洋服ができるまで (中編:パタンナーと縫製過程) | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

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約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
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 昨日に生地と服にまつわる付属品(副資材)そしてデザイナーの話を書きました(参照記事:洋服ができるまで(前編:テキスタイル、副資材とデザイナー)。その続きです。デザインが決定すればそれを実際に縫って作れる形に落とし込まなければなりません。つまり型紙(パターン)を作ることが必要になってきます。これがパタンナーの仕事です。


 洋服は体に合わせるために立体的になっていますが、よく見るといくつかの縫い目で縫い合わされていますね。この縫い目を全てほどき、バラバラのパーツにすると、全ては平らな布切れになります。この布切れはどこから来たかというと、布の反物を平らにして置いた所にパターン(型紙)を乗せ、それに沿って裁断した物なのです。ですので、パーツが多い服はそれだけパターン(型紙)の数も多くなりますし、複雑になります。既に存在する定番的な形(デザイン)の場合、型紙の形がだいたいどういうものかは知識としてありますが、デザイナーが全く新しいデザインを提案したら一からの勝負になりますそのデザインを実現できるか出来ないか、実現したとしてもどれだけキレイに実現できるかというところは完全にパタンナーの技術にかかって来ます。同じデザインでも100人いれば100種類のシルエット、着心地が出来上がる、それがパタンナーの仕事です。なので、良いデザイナーは良いパタンナーを抱えていると言われる位、デザイナーにとって自分の思った通り、もしくは思った以上の服を実現してくれるパタンナーがいるということがとても重要になりますし、お互いにセンスが合う、相性がいいということも重要になって来ます。


 では 実際にどうやって仕事を進めているのか、一般的な説明をします。デザインが決まったらデザイナーがパタンナーに実際に形にするよう依頼をします。デザイナーは仕様書・指示書を用意して、パタンナーに仕上がりのイメージを伝えます。外っツラだけでなく内側の仕立てをどういう風に始末するかということも決めなければいけません。裏地がある、無し、ポケットの有無だけでもパターンは変わってくるからです


 その後、パタンナーがパターン(型紙)を作成し、それを使ってトワルというものを縫います。トワルというのは、一回目からいきなりコレクション用の生地で作るとリスクが高いので、安価で先入観の入りにくい生成りや白といった色の生地でそのデザインのパターンを組み立てて、様子を見るための試作です。一般的に洋服は左右で同じ形をしているので、時と場合によって、半身だけ用意したり、左右共に用意する場合があります。そうやって出来上がったトワルをデザイナーと共に確認して、修正点を洗い出し(トワルチェックと言います)、パタンナーがまた修正をしてトワルを作り直します。修正の回数はデザイナーの気分(?)も影響したりしますが、やはりパタンナーの経験が豊富だとデザイナーの思っている雰囲気をより早く表現でき、時間とコストもそれだけ削減できる訳ですので、パタンナーの責任も相当大きいわけです。幾度かの修正の後、デザイナーがOKを出せば、本物の生地で縫います(サンプルと呼びます)。会社の中に縫製担当の人がいるときは会社内で、いないときは縫製工場に発注する訳です。


 洋服を縫うと言っても、聞こえは簡単ですし、ミシンも家庭に普通にあったりして、親近感がわきますが、実際のところ奇麗に縫えるプロってそう簡単にはいないんです。ここも縫う人のセンスが問われるところです。キレイに縫うってどういうことでしょう。僕の個人的な考えになりますが説明します。一般的な生地を斜め方向(バイアス方向といいます)に引っ張ると弾性があって伸びますよね、今着ている服を糸の走っている方向に対して斜めに引っ張って試して下さい。それは生地がタテ糸とヨコ糸から出来ているからで、斜め方向には糸と糸の隙間に伸びる余裕があるからです。


<生地の拡大イメージ>
生地方向



<生地をバイアス方向に引っ張った時のイメージ>
バイアス方向




 ですので、ミシンで縫う時にこの生地の糸の流れを読み間違えて上で言ったようにほーーーーんの少しでも伸ばしたり縮めて縫うと、やはり布の自然な流れが途絶えてしまい、変なツレや、シワ、波打ったり、小さくふくらんだりへこんだりと色々な欠点が出てしまう訳です。デザイン画では90度の直角なのに、とんがってしまったり、真っすぐなはずなのに曲がったり、カドであるべきが丸くなったりと、縫製担当者の繊細な指、感覚を持っているかどうかで仕上がりは本当に変わります。こういった欠点は小さなことなので、素人が見ても気付かないかもしれませんが、見える人には見える訳で(プロの仕事はプロが理解するワケです(参照記事:プロフェッショナルの意味)、高級な服ほどこういった所までこだわって作られているわけです。ちなみにパタンナーがパターン(型紙)を作る時も、より立体的な形を追究するために、この糸と糸の隙間やバイアス方向が伸び易いことを計算してわざと縮めたり伸ばしたりすることで豊かな形を求めて作ります。この点もこだれわればパタンナーによって結果の差が大きく出てくる理由の一つです。


 よく縫製の善し悪しを言う時に、糸がほつれたとか、糸が切って始末されていないとか、縫い目がほつれ易いとかそういうことを耳にしますが、それも確かに品質の一部ではありますが、本当の意味での縫製の善し悪しは、やっぱり生地の特性を殺さずに縫われているかどうかという所だと僕は考えています。しかも、工場ではいつも同じ生地ばかりを縫う訳ではありません。その時々に用意された生地の性質をいち早く読み取り、生地の流れを断たずに自然に縫える、これが技術の高い縫製者の証だと思います。今の会社はアトリエに縫製者もたくさんいますが(10人位)、みなさん上手ですが、特にうまい!と言われている人は2~3人で、彼女達はいつも難しい生地、デザインの仕事で手がいっぱいです!その中の一人は、「シュンスケのデザインは縫うのが難しいけど、だからこそ挑戦しがいがあるし、楽しいよ」と言ってくれたことがあります(イタリア人は褒めるのが旨いので、ただのヨイショかもしれませんが)。こういうプロフェッショナルが世の中にいるからこそ、”良い服”が世に出せるのだと思うのです


 このように、これだけ技術が進歩している世の中であるにもかかわらず、洋服は未だに人の手によって縫われています。それは上で説明したように、生地が変われば縫い加減を変えなければならず、しかも縫う形はデザインによって全て異なりますよね。人間の指先の感覚までは機械が真似は出来ないのでしょう。だから、キレイな服はやっぱり高いし、それは生地やデザインだけが理由ではないのですね。最後に、世界を代表する日本のブランドComme des Garçons デザイナー、川久保玲さんの言葉を紹介します。


「若い人たちが考えたり作ったりする楽しみや必要性を忘れていくのが心配なのです。たとえば、ジーンズ1本が何百円なんてありえない。どこかの工程で誰かが泣いているかもしれないのに、安い服を着ていていいのか。いい物には人の手も時間も努力も必要だからどうしても高くなる。いい物は高いという価値観も残って欲しいのです。」




 明日は縫製の後のアイロン仕上げの話、量産の話をします。



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