めまいの症状が落ち着くと首の痛みが増した気がする西郷特盛です。


暇でする事が無かったので過去の話しをしましたが明日からは首の本格治療が始まり警察の現場検証とスケジュールが埋まったので過去の話しは私の取り返しのつかない失敗を話して終わります。


皆さんは頭蓋骨の標本を細部まで見た事は有りますか?

頭蓋骨は脳を衝撃や外傷から守っているのですが構造は電気屋で買って持ち帰るパソコンと同じ。

包装紙が皮膚、段ボールが頭蓋骨、包むビニールが硬膜、緩衝材のプチプチがくも膜と考えて下さい。


しかし、このままでは使えない。


エネルギーを供給する電源コードが血管、プリンターを動かす外部出力ケーブルと情報を得る為のネット回線が神経ですが箱の中のパソコンに繋げるには箱に穴を空けなくてはなりません。

そこで頭蓋骨には何ヵ所か穴が空いて神経を繋いでいるのですが全身に信号を送る太い神経が背骨の中を通るのは有名ですが、これは首から下に信号を送っています。


なら首から上は?


目、視力は眼球の奥に脳に直接繋ぐ穴が空いていますが他は?


他に穴を探すと耳。

耳の穴の奥は頭蓋骨に繋がる穴が有り首から上の神経のほぼ全てが通っています。


聴力、平衡、嗅覚、味覚、発声、そして顔面。


顔面の感覚や表情を作る筋肉を動かす神経は耳の中を通る為に耳鼻科領域になり顔面神経麻痺で紹介状を持ち受診する患者のほとんどが脳外科では無く耳鼻科なのを疑問に思うようです。


そして顔面神経は平衡機能神経と近いので障害が発生すると目眩が同時に発生する症例が多く私が検査をするのですが


患者は13歳女性

顔面神経麻痺で入院3日目


担当医からは「落ち込んでいるから無理に検査を行わなくて良い」のメッセージが添えられていました。


彼女は検査室に入ると

「私の顔は元に戻りますか?」と言い泣き始めてしまいました。


神経が麻痺すると筋肉の力が低下して筋肉は伸びてしまい動く筋肉の残る片側に引っ張られ顔は歪んでしまう。

13歳では歪んだ顔を受け入れられないのは当たり前で絶望している。


患者への診療行為や治療は禁止されているがリラックスさせる為の会話は許されているので

「このページを読んで下さい『顔面神経麻痺は年齢が低いほど完治率が高い』と書かれています。だから望みを捨てないで」


彼女は泣くのを止めて検査に協力してくれました。

そして検査が終わると

「その本を貸してあげるから病気を理解してみて。自分の病気を知らないと病気と戦えないからね。解らない事は質問してくれれば教えてあげるよ」

彼女は少し笑顔になり病室に戻りました。


すると翌日、彼女は検査室に来て

「顔面神経麻痺の原因はストレスや細菌感染って書いてあるけど私は細菌感染じゃないよね」

と質問しました。

「医者じゃないから答えられないけど点滴に抗生物質や抗ウイルス剤は入って無いよね。なら、細菌感染じゃないと思うよ。顔面神経麻痺の原因はほとんどが不明だから今は医者の指示にしたがって神経機能の回復だけを考えようね」


そして次の日も検査室に来て

「発症から治療開始までの期間が短いと完治率が高いと書いてあるけど私は1週間してから入院だけど遅かったかな」


「10代の完治率は90%以上と書いてあるよ。今の君は打席に立てば投手が怖がる9割バッターで全打席ホームランの10割バッターになれるから治療を頑張ろう」


また笑顔で病室に戻り、それから毎日検査室に来ては

「耳のレントゲンの見方を教えて」

「私もステロイドの副作用が出るかな?」

「この検査の機械を見せて」

「標本が有ったら見せて」

「顔のマッサージやり過ぎて皮が剥けた」

と質問より遊びに来るようになり同時に少しずつ神経の回復が見られました。


外来が終わり昼休みになり彼女が来るとドアに新しく貼られたプレートを見て「えーっ、西郷さん室長になったの」と驚きの声をあげました。


「平衡機能の専門資格を持っているのは病院で私一人だから部下のいない一人親方だよ」

「でも凄い」


彼女は自分の事の様に喜んでくれました。


そして

「悪いけど明日から10日間休むから完治して退院の時は見送れないよ」

「どこか行くの?出張?」


「結婚式と新婚旅行で北海道。結婚祝いで教授が室長の肩書きをくれたんだよ」

「おめでとう」と笑顔の彼女と別れ


翌日、私は結婚式を上げ新婚旅行に出発して北海道を満喫して土産を沢山抱えて出勤したのですが看護師から

「西郷さん、彼女に何をしたの?」


彼女は私と別れた後、ベッドで泣き続け治療の継続を拒否して本人希望で退院したそうです。


それからは

「女心が分からないの!」

「デリカシーが無い!」

「13歳は夢見る乙女なの!」


と馬頭されました。


おい、おい、おい、相手は年齢ダブルスコアで去年までランドセルを背負っていた子供だぞ。

と、言い返そうと思いましたが看護師長の


「西郷さんも若いから、娘を持てば理解しますよ」


で収まりました。


彼女のカルテを見ると

2週間分のステロイドが処方され退院とだけ記入されていました。

親が強制的に飲ませれば完治の可能性は高いのですが拒否していたら…。

 

以後、彼女について何の話しは出ず彼女の現在を知りません。


あれから30年、彼女は幸せになっているのでしょうか。

今でも気になる出来事です。



そして今日のランチは

スーパーで80円で売っていた。



めまいが落ち着いたので料理を始めたいと思います。