システム開発の見積もりブログ -10ページ目

特許庁の新情報システム開発の損失を見積もる

朝日新聞デジタル:費やした55億円、水の泡に 特許庁がシステム開発中断 - ビジネス・経済
http://www.asahi.com/business/update/0124/TKY201201240616.html

動かないコンピュータ 特許庁 “野心的な”システム構想が頓挫133億円投じるも稼働のメド立たず | 日経コンピュータ | 日経BP記事検索サービス
http://bizboard.nikkeibp.co.jp/kijiken/summary/20090826/NC0737H_1502825a.html

【経済】特許庁、2006年開始の新情報システム開発を中断…55億円が水の泡、枝野氏「申し訳ない」:特定しますたm9(`・ω・´)
http://www.tokuteishimasuta.com/archives/5767606.html

 

これ、結構以前から言われていた話で、単純にデータベース検索ができればいいですよね?という話。なので、「基本設計ができあがらない」というのは、よっぽどデータベース関係ができない連中が集まった、という話です。ちなみに、新聞で言うところの「基本設計」というのは、IT業界で言うところの「詳細設計」のことで、要件定義以降、コーディング直前の、「システム構造設計」、「外部設計」、「内部設計」などなど、もろもろの 設計 をひとまとめに表しています...つー、ちょっとアレなまとめ方です。自動車製造で比較すれば、車の設計から、工場生産直前まで、のことを示すのですが、ソフトウェア開発の場合は、いわゆる「設計」の期間が長いですからねぇ。あまり一般的な製造業等は違います。ちなみに、このシステムの製造工程は、どこに発注する予定だったんでしょうねぇ。東芝ソリューションを元請として(当然、東芝ソリューション自身は作らない)、子会社に発注、子会社から中国へ発注ってな感じだったと思われ。

ちょっと、疑問なのが2年間前の段階で「133億円」投じていたのに、今年の段階で「55億円」の損失、としている点です。後で、2006年頃の記事でもあれば、探してみるということで。

# 余談ですが、「ア」の字は、アテにならないので、「ア」の字が入ってきたら逃げるののがIT業界の常識ですね。

さて、開発期間5年間(60ヶ月)、総予算55億円で試算したのが次の表です。


image

単価は、SE 費用なので、200万から150万/月というところ。コンサルティングは、500から300ぐらいなので、もうちょっと掛かりますが。人数的に誤差範囲(多くて20名程度)なので、外しました。分離発注なので、発注先の単価に左右されますが、まあこれも適当な数値で。

この手のプロジェクトでは、ハードウェアが納入されるのが常なので、ソフトウェア比率は5割にしています。

そうすると、5年間、約300人の人が稼働したという計算になります。

かの三菱銀行の移行プロジェクトが、2000人級の巨大プロジェクトなので、小さいほうですね。200人と言えば、そこそこ大きなプロジェクトではありますが、東芝レベルの会社であれば、十分廻せるマネージメントの人数です。

となると、失敗の主原因は、システムのむずかしさというよりも、管理の悪さにあるでしょうねぇ。

たかだか、特許庁の検索システムなので、銀行のオンライン処理のようなリアルタイムな処理は必要ありません。ある程度、大規模なデータベースを使うのでしょうが、基本は検索とちょこっとした更新があるぐらいなので、これはどうにも...という具合。

想像するに、あれこれと新技術を提案しておいて、2006年頃だから ajax とか、リッチクライアントとかを提案して、UI の複雑さに内部システム構造設計が追い付けなかった、というのが想像できます。ええ、想像にすぎませんが(笑)。

 

ちなみに、「税金の無駄遣い」と言われるとは思いますが、まぁ、無責任な言い方をすれば公共施設の「ピラミッド作り」と同じ、雇用対策と思えば、安い値段ではないでしょうか。ただ、設計段階でアウトになってしまったので、潤ったのは SIer と子会社だけなんですけどね。毎年の道路補修工事と同じかもしれません。

高給を貰う理由と高給を払う理由

自営業やらフリーランスの場合はちょっと違うのですが、ひとつの会社という組織の中で、

  • 高給を貰いたい、社員
  • 高給を支払いたい、経営者

とは思惑が違うのですよ、という話をひとつ。

会社員の場合、コネやら植木等風のごますりやら、を使わずに「高給」を得たい、と考えるハズ...ですよね多分。

で、正当な形で「高給」を得るために、残業をしたり営業を頑張ったり、別なモチベーションに支えられたり(これが一番多いのですが)します。最低限の生活費を稼ぐという意味では、リストラされないという底辺(あるいは平均値)で過ごすのもひとつの方法ですが、ここでは、「高給」を得たいという社員を仮定してみましょう。

いわうゆる、社員にとって「高給」というのは「餌」です。言い方は悪いですが、餌が少ないと腹が減る、もっと欲しい、という具合ですね。本物の餌とは違うのは、腹いっぱいになったときに「餌」がいらなくなる、という比率が低いことです。当然、高給を取りたい社員も2パターンああって、

  • ある程度、高給が得られれば十分
  • それ以上の高給を得たい

に分けられます。ここでは、命を懸けても高給を得たい...という社員は省いておいて、「ある程度の高給が得たい」という社員を考えましょう。

この社員は、現行の給与では「不満」であり、もう少し収入を得たいと常々思っています。

でも、労働に見合う収入が得られなければ、不満ではあるけれど現在の収入で満足する、ということにします。

 提供する労働力 < 収入

ということにしたい、わけですよ。

ただし、労働力は時給だけではなくて、

 提供する労働力 > 収入 だが

 提供する労働力 < 収入 +α

であれば、よいというパターンもあります。

「+α」のところは、福祉施設だったり、社員の特典であったり、技術志向であたったり、やりがいだったり、まぁ、諸々です。

ここでは、金額に換算されにくいものを想定していきましょう。

 

一方、高給を支払う経営者を考えてみましょう。実は、この言葉は矛盾していて、経済的な視点から言えば、「できるだけ低賃金で、できるだけ働かせる」というのが経済的に(経営者に)価値があることなのですが、時において、

  • 社員に高給を提示して、新しい計画に参加させる
  • 外部に高給を提示して、新しい社員を増やす
  • 社員に高給を与え、働かせ続ける。

というパターンが考えられます。最後のパターンは、

 提供される労働力 > 給与

でありさえすればいいので、会計的に決着がつきます(収支計算をすればよいという点で)。

問題は、新しく「高給を提示」する場合です。

もちろん、このパターンも、3つ目と同じく、提供される労働力が支払う給与よりも多ければ良いのですが、違いは、高給を提示した段階では「提供される労働力」は確定していないということです。3つめのパターンは、労働力=会社の収入を割り算すればよいのですが、1と2のパターンは、会社の収入は予想でしかないのですね。

で、経営者は考えるわけです。

 予想される収益 / 社員数 > 提示する高給

であればよいわけです。勿論、お金に換算しにくいもの(「投資」という意味で)を追加すると

 (予想される収益 +α) / 社員数 > 提示する高給

ということになります。

この式を、先の社員の式と合わせてみましょう。

 (予想される収益 +α) / 社員数 > 提示する高給

 提供する労働力 < 収入 +α

となるので、

 (予想される収益 +α1) / 社員数 > 提示する高給 > 提供する労働力 -α2

 α1:経営者が考える付加価値

 α2:社員が考える付加価値

この式を満たすためには、

α1とα2がともに、大きくなればいいわけです。

これが何を示すかというと、「経営者と社員が考えている付加価値が同じ」であれば、「高給」自体を低く抑えられる、ということですね。社員から見れば、平均的な給与であっても働き甲斐のある職場ということになります。

α1とα2が小さい場合は、経営的には安定しますが、時給的な職場になります。

α1が大きくて、α2が小さい場合は、経営者の夢は大きいのですが、収益が成り立たなくて破綻します。

α1が小さくて、α2が大きい場合は、夢いっぱいの社員ががむしゃらに働いてくれるので、経営者は大満足です。株主もね、という具合。ただし、提供する労働力が相対的に低くなってしまうと、予想される収益が減ってしまい、会社は倒産してしまいます。

 予想される収益 = 提供する労働力 x 社員数

という関係がありますからね。

 

そんな訳で、経営者が示す「高給」には、ちょっと注意を払いましょう、という話でした。

優越感を利用する商法を支える手法

たぶん、TV でも解説があるので、既に知っている方も多いと思いますが、モバゲーやGREEの SNS ゲームの商法は、無料と有料との組み合わせになっています。普通、商品を売れば有料だし、ネットで公開されるものは基本無料であったり、有料のアイテムを買ったり、という風に、有料と無料とのはざまがあるように見えますが、実は、

  • ひとりのユーザーが、無料から有料へと進む

のではなくて、

  • あるユーザーは、無料で遊び続ける、あるいは途中でやめる。
  • あるユーザーは、有料で遊び続ける

という具合になります。あるユーザーというのは、別の人物で、有料から無料、逆に無料から有料に移るわけではない、という前提で仕組みが組まれています。

有料のユーザーというのは、アイテムを「有料」で買って、ゲームを有利に進めます。有利に進めることによって、他のユーザーとは違った「優越感」を持てるわけです。時間を買う、というパターンもあるのですが、大抵の場合はギャンブルと同じく「お金をつぎ込む」という感じですね。

逆に、無料のユーザーは、無料で遊ぶままで良いのです。もともと有料で遊ぶ気が無い、あるいはギャンブルにお金を突っ込むタイプではない人は、無料のままでも構わないのです。

なぜ、無料のままでも良いかというと、SNS のゲームの場合は、一定の「母数」が必要なります。以前まで、この母数は「にぎわい」という、集客的な効果を狙ったところでもありますが、これだけ SNS という分野が広がってくると、母数の確保は十分なので、ゲームをするときの有料ユーザーから見える母数という見え方になります。

つまり、一定の有料ユーザーがいて、その有料ユーザーから見える多数の無料ユーザーがいればよい、というスタイルですね。この母数は、100万人でも10万人でも構いません。ひとりのユーザーから見える母数があれば十分です。

実際、ちょっとイメージしてみましょう。

  • ゲームユーザー、10人中1位である。
  • ゲームユーザー、100人中10位である。
  • ゲームユーザー、1000人中100位である。
  • ゲームユーザー、10000人中1000位である。

この場合、イメージとしては「100人中10位」というのが、優越感が高い効果が得られます。割合としてはどれも同じなのですが「10000人中1000位」というのは、随分ランクが低いなぁ、という感じですよね。

この「イメージ」が重要で、実は、ランキングをするときには、

  • 10位以内
  • 100位以内

ぐらいまでが妥当なわけです。それ以上になると、同じ割合でも、なんかランクが低いように見えてきます。

また、先の割合では、上位10%ですが、もう少し絞って、上位1%と比べてみましょう。

  • ゲームユーザー、10人中1位である。
  • ゲームユーザー、100人中1位である。
  • ゲームユーザー、1000人中1位である。
  • ゲームユーザー、10000人中1位である。

どこかの大臣の言葉じゃないですが、「本当に1位がすごいんですか?」という状態です。1000人中1位もすごいけど、10000人中100位以内でも結構すごいですよね。上位1%というのは、イメージ戦略としては良いのです。逆に、これ以上絞ってしまってもあまり意味はありません。

となると、ひとつの SNS ゲームに対して、上位1% 位が「優越感」を得られエル範囲である、と仮定できます。

この仮定を利用して、ユーザー数1万人の会員、有料ユーザーが100人、というパターンを考えてみましょう。

  • 単なる会員だけでもよいので、無料ユーザーを1万人集める。
    (スタートアップは、無料コミュニティの買い上げでもよいでしょう)
  • 有料会員 100 名により、運営費を賄う

という具合です。

さて、有料会員は、どれくらい支払うのかというと、1,000円/月と仮定しましょう。プレミアムユーザー プラス アイテムをちょっとだけ買う、というイメージですね。そうなると、総額としては、

 収入 = 100名 x 1,000円/月 = 10万円/月

という具合ですね。

月10万円というのは、運営費としては非常に低いので、結構な赤字運営です。

これを、月100万円レベルの収入にアップさせる場合は、2つの方法が考えらえます。

  • 会員数をスケールアップする。
    → 10万人の会員で、1000人の有料ユーザーを目指す。
  • ゲーム数を増やす
    → 1万人の会員のままで、10個のゲームを作る。

という具合です。

会員数のスケールアップは、一見 SNS の得意とするところに見えますが、実は違います。確かに、母数が多くなり、割合が増えると有料会員も増加するように見えますが、実は優越感の割合が下がってしまうのです。

  • ゲームユーザー、1万人中100位である。
  • ゲームユーザー、10万人中1000位である。

との違いは、実は大きいのです。100位以内に入れないようであれば、ギャンブルとして面白くないでしょう?なので、お金をつぎ込むユーザーは減ってしまう、と考えられます。

なので、実は母数はそのままにしてゲーム数を増やす、というのが正解です。

SNS の場合、会員数を増やすのもそうなのですが、ある程度ゲームを揃えておいて、有料会員を分散させるのがミソです。「優越感」を買うためには、

  • ある程度のお金を支払えばよい。
  • 優越感が得られるランキングに入る。

という条件を満たせばよいのです。

こんな仕組みは、TV の特集に出ていなかったので、一応、晒しておきます、ということで。小学生が親のクレジットカードを使うなんてのは、ほんの一部の話で、SNS ゲーム側としては、上記の仕組みを使っているわけですね。