アメリカのロサンゼルスに住んでいた時、日本の活字に飢えていた。今のようにインターネットで、世界中の記事が読める時代ではなかった。ダウンタウンにあるリトルトーキョーには、紀伊国屋書店が入っていて日本の本や雑誌が買えるが、輸送費がかかっているので、何倍も高かった。なので、週刊文春を買うと隅から隅までていねいに読んだものだ。

 

 長女を妊娠して、グレンデールからサンゲーブルに引っ越した。日本語のできる中国人の産婦人科医がサンゲーブルにいたことも引っ越しの理由の一つだ。サンゲーブルには日本人駐在員が多く住んでいて、日本のスーパもあった。産婦人科医の陳先生は、東大で日本の医師免許をとった優秀な先生だった。

 

 通っていたロサンジェルス州立大学を妊娠のため産休をとって暇だったのもあって、近くの図書館に行ったら、たくさんの日本の本があったので驚いた。多分、駐在員が寄付したものだと思われる。だいたいが時代小説だった。一番多かったのが、池波正太郎の『鬼平犯科帳』だった。ほぼ全巻揃っていたと思う。夢中で読んだ。深川って人情があって良さそうだなと思っていた。

 

 その第11巻に火付盗賊改方同心・木村忠吾の好物の豊島屋の一本饂飩の描写がある。「親指ほどの太さの一本うどんがとぐろを巻いて盛られていて、柚子や摺胡麻、葱などの濃目の汁で食べるのである」

 

 よくわからなかったけど、『鬼平犯科帳』にでてくる食べ物はみんな美味しそうに思えた。縁あって、今はその深川に住んでいる。

 

大正6年創業の日吉屋は、そばをそばの実より自家製粉している。1本うどんを食べたいとずっと思っていたが、改装で長い間休みだったり、自分のスケジュールと会わなかったりで行けてなかったが、たまたま家族が皆、外出して昼食を作らなくてよかったので、行ってみた。

 

できるまでに時間がかかった。この1本ウドンは、江戸時代と同じ作り方で、作られているそうだ。

 

正直に言って、ウドンは、味のないお団子を食べているようで美味しくなかったです。周りのエビや蒲鉾などは美味しかった。でも、本で読んだものを食べることができたし、見た目がインパクトがあって、オーダーしたかいはあった。目で鑑賞した江戸のアートかも。

 

玄関ポーチのクチナシが一気に咲き始めた。良い匂いがする。

 

隣のナスタチウムも満開だ。ナスタチウムは食べられるので、水やりの時に一葉ちぎって口に入れている。苦いのだが、なんかはまる。