第5914回「さびしんぼう 大林宣彦監督 その2、ストーリー、ネタバレ 富田靖子 山中恒原案」 | 新稀少堂日記

第5914回「さびしんぼう 大林宣彦監督 その2、ストーリー、ネタバレ 富田靖子 山中恒原案」

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 第5914回は、「さびしんぼう 大林宣彦監督 その2、ストーリー、ネタバレ 富田靖子」です。原案とは関係なく、章とサブタイトルを付けさせていただきます。


「プロローグ ヒロキの回想」(セピア色に描かれた尾道の光景をバックに)

 井上ヒロキ(尾美としのりさん)の長い長いモノローグから始まります。父親(小林稔侍さん)が無表情で寡黙なこと、タツコ(母親、藤田弓子さん)が勉強とピアノを強要する教育ママでこと、家がお寺であること、そして、カメラが趣味であること・・・・。


 そのカメラのファインダーがとらえた"さびしんぼう(富田靖子さん)"は、「別れの曲」を毎日弾いていました。


「第1章 悪友たちとの楽しい日々」

 ヒロキは、写真が趣味のため、アルバイトは必須でした。勉強、勉強と言い続ける母親の御命令だけでなく、月に一回は本堂の大掃除があります。ヒロキは、親友ふたりの応援によって何とか掃除を済ませたのですが・・・・。


 その際、母親のアルバムから大量の写真が散らばったのです。3人は、あわてて回収します。大きな伏線になっています、実は一枚だけ回収できなかったのです。


 翌日、理科室に集まった親友三人は、実験教材のバーナーですき焼きを始めます。しかし、簡単に、教師(岸部一徳さん)に見つかりました。罰として校長室の清掃を命じられます。校長の飼っていたオウムに、高校生らしいいたづらをします・・・・。(笑えないエビとソードです)。当然、三人の保護者が呼び出されます・・・・。


「第2章 "変てこなの"出現」

 そんな時に、"変てこなの(富田靖子さんの二役)"が現れたのです。当人は"さびしんぼう"と称しています。しかし、ヒロキが"さびしんぼ"と呼んでいるのは、ファインダー越しの彼女だけだったのですが・・・・。"変てこなの"は、ドーラン化粧をしているのか、顔は真っ白です。そして、オーバーオールを着ており、16歳だと自己紹介します・・・・。


 最初の夜はあいさつ程度だったのですが、その後、、始終現れます。最初は、"変てこなの"が見えるのは、ヒロキだけだったのですが・・・・。しかし、"変てこなのが見えるのか、"ばあちゃん(認知症寸前、浦辺粂子さん)は、"変てこなの"をタツ子だと言います、ボケているのでしょうか。ですが、ヒロキも他人ごとではありませんでした変てこなの"との会話は、第三者から見れば、単なる独り言だからです。


 そんな中にも、ヒロキにはうれしいことがありました。"さびしんぼう"はフェリーで利用しているのですが、乗り場から女子高までは自転車通学でした。道ですれ違い、目があいます。"さびしんぼう"は目礼し、通り過ぎていきます・・・・。


「第3章 タツ子、錯乱す」 

 タツ子は、ヒロキの勉強が進まないことと、いつまでもピアノが上達しないことに苛立っていました。それに加えての、例の"独り言"です。ヒロキのクラスメートを寺に招きます。優秀な女子生徒でした。ところが、これまで不可視だった"変てこなの"が、タツ子に見えたのです。


 「あんた、ここで何してるのよ?」、"変てこなの"のお尻を叩くと、自分の尻も痛くなります。頭をぶつと、自分の頭も痛くなります・・・・。"変てこなの"が見えない女子高生にとっては、タツ子の気が狂ったとしか思えません。


 翌日、クラスでは「ヒロキのかあちゃんがパーになった」との噂で盛り上がっていました。もちろん、あの女子高生が言いふらしていたのです。ヒロキは、火消しに躍起になります。口うるさいだけのおばさんの母親ですが、ヒロキなりに愛していたのです。「あのかあさんにも、青春があったんだろうか?」、常々疑問に思っていたのですが・・・・。


「幕間 タツ子の同級生、テル子来訪す」(正月)

 テル子(樹木希林さん)が娘(小林聡美さん)を連れて、タツ子を訪ねてきます。ところが・・・・。テル子にも娘にも、"変てこなの"が見えたのです。大騒動になります。しかし、テル子は、"変てこなの"に見覚えがあったのです。タツ子が高校時代に演じた劇「さびいんぼう」にそっくりだと言い出します・・・・。


「第4章 ヒロキ、"さびしんぼう"を島まで送る」(節分)

 "さびしんぼう"との2度目の出会いは、坂道でのことでした。彼女が乗っていた自転車のチェーンが外れて困っていたのです。ヒロキは直そうとしますが、直りません。そこで、後輪を上げてフェリー乗り場まで運ぶことにします。しかし、今日のヒロキは、強気でした。フェリーに乗り、自宅まで運ぶと言い出したのです・・・・。


 島についても、自宅まで運ぶと申し出ます。直前まで来ましたときに、今度は"さびしんぼう"が、はっきりと「ここまでで結構です」と拒否します。ただ、道々彼女と話し合いました。名前も分かりました。橘百合子だと自己紹介します・・・・。


 この映画は、後日談を除くと、ヒロキが高校2年の秋(?)から翌年の2月15日までが描かれています。"変てこなの"との別れが迫っています。親友からからかわれていたのですが・・・・。「ヒロキ、おまえ、変なのから好かれるな!」


「第5章 創作劇"さびしんぼう"」(バレンタイン・デイ)

 その後、"さびしんぼう"こと百合子は、ヒロキを避けていました。そして、バレンタインデーがやってきます。"変てこなの"が、プレゼントを差出したのです。中身はチョコレートでした。チョコレート・アレルギーのヒロキは、邪険に振り払います。チョコレートは畳の上に散らばります・・・・。


 しかし、それは、百合子からのプレゼントだったのです。「あの日、うれしくて、何度も微笑みました。ありがとうございました。ですが、これだけにして、お別れしてください。  橘百合子」と認(したた)められていました。


 "変てこなの"は、「明日、17歳になるんだ。もう現れられない」と別れを告げます。もはやタツ子であることを隠さない"変てこなの"は、高校2年の時に演じた創作劇「さびしんぼう」について話し始めます。


 「"さびしんぼう"って少女が、勉強ができてピアノの上手な同級生を好きになるの。しかし、結ばれませんでした。その少女は長じて、平凡な結婚をして子どもまで生まれたの。そして、かつての好きな人の名前をつけたの。人を恋(こ)うるひとは、みんなさびしんぼう。」


 母親に奨められ、ヒロキが風呂に入っていると、父親も入ってきました。そして、普段は寡黙な父親が、雄弁に妻であるタツ子について語り始めます。「かあさんのことは、すべてが好きで結婚したんだ。だから、彼女の思い出もすべて受け入れている。"別れの曲"も、タツ子がいつも口ずさんでいたので、すっかり覚えたよ」


「第6章 "変てこなの"との別れ」(2月Ⅰ5日、タツ子と"変てこなの"の誕生日)

 翌日、クリスマス・プレゼントとして渡そうと考えていたオルゴールを持って、ヒロキは島に渡ります。すっかり日が暮れています。幸い、百合子と埠頭で会うことができました。着物を着ていました。オルゴールを渡します。ピアノの形をしたオルゴールに入っている曲は、"別れの曲"でした・・・・。


 「ありがとう、ここでお別れします。あなたが好きになったのは、こちら側(右側)ですよね、最後も、こちら側だけを見ながら、見送ってね」


 寺に帰った時には、雨が降っていました。階段で待っていたのは、"変てこなの"でした。彼女は、ヒロキに肩に顔を埋めます・・・・。「17歳になったから、もう会えない。最後にお別れを言いたくって・・・・」、気がつくと"変てこなの"は消えていました。


 翌朝、タツ子が階段を掃除している時に一枚の写真を見つけ、息子のヒロキに見せます。「この写真、風に飛ばされ境内中を飛び回った後、昨夜の雨でここに落ちてきたのね。なぜか、涙でメイクが落ちているように見えるわ」


「エピローグ そして、・・・・」

 十数年が経過したのでしょうか、ヒロキは住職になっていました。お経をあげるヒロキの右後方には、妻が座っていました。顔の左側をむけて・・・・、百合子にそっくりでした。


 本堂の隣にはピアノが置かれているのですが、セーラー服姿の女子高生が、「別れの曲」を弾いていました。百合子と異なるのは、ショートカットだったことだけです。ピアノの上には、あのオルゴールが置かれていました。


 「ひとを恋うるものは、みんなさびしんぼう」


 エンディング・ロールが流れます。「別れの曲」をポップにアレンジした歌曲を、"変てこなの"が歌います・・・・。


(補足) ふたりの"さびしんぼう"については、いずれも"さびしんぼう"と表記すべきだったのですが、区別をつけるために、あえて"さびしんぼう"(百合子)と"変てこなの"(16歳のタツ子)に書き分けました。"変てこなの"は、写真の化身でしたので、水に弱いという弱点がありました。それがラストに活きています。


(追記) 感想につきましては、"その1"に書きました。

http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-11484605288.html