昨日は洋服を作る過程におけるパタンナーの話、そして縫製の話をしました。その縫製の後、アイロンで仕上げる訳ですがこれも超重要です。アイロン仕上げもアイロン仕上げだけのプロが工場にいるくらいで、実はすごく奥の深い、そして超重要な仕事です。簡単に説明すると、生地というのは前日説明したようにタテ糸とヨコ糸で出来ているといいました。縫う時にこの糸の流れを乱すと、変な欠点が出てくることも説明しました(参照記事:洋服ができるまで (前編:テキスタイル、副資材とデザイナー))・(参照記事2:洋服のできるまで(中編:パタンナーと縫製過程))。それくらい生地を構成する糸をどう扱うかということが重要で、アイロン仕上げもこの糸の扱いに関わる技術なんですね。理論的にはこの糸と糸との隙間をアイロンの熱と蒸気そして張力で変化させるということなのですが、つまりはアイロン仕上げによって平らであるはずの布を立体に仕上げる事ができるのです。次に簡単に写真で解説させていただきます。
<元の平らな生地 糸の流れを確認するために縦横2cm間隔に線>
線でできた正方形の格子が真ん中の方は少し歪んでいるのがわかると思います。
<立体になった元々平面の布、横から>
![布アイロン処理横](https://stat.ameba.jp/user_images/20140607/07/s-teranishi/d7/85/j/o0567042512965325105.jpg?caw=800)
<立体になった元々平面の布、斜め上から>
実際の製品を仕上げる時のアイロンでここまでの極端な事はしませんが、平面の布も、布であるがゆえにアイロンで立体にすることが可能だということがわかると思います。工場で大量生産の場合はここまで極端にはしません。が、オーダーメードのスーツなどは、一着一着に手をかけて、特にこのアイロン処理を丁寧にすることで、立体感のある洋服を仕上げるので、一般的に量産型のスーツより高い値段になります。
パタンナーは服を構成する各々のパーツの形状を決定し、それらをどうやって縫い合わせるかの設計図をつくります。この過程で生地の特性である糸と糸の隙間を計算に入れながらどこを伸ばす、縮める、平らに処理する等を出来上がりを想定して設計図であるパターン(型紙)を作ることは前日説明しました。が、パターン(型紙)で表現できる立体感は服を構成する布全体ではなく縫い目に関わる部分だけになります。縫製者はこの設計図を実際に行動に移す仕事です。パターンはあくまで想定(設計図面)であるので、縫製の最中に色々な予想外な問題が起きたりしますが、それを縫う人の独自の経験とセンスで処理する訳です。うまくいけば、パタンナー通りの立体感が出ているでしょう。そして、最後にアイロンで、縫い目はもちろんの事、もともと平面であった布パーツ全体に仕上げの立体感を与えるのです。こうしてようやく洋服の完成です。
デザイナーが産んだ個性溢れるデザインが、無数の可能性の中から洗練されて作られた生地にのって、パタンナーの手により具体的な形が型紙に託され、副資材を適材適所に駆使しつつ、縫製者のセンスによって布の特性を活かされたまま姿を現し、アイロンの繊細な仕上げによって立体がより立体に変化することで、本当の意味での良い美しい洋服が仕上がる訳です。良い服はやっぱり高いということが少しでも理解していただければ幸いです。
その後、ファッションショーや展示会などでバイヤーや広報、雑誌関係者などに公開された後、注文を受け、オーダーの入った分だけ量産しなければなりません。量産で必要になってくるのは、サイズ展開(グレーディング)です。サイズ展開をするのも基本的にはパタンナーの仕事です。これはただ単純に小さくするか大きくするかの作業に見えますが、人間の体は身長が低くなったからといって同じ割合だけコピー機で横幅も縮小すればいいわけではありません。身長の増減と横幅の増減は比例しないからです。ですので、タテとヨコのバランスを考えて、デザインは一緒であるが、パターン自体は事実上全く別のものをサイズごとに用意しないといけません。今はコンピュータ(CAD:製図用のコンピュータプログラム)を使って一度どのようにサイズ展開するかをプログラムすれば後は自動的にできるようになりましたが、これを指示するのは人間であり、複雑なデザインになればなるほど元のイメージを崩さないようにデザインのバランス(ポケットの大きさとかボタンの位置など全体との兼ね合い等)を保ちながらサイズ展開するのは、容易なことではありません。
こうやって、サイズ展開されたものを工場に送り、生地、パターン、付属品(副資材)、必要な物を全て送り、納品を待ちます。納品されると検品し問題が無ければ、お店にようやく送られ、皆さんが手に取って見られるようになるわけです。
ここで挙げた例は、基本的なものであり、会社の規模や方針によって当然変わって来ます。ですが、ここでの主旨は、こだわってものを作ればこだわれる点は無数にあるし、その全ての過程でプロフェッショナル達の技術・知識が関わっている訳ですから、それだけお金もかかってくる、つまり川久保玲さんがおっしゃるように、良い物は高くならざるを得ない、ということを少しでも伝えられればということでした。次に洋服を見に行った時に、以前より少しでも興味を持って、いつもと違う所に眼を運ばせて、もっともっと洋服に親しみを持って接してもらえるようになれば、洋服を作っている一人として本当にありがたいなと思います。
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