伝説を残した外国人 (後編) | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
https://arlnata.com/index.html


 前日にイタリアで約6年半の仕事上の経験から、日本では考えられない様な事をしでかした外国人の話を紹介しました。引き続き今日も紹介させて下さい。(参照記事:伝説を残した外国人(前編)


4 “プロのパタンナーになる気あるの?”

 パタンナーという仕事は型紙を作る技術職で、使用する道具はコンピュータを使わない限り鉛筆、消しゴム、定規、はさみは最低必要なものです。僕の場合はカッター、目打ち(紙などに極小さな穴をあける道具)、ルレット、マイパターンノッチャーなども自前で持っています。個人差はあると思いますが、他人の道具を使用するのって何か抵抗ありませんか?ヨーロッパでは結構共同で使えばイイジャン的な雰囲気があり、そのため僕のマイ~~を「ちょっと借りるねー」っていってガンガン使われたりします。これは個人的に嫌なので、個人もしくは会社に言って買ってもらうようにしています。ある時、 学校での評価が優秀だと噂だった彼がインターン候補にあがり、テストに来てもらった時のことです。落ち着いた感じで、礼儀正しく、初めに少し軽い面接を行った後、じゃあ実技に入るから、筆記用具は持って来た?って聞くと、「ああ、今日は何も持って来てないです」。え?鉛筆も消しゴムも?「はい、全部家に置いて来ました。」、、、。あなた、学校卒業してこれからプロのパタンナーになろうとしてるんですよね?パタンナーって何する仕事か知ってますよね?今日何するか知ってたでしょ?それでなくても筆記用具は社会人なら持ってくるものじゃないの?あなた、プロのパタンナーになる気あるの?僕はこの時点で彼の事を思って優秀だろうが何だろうが落とそうと決めました。だって、心構えが全くなっていないでしょう


5 “そんな条件は受け入れられない”

 アシスタントを探していた時の事です。友人の友人から履歴書が送られて来て、まだ学生だが自分で服を作ったり、知り合いの服を作ったりしている優秀な人がいると連絡があったのです。連絡を何回かとって、どういう人かを確認した後、この会社で働きたいという気持ちも伝わったし、縫うことも出来る、基本的な知識もありそうだったので、直接の知り合いじゃないので実際見て決めてくれと伝えながら会社に履歴書を回しました。しかしながら、その後会社から彼はとらないという話になりました。一般的に、どれほどの技術を持っていようと、確認無しにいきなりいい条件で採用する様なリスクをとる会社なんてなかなか存在しません。なので、彼にも初めはお試し期間の期間限定での採用になるけどいいか(当然です)、と聞いた所、「僕は、もうフリーランスとして働いているし、オフィスも持っていて色んなミシンもあるし、それらを使いこなす技術もある。だから、正規雇用しか認められない」と言ったらしいのです。ヨーロッパでキャリアの無い人間がテスト期間無しにいきなり正規雇用はありえません。だったら、引き続きフリーランスとしてたくさんのミシン踏みまくって頑張って下さい。そんなに技術があって実力があって若い人材がどうして今の今までどこの会社も採用しなかったんでしょうね?そもそもキャリアのない人間に必要とされるのは、信頼できる人間かどうかを示すことであり、実力うんぬんは後の話です(参照記事:新入社員の心構え。ヨーロッパは本当にこういった、自分のことを出来る人間だと思い込んで偉そうな主張だけする、学校での成績を過大評価する現実を知らない人が多いです。


6 “オレの将来を台無しにした“

 彼は学校でデザインを専攻していたため、パターンの知識はそれに相当する程度のレベルでした。ですが、すごく細かい作業を得意とし、寸分の違いも自分の中で許せない性格で、当初はインターンでデザイナー希望で来たのですが、ある時に自分にはパタンナーが向いていると気付き、パタンナーで頑張って行きたいということで採用になった経歴があるのです。ただ、仕事は細かいけどスピードが遅すぎたのです。当然の事ながら良いクオリティを効率よく作れること、これが非常に重要になってくる仕事です。ですが、彼はあまりにもスピードが遅いため、僕もどうすればいいかと困っていました。彼の仕事っぷりを逐一観察し、時間をかけるべき所、かけるべきでない所を見つけるたびに伝え、ある程度はましにはなっていきましたが、それでも遅い。彼の中で、どれだけ注意しても間違った物を作ったらどうしようという恐れがあったため、どうしても必要の無い確認作業を何度もしてしまう。パタンナーには緻密さが求められますが、彼の場合は細かすぎて逆効果という非常に珍しい性格でした。が、次第に僕は気付いてきたのです。結局これらの余計な作業は自分自身が満足をしたいがための行為なのではないか?つまり最終的には自分が満足しない限り見せたくないという非常に自己中心的な考えに基づく緻密さだと気付いたのです。将来的に技術も身に付き、仕事を任せられる立場になれば、そういったいわゆるエゴも間違いなく必要でしょう、自分で自分のブランドを持てばなおさら必要でしょう、ただ彼はアシスタントです。アシスタントの仕事はまずは“上司からの信頼を得るような仕事をすること”です。ただ、彼は“自分が満足できる仕事をすること”しかしなかった。最終的な話し合いの時、「君は自分のやっていることに自信が持てないから不安になるために、スピードが改善できないのだと思う。自信を持てるようになる事が一番大事だと思うし、君のその細かさは誰にも真似できる物ではない長所だから、パターンの学校に行って基礎的な知識、技術を学ぶ事、そして同時に周りの学生と自分を比較して、どういう所を伸ばすべきか、改善すべきかを見る事を強く勧めるよ。人事にもそのように正直に伝えたから。」と言いました。実際このままどこかで仕事を続けたとしても、結局同じ問題の繰り返しになると思ったからです。そうすると彼はこう答えました。「人事に伝えたって事は、僕は今後就職活動をしても、学校に行かないといけないレベルだと思われて、働きたくても一生仕事に就けないじゃないか!しかもシュンスケの言っている事は全く正しいと思わないおまえはオレの人生を台無しにしたんだ!と言われました。僕は真剣にどうすればいいか、彼の将来を思い、そして僕自身も今の彼の技術では一緒に働き続けられないと考えたあげく、学校に行けという提案をした訳ですが、それが完全に逆に捉えられて、人生を台無しにした!っていわれたんですね。さすがにショックでした。もちろん迷った挙げ句の決断でしたし、将来的に優秀になる見込みはあると思っていたので、自分の判断が100%正しいなんて思ってもいません。でもやっぱり彼は自己中心の完璧主義者で、自分のあるべき理想の姿に自分がないと満足できない、そういう人なのだなと思って、まあ思った通りやってくれ、、、と思うしかありませんでした。とにかく、どう言われようと僕にはもう一緒に続けることは無理だったのですから。


 他にも細かい事件は色々ありますが、ちょっと日本では有り得ない様なことだけを書いてみました。こうまとめてみると、やっぱり自己主張をするということは、時と場合と立場によって使い分けないとやっぱりだめなのではないのかなと思います。自分の立場を良くわきまえ、主張する所はし、改善すべき所は素直に認め、経験のより豊富な人間のアドバイスをひとまず実行し、そして自分の中で消化する。日本ではあたりまえだとは思っていますが、自己主張だけが先行しがちなのは、こちらでは非常に多く見受けられます。ただし 、出来る人(責任ある立場の人)も自己主張はもちろん激しいですが、他人(部下も含め)を認める姿勢も日本よりあると思います。個人的には日本とヨーロッパの7:3の7で日本に近いくらいの環境がベストだと思っているのですが、そういうのも無いものねだりというのでしょうか。




本日の記事に共感頂けた方、是非下をクリックしていただき、多くの人と共有できるようご協力お願い致します!!

人気ブログランキングへ