども、今まで見た事が無いシルエットでしたし、マックイーン以来、そしてそれ以上の衝撃だったのです。


 この瞬間は、ただ単にすごくカッコいいジャケットを作るブランド、としてしか認識しなかったのですが、その後色々見て聞いてしていくうちに、メンズファッションという非常にデザインの幅が狭い中で、彼はたくさんの新しい視点を提案する本当の意味で“新しい服”を創るデザイナーだと気付いたのです。それが、僕の人生を間違いなく変えたデザイナー、キャロルクリスチャンポエル(CAROL CHRISTIAN POELL)でした。メンズクラッシックテーラード(いわゆるかっちりとしたスーツを基本とするスタイル)から外れる事が無く、ただクラッシックテーラードといえばデザイン面で大きな制限があるものですが、それを独特の素材感、退廃的な色使い、マニアが喜ぶ様なディティール、普段は気にする事が無い内側の仕立て、新しい縫い目のデザイン、そして挑戦的なパターン(型紙)、新しい皮革加工技術、コレクション全体にさらなる緊張感を与える展示方法、などなど、ほぼ全ての要素において新しい挑戦をし続けている、まさにデザイナーの立場を超えたクリエイターでした。僕はそのとき職業としてパタンナーでしたので、彼の服のパターン(型紙)がとにかく面白かったし興味があった。皆が常識と思っている事をいとも簡単にくつがえしてくるのです。センスという部分でも人並みはずれた物を持っているのは想像できましたが、頭脳もフルで使わないと出来ない様なインテリジェンスにも富んだデザインでした。建築学を多少かじって来た僕にとっての強みは“考えることで生まれるデザイン”をすること、と今でも思っているのですが、彼はまさにこの考えて出て来たアイデアと彼の独自のセンスが混ざり合って、本当に今まで存在しなかった空気を創り上げていたのでした。


 それ以来、キャロルクリスチャンポエルにがっつりハマってしまったわけです。この値段がまた驚くぐらい高く、グッチやディオール等の高級ブランドですら比較にならないくらい高いのです。当たり前ですが、新しい物を作ろうとした場合、それを実現するために実験(テスト、試作)をしなければなりません。洋服の世界に於いて、出来るとわかっていて詳細を詰めるための試作というのは普通にありますが、実現可能かどうかわからないモノに対して実験するということは普通ありません。なぜなら時間とお金が無駄と考えることが一般的だからです。しかし彼はそれをやっちゃうんです、いやむしろ彼はそれに挑戦する事が彼のスタイルなんだと思っているのだと思います。そんなこんなで没になったアイデアもそれはたくさんあるでしょうし、そう考えれば高い値段がつくのは当然でしょう。しかし幸いな事に、彼の服は大量生産が出来ないため流通量が少ないですが、その独特なスタイルのために根強いファンが世界中にいますし、特に日本ではよく扱われていました。これは日本人にはそういった価値を理解できる人が多いという証明ではないでしょうか?


 そして、どうしても彼と仕事がしてみたいという気持ちが日に日に強くなり、人に会う度にキャロルの特異さ、素晴らしさを相手がそれに興味があろうが無かろうが構わず熱く語り、、ってことをしていると、その時同僚で今でも親友のコネクションから何人かを経てキャロルで働く人とつながる事ができ、最終的に働く事が決まったのです。続きます。


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